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「横とつながる能力」の高め方

「横とつながる能力」の高め方
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「社員同士の"横のつながり"が大事」

多くのリーダーが口を揃えて言います。

「縦」のラインで描かれる組織図、その中にあって社員同士が「横」につながり、組織の壁を越える。それこそが、組織力を高め、厳しい競争を勝ち抜くのに必要だ、と。

しかし、その重要性を理解し手を打ちながら、道半ばで頓挫する組織が多いのはなぜでしょうか。それを前に進めるためには、何が必要なのでしょうか?

「組織の壁を越える」というキャッチフレーズ

私が16年勤めたグローバルIT企業では、「組織の壁を越えて協業し、どの競合他社にもできないサービスを提供しよう」と長年言われ続けていました。

私は同じ部署で働き続け、入社後10年以上経ってはじめて他部門に異動。そこで担当した新プロジェクトはまさに多くの部署との「つながり」が求められる仕事でした。

社内で長らく耳にしてきた「組織の壁を越えて協業する」をそれほど難く考えていなかった私に、初っ端から大きな挫折が待ち受けていました。協力を求めに他部署に足を運ぶと、協力を取り付けられないばかりか、「協力などできないよ」と話もろくに聞いてもらえない日々が待ち受けていたのです。

「つながり」を阻む、人の無意識な傾向とは?

「横とつながる能力」には何が必要なのか。いくつものプロジェクトで挫折を味わいながら他部署とのつながりを深めた日々を振り返りながら、「成長のステップ」として考察したいと思います。

『つながり ~社会的ネットワークの驚くべき力~』では、社会的ネットワークのつながりと伝染に関するルールを紹介しています。そのひとつは、人は自分の参加する社会的ネットワークを構成する時、興味や経歴、夢などが似ている人と仲間になろうとする意識的・無意識的傾向がある、というものです。

このルールの裏返しにあるのは、「一緒に仕事をする人たちは、自分と同じ価値観を共有しているもの」と無意識に思い込む傾向がある、ということではないでしょうか。

つまり、同じ会社の社員であれば、役割や部署は違えども、結果を出すために何を大切にし、何を優先すべきなのか、自分と同じ価値観を共有しているものだと「勝手に思い込む」ことがある、ということです。この「無意識の思い込み」の状態が「横とつながる能力」向上のスタート地点と言えます。

そして、成長の第一ステップは「コンフリクトとの遭遇」です。

役割の違う人や他部署の人と接触が発生し出すと、そこで初めて、「微妙に異なる価値観」に出会います。同じ価値観を共有していると思い込んできたものが、実際には違うということを認識し始めるのです。その時に生じる「違和感」が、「コンフリクトとの遭遇」です。

第二のステップは「異なる行動原理の理解」です。

コンフリクトとの遭遇を繰り返すと、段々と「相手の行動原理」を理解できるようになっていきます。人を行動に駆り立てる動機が、「トップダウンの指示」の場合もあれば、「お客様のため」の場合もあるでしょう。あるいは、「売上の向上」や「効率化」「コスト削減」ということもあるでしょう。

最後の第三ステップは、「違いを越えた"共通目標"の設定」です。

相手の行動原理が理解できたところで、互いに協力し合える「目標の共有」ができるようになります。ここまで来て、ようやく「横とのつながり」が始まるのです。

脱落のリスク

こうしてみると、「横とつながる」のは、なかなか大変なステップであることが分かります。正直、面倒なものです。

  • コンフリクトが起きる関わりは誰もが避けたがる
  • 相手の行動原理が見えるまで関わり続ける辛抱強さが持続しない
  • お互いが共通ゴールに歩み寄らない

など、次のステップに進む前に「まあ、いいや」と放り出し、脱落するリスクも垣間見えてきます。また、「横とのつながり」は、比較的中長期的なプロジェクトで求められるもので、直近の目標の影に隠れてしまうことも、なかなか実現できない要因のひとつかもしれません。

これらのことから、「横のつながり」が組織の中で生まれ、定着するには、

  • 社員が成長のステップを前に進む機会を創出すること
  • 社員が「まあ、いいや」と途中で脱落することを防ぐこと

この2点が、リーダーには求められそうです。

「横のつながり」を生んだA氏の取り組みとは?

ある大手メーカーの事業本部長のA氏は、まさに「横のつながり」を生むための組織風土変革に取り組まれました。A氏は、横のつながりを生み出すためには、メンバーの間でコンフリクトが起こる機会が継続的に必要だと考え、部門を越えたメンバー同士が1対1で定期的に対話する機会を作り、約1年間継続させました。

この取り組みで、メンバーは強制的に「コンフリクトとの遭遇」を経験しながら、自分とは異なる「相手の行動原理」の理解を進めていきました。また、定期的な対話の中では、互いがその時間の中で話すテーマを決めることを習慣づけました。

「この時間の中では、何について話せると良いか?」
「対話が終った後に、何が手に入っているといいのか?」

それらを最初に話すことで、「違いを越えた共通目標の設定」を練習していったのです。

また、「まあ、いいや」となりがちな脱落を支えたのは、Aさんをはじめとするリーダー層の継続的な後押しでした。成長のステップを歩むメンバーの、ちょっとした変化や成長を意識し、伝え続けることを徹底したのです。

コーチング研究所の分析によると、「組織のメンバー同士の関わり」に最も相関のある「リーダー側のメンバーに対する関わり」は、以下の行動です。

  • リーダーは、私の変化や成長に気づいてそれを伝えている
  • リーダーは、私の目標に向けた行動に対してアクノレッジをしている

思い起こせば、私が前職時代、はじめてのコンフリクトに直面していた時、上司は頻繁に私のところに来て、こう言いました。

「どうだ、内村。大変だろうけど、頑張っているな」

コンフリクトの起きる継続的な機会を意図的に提供すること、そして、リーダー自身の継続的な後押し。組織の「横とつながる能力」の開発にむけて、あなたは何からスタート出来そうでしょうか?

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【参考資料】
・ニコラス・A・クリスタキス (著)、ジェイムズ・H・ファウラー(著)、鬼澤 忍(翻訳)、『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』、講談社、2010年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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