Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
コーチを見極める ~コーチングの失敗を防ぐために~
コピーしました コピーに失敗しました先日、米国で20年以上の経験を持つ、エグゼクティブコーチと話す機会がありました。互いの紹介を通して、私は、彼女が「信頼できるコーチ」だと感じました。彼女は、専門家としての自分を次のように表現していました。
「信頼できるコーチ」は何を話したのか?
・自分のキャリアで最も重要だった時期は、複数の拠点に跨る、総勢1,000名の組織を統括していた時だ。複雑な環境下で、どう組織を運営し、成果を出し続けるのかを学んだ。私は、スタートアップの組織よりも、そうした大規模組織のリーダーをコーチすることに情熱を持っている。
・私は組織業績の最終責任者をコーチしてきた。創造的なアイディアを膨らませ、リスクを取り、組織を率いる過程をコーチできる。エグゼクティブとしてのプレゼンスを洗練させるコーチングができる。
・一方、マネージャーのポジションの人たちへのコーチングは苦手である。私には、「できない理由」に忍耐強く付き合えないところがある。私はCXOと仕事をするとき、一番力を発揮できる。
彼女は、常に明るくオープンで、尊大ではなく、等身大に、「自分の強みと弱み」を語っていました。そして、専門家としての境界線を示し、コーチとしてパフォーマンスを発揮できる「スイートスポット」をイメージさせました。
以前、私たちに次のようなご相談を頂いたことがあります。
「感情をコントロールができないエグゼクティブがいる。その行動を修正させたい。また、彼がリーダーとして相応しいのかを判断したい。そのためのアドバイスをもらいたい。複数社のコンペティションで決めたいので説明に来てほしい」
長年、お付き合いをしたいと考えていたお客様でした。何とかしてほしいという、私たちへの期待も感じました。しかし、このテーマは、私たちの「専門外」であると判断しました。
・私たちは、人材を評価する専門家ではなく、リーダーを開発する専門家であること
・リーダーの感情マネジメントは、確かにリーダー開発のアジェンダになることもあるが、我々のサービスは、それ専用に設計されていない
こうしたことから、好意はありがたいものの、投資対効果の期待には沿えず、むしろ別の専門家のサービスの方が役立つだろう、と明確に伝えました。
コーチ選びのポイント
およそ半年後、同じお客様から、我々の得意な分野、即ち、組織全体の変革を前提とした「経営人材へのエグゼクティブ・コーチング」について相談したい、という連絡が入りました。以前、できないことを明確に伝えたことで、信頼していただいたのでしょうか。その際、「前回と同様、できないことはできないと言ってほしい」とリクエストを受けました。
コーチングは、導入後、失敗するケースもあります。
導入の成果を確実に出すためにも、コーチを選ぶ際は、次のようなことに留意してコーチを選び、コーチングをスタートする必要があるでしょう。
□ そのコーチは、何をコーチできるのか?
「何でもできます」というニュアンスが聞こえたら、要注意です。
□ コーチは、コーチングに期待していることを、注意深く聞いているか?
経験のあるコーチほど、責任が持てる仕事を知っています。
□ コーチングの導入モデルを説明できるか?
コーチには、自身の手法が有効であることの説明責任があります。
国際コーチング連盟が定めるコーチとしてのコア・コンピテンシーがあります。次のような、コーチの倫理、専門家としての基準を定めたものです(※)。
□ コーチング、コンサルティング、心理療法、その他支援の専門家の、職業としての違いを明解に伝えている
□ どのような支援情報が利用可能で、どのようなときに必要であるかの知識があり、クライアントが必要なときに他の専門家を紹介している
コーチとして「できること/できないこと」の境界線を示しているか、相手の成功のために、自分自身の適性をニュートラルに伝えているか、これらは、コーチを選ぶ際の、重要な判断基準だと考えます。
コーチ選びのポイントを、自身のコーチングに活かす
逆に、みなさん自身が人をコーチする場合も、こうした境界線を理解し、相手に示す能力が求められます。
上司・部下との間でコーチングを開始する場合であっても、応用できるでしょう。それが、コーチとしての信頼を形成する基盤となり、コーチングの成功確率を保証する一助となるからです。
例えば、部下とのコーチングがスタートする前に、下記のチェックポイントを考慮して、準備をすることもできると思います。
□ コーチとして、自分が支援できること/できないことは何か?
□ 自分は、どんな手順・方法でコーチングを進めるのか?
□ コーチングの成果を上げるために、相手に要求したいことは何か?
そして、面談の終了時点で、下記を率直に聞いてみることで、コーチングの失敗を未然に防ぐことができます。
□ コーチングは、あなたにとって有益だと思ったか?
□ あなたの成果達成にむけて、私はコーチとして適切だと思ったか?
コーチングの目的と方法に合意でき、伴走するコーチが明確に「選択」された時、コーチングの成功確率は、飛躍的に高まるでしょう。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
※国際コーチ連盟(ICF)が定める、コーチのコア・コンピテンシー
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。