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「質問型リーダー」がしない"3つ"のこと

「質問型リーダー」がしない
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30年近く前、私は中学校で社会科の「教師」をしていました。仕事は、社会科を教えること、つまり「ティーチング」ですが、同時に一人ひとりの能力を高めようと、生徒に「コーチング的なコミュニケーション」も交わしていたと思います。

私は年に数回、ゴルフのコーチとラウンドをします。「コーチ」は、もちろん「コーチング」が仕事ですが、実際には、どうスイングするか、ボールを打つかという「アドバイス」や「ティーチング」が多くを占めます。

つまり、私たちは「コーチング」と「ティーチング」を異なる手法だと認識していながらも、日々のコミュニケーションでは、両者が複雑に入り組んでいるのが現実だと言えるでしょう。

もともと、アドバイスやティーチング、あるいはコーチングをする目的は、新しい情報を示したり、気づきを起こしたりすることで相手の視点を変え、行動を変えることです。

行動を変えることで、より高い生産性を実現し、パフォーマンスを向上させ、いち早くゴールを達成したいのです。

アドバイスの功罪とは?

アドバイスに関する興味深い記述があります。

「アドバイスしてもいいかな?(Can I give you an advice?)」というフレーズだけで、人は、防衛体制に入り、暗闇で足音が聞こえたときと同等のコルチゾールを分泌する、というものです。それは、人の脳は、アドバイスする側が「私の方が偉い」と、自分の優位性を主張している、とみなすからだそうです。(※1)

つまり、「アドバイス」は、相手が求めている場合には、視点を変えたり、選択肢を増やしたりするなど、有効に働きます。しかし、この研究のように、「アドバイス」が相手の防衛を強める影響があるのだとすれば、私たちはその使い方には気をつける必要があるでしょう。

さらに、コーチング研究所のリサーチでは、「質問型リーダー」と「アドバイス型リーダー」の部下や同僚の状態を比較すると、

「ビジョン構築」
「目標設定」
「積極的な関係構築」
「情報共有」
「積極的な提案」

などの項目において、「質問型リーダー」の部下や同僚の方が、積極的な姿勢がみられるという結果となっています。(※2)

「質問型リーダーの部下や同僚」と「アドバイス型リーダーの部下や同僚」の "自身の状態"の認識差 上位5項目
自身の状態 平均値 差分
A B
1 ビジョン構築 私は、自分の将来の目標やビジョンを持っている 5.6 5.2 0.4
2 目標設定 私は、自分から積極的に目標を立てて挑戦している 5.5 5.2 0.4
3 積極的な関係構築 私は、目標を達成するために、積極的に必要な人物と関わりをつくっている 5.5 5.2 0.3
4 情報共有 私は、自分が気づいた課題や役立つ情報をいつも周囲に話している 5.4 5.1 0.3
5 積極的な提案 私は、自分のアイデアを上司や同僚に積極的に提案している 5.4 5.0 0.3

A : 質問型リーダーの部下や同僚(n=311)
B : アドバイス型リーダーの部下や同僚(n=327)

(小数点第2位を四捨五入)
7段階評価(1.全くあてはまらない-7.とてもよくあてはまる)
n=638
コーチング研究所調査2016年

確かに、ティーチングやアドバイスは、いろいろな場面で有効に働きます。

それらはたしかに、端的に答えを相手に伝え、スピードが速くなるかもしれません。しかし、相手がその答えを「自分のもの」にできなければ、結果的には、意味がありません。多くの場合、自分で考えるプロセスを抜きにして、答えを自分のものにすることはできないからです。

質問することで、考えさせる。そして、「さらに」質問を繰り返し、「対話」によって上司と部下が「一緒に考える」ことが必要なのだと思います。

質問する、考えさせる、その考えを聞く。
さらに、質問する、考えさせる、その考えを聞く。
さらにまた、質問する、考えさせる、その考えを聞く。

一見シンプルに見えるこのコミュニケーションが、実は難しい。

なぜなら、このコミュニケーションを裏返せば、

  • 教えない
  • アドバイスしない
  • 否定しないで聞く

ということだからです。

言い換えれば、上司として日頃やっていること、やらなければいけないことをやれない。能力が高く、経験が豊富な人ほど、自分の持っている多くの武器を捨てなければなりません。また、多くの上司は、部下の話を聞こうと思っても、我慢ができないのです。

  • 部下の返答が遅いので待ちきれず、自分のやり方を教えてしまう。
  • 自分の経験からアドバイスをしたくなり、部下の話をさえぎって話出してしまう。
  • 部下の話しているレベルが低いので、思わず「それじゃダメだ!」と否定してしまう。

上司にとって、「質問し、考えさせ、話を聞く」ことほど、難しいことはないのかもしれません。

部下にとっても、今まで指示やアドバイスをしていた上司が突然質問ばかりしてきたら、

  • 早く答えを教えてほしい。指示してほしい。
  • 何を求めているのだろう? 意図がわからない。
  • なぜ、アドバイスをしてくれないのだろう?

など、違和感を持ってしまいます。

上司と部下の間で、「質問し、考えさせ、話を聞く」を可能にする一つの方法は、部下にこれから質問することを伝え、時間を区切ることです。

「これから10分間、君に考えてほしいと思う。いくつか質問してもいいかな?」
「これから10分間、いくつか質問するから、一緒に考えてみよう」

質問を始める前に、部下に対してセットアップするのです。

そして、その時間内だけは、質問して聞くことに徹する。もし、アドバイスや修正をした方がよいと判断したら、それはその時間のあとにする。

「アドバイス」「ティーチング」と「コーチング」を明確に区別し、使い分ける。
「質問し、考えさせ、話を聞く」ことで、一緒に考える。

質問型リーダーとは、それを実行している人だと思うのです。

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【参考資料】
※1
David Rock, Managing the Brain in Mind
2009 Booz & Company Inc.

※2
コーチング研究所調査「変革期を迎えた企業のリーダーに求められるもの」(2016年)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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