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「遠慮」を乗り越える

「遠慮」を乗り越える
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エグゼクティブ・コーチングのセッションの中で、クライアントが、「遠慮」という言葉を使うことがあります。

「遠慮」の後には、多くの場合「~を控える」や「~をしない」、「~できない」などの言葉が続くのが特徴です。つまり、行動を起こさない時に、その理由として使う言葉であると言えます。

コーチングは、クライアントの実現したい目標に向けて行います。「遠慮」という言葉を使うということは、クライアントの目標達成に障害が生じる可能性があり、コーチとしては、見過ごすことができません。

では、この「遠慮」とは一体、どんなものでしょうか。

「遠慮」とは何か?

私自身を振り返ってみると、「年上の方や経験豊富な方に対して、自分のような若輩者がこんなことを言ってもいいだろうか?」という問いが頭の中に浮かび、「遠慮」して発言を控えることが多いことに気づきます。しかもそれが意外と頻繁に起こることにも気づきました。

みなさんはいかがでしょうか?

今日一日で、何回くらい「遠慮」しましたか?
どういうときに「遠慮」をするでしょうか?

もし同じように、組織の全員が「遠慮」をしていたとすると、どのような影響があると思いますか? 「遠慮」が、ビジネスを阻害している可能性はないでしょうか。

私のクライアントの「遠慮」は、「買収された側の会社にいた自分が、買収した側の会社の人に、指摘しにくい」というものでした。結果として、その組織は、競合他社が飛躍的な成長を遂げている中、危機感が共有されず、社員の行動変化が起こらないという状況が続いていました。

このクライアントや私の例を元に整理すると、「自分は言うに足る『資格』があるのか?」を考えた時に、「遠慮」が起こりやすいことが考えられます。多かれ少なかれ、人にはこのように考えやすい傾向があると思いますが、特に日本人はその傾向が強いのではないでしょうか。

「言葉も文化も理解していない赴任直後の自分が、現地を知り尽くしているローカルスタッフに指示して大丈夫だろうか?」
「入社したばかりの自分が、会社のやり方に口を出していいものだろうか?」
「部下である自分が、上司に意見を言っても大丈夫だろうか?」
「みんな同じ意見なのに、自分一人、違う意見を言っても大丈夫だろうか?」
「部門外の自分が、営業部門に対して指摘していいものだろうか?」

こうした問いが組織内に充満していることは容易に想像され、本来伝えるべきことを伝えないという「遠慮」が、日常的に組織のいたるところで、起こっている可能性があります。

また、役員同士がお互いに遠慮して、領空侵犯をしないという話も、枚挙に暇がありません。

コーチング研究所の調査では、「イノベーティブな風土」ととくに相関が強かったのは、

「組織のトップ同士のコミュニケーション」(相関係数0.76)
「現場社員間の所属部署の領域を越えた協力関係」(相関係数0.71)

の2項目だったという結果が出ています。

「遠慮」によって、部門間でコミュニケーションが行われないと、イノベーションが起こりにくい状態になる可能性があるのです。やはり「遠慮」がビジネスを阻害していると言えるのではないでしょうか。

このようなことが起こることを前提に、「遠慮」を乗り越えるためのシステムやルールをもつ組織もあるようです。

「遠慮」を乗り越える方法とは?

映画「ワールド・ウォーZ」では、イスラエルの諜報機関の「10人目の男」という危機管理システムが描かれています。情報分析の際に、分析員たちの9人目までが同じ解釈を示した場合、10人目は絶対に異なる解釈を提示しなければいけないという取り決めです。

固定観念の呪縛からの解放という意図の他に、事なかれ主義や同調圧力からの解放という意図があるのでしょう。確かに9人まで同じ解釈が出れば、異なる意見を言いにくくなります。 このシステムによって、異なる可能性をあえて出すことで、見落としていることはないか、本当に別の解はないのか、新たな視点を持ち込むのです。

では、このようなシステムがない場合には、どのように乗り越えることができるでしょうか。

前述の通り、コーチングは、クライアントの実現したい目標に向けて行います。もしクライアントが、「遠慮」を理由に行動をしないとすると、そもそも、その目標がそこまで達成したい目標ではなかった、という可能性があります。

そこで私たちコーチは、「あなたが本当に手に入れたいことは何でしょうか?」という質問や、「あなたが本気で実現したいようには聞こえません」というフィードバックによって、クライアントの目標をハッキリさせていきます。

手に入れたいもの、実現したいものがどれだけハッキリしているかが、「遠慮」を乗り越える鍵になりそうです。

もし皆さんが、自身の「遠慮」に気づいたら、「本当に手に入れたいものは何か?」

そこに立ち戻ってみてはいかがでしょうか。

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【参考資料】
コーチング研究所調査「イノベーティブな風土と役員間のコミュニケーション」(2015)

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