Coach's VIEW

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「働く理由」の見つけ方

「働く理由」の見つけ方

「仕事に情熱をもって取り組んでいますか?」と聞かれたら、あなたは何と答えますか。

調査会社のギャラップ社が50年に及び世界150か国で行った調査によると、人の幸福度に最も大きな影響を及ぼしているのは、「仕事に情熱をもって取り組んでいるかどうか」なのだそうです。(※1)

この調査によると、仕事の幸福度が高いと人生の幸福度が2倍になります。しかし残念ながら「仕事に情熱をもって取り組んでいる」と答える人は3人に1人もいませんでした。

先日、私のエグゼクティブ・コーチングのクライアントが、自社の組織調査の設問に「あなたは仕事に情熱をもって取り組んでいますか?」という1項目を加えました。結果を見ると、他の部署と比べて突出して高いスコアになっている部署が1つありました。そこで私は、この組織長であるAさんにぜひインタビューをさせていただきたい、とお願いしました。

「情熱をもって取り組んでいる」部のトップは何をしていたのか?

Aさんはこの部品メーカーに新卒で入社し、長く営業を経験した後、2年前に現在の商品開発部長に就任された方でした。年齢的にはおそらくこの会社で最も若い部長で、なおかつ、文系でははじめて、この部署の部長になったのだそうです。

「仕事に情熱をもって取り組んでいる」と答える人が多い理由を教えてほしいとお願いすると、Aさんは「正確にはわからない」としつつも、「他の部署ではやっていないことがあるとしたら・・・」と、こんなことを教えてくれました。

***

「開発部には3つの課がありますが、いずれもモチベーション上に課題がある職場として社内では知られていました。私は営業部門から異動し、いきなり部長にもなって、何をしたら良いかわからなかったのです。

ところがある時、ここで働いている人たちのほとんどがお客様に直接会ったことがないと知りました。

その点なら私も手伝えると思い、営業時代にお付き合いのあったお客様をお呼びし、うちの商品について思うことを話してもらったのです。すると、みんなの顔色がパッと変わったのです。

その様子を見て、これを継続しようと思いました。今では月に1回90分、部全員を集めて、お客様と直接話す時間をとっています。意外とお客様も喜んで来てくださいます。

厳しい意見もありますが、商品を褒めて下さることも多く、勉強になりつつ、とても盛り上がる場です。以前はお客様の声を営業が独り占めしていたなんて気づきませんでした」

***

Aさんの話を聞いて、こんな論文があったことを思い出しました。

ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラントは、「社員とその仕事の影響を受ける人々とをつなぐ」ことで、社員のパフォーマンスが向上することを明らかにしました。(※2)

グラント教授らは、大学の資金調達担当者を対象に実験を行いました。資金調達担当者の仕事は、大学の卒業生に次々と電話をかけて寄付金を集めるという仕事でした。同じ仕事の繰り返しであること、電話をした相手の態度によっては嫌な思いをすることがあることなどから、仕事を長く続ける人は少なく、年間の離職率は40%を超えていました。

調査のために、グラント教授らは資金調達担当者を2つのグループに分けました。そして一方のグループにだけ、奨学生と直接会う機会をつくりました。その奨学生は「担当者の仕事が自分への奨学金となり、それが自分の人生にどのような影響を与えたか、どれだけ担当者の尽力に感謝しているか」を5分間伝えたのです。

すると、奨学生の訪問から1カ月後、奨学生と直接会ったグループでは、1週間に電話をかける時間が平均142%増え、獲得した寄付金は平均171%増えていたのです。何もしなかったもう一方のグループには変化がありませんでした。

グラント教授は他にも「社員とその仕事の影響を受ける人々とを直接つなぐ」ことによって業績を向上させた医療機器メーカーやIT企業もこの論文の中で紹介しています。

後日、Aさんにこの論文をご紹介すると、「私は、商品開発部を成功させるために社員の意識をお客様の方に向け続けたい。しかし、私一人の力で実現させるには無理があります。この論文を読んで、お客様の力も借りればいいと思い、気持ちが軽くなりました。お客様の先にまだお客様がいる。そのようなエンドユーザーもお呼びすることにしました」とおっしゃってくださいました。

「仕事に情熱をもつ」ためにできること

「仕事に情熱をもって取り組んでいますか?」という質問に、今は「Yes」と答えられない人でも、入社前は一人の「お客様」としての視点から、「この仕事に就いたら、情熱をもって取り組めるだろう」と期待をもって今の仕事を選んだ人も多いのではないでしょうか。

ところが「お客様」から離れた部署の配属になったり、組織の中で細分化された仕事だけに没頭したりしていると、いつの間にか「お客様」の視点が薄れ、それと共にここで「働く理由」が見えなくなってくる、ということが起こっても不思議ではありません。「働く理由」が見えなくなると、仕事に情熱をもって取り組めなくなるでしょう。

過去の様々な研究が示すように、人は「他の人の役に立っている」と感じられるとき、幸福を感じる傾向があります。(※1)

「○○兆円という中期計画を実現するために・・・」
「今年の業績目標を達成するために・・・」
「市場の変化に対応するために・・・」

といった話が直接「働く理由」につながりにくいのは、そこに具体的な「人」を感じにくいからではないでしょうか。

Aさんはお客様を直接呼んでくることで「人」を感じさせることに成功しました。これはまさにグラント教授が言う「社員とその仕事の影響を受ける人々とをつなぐ」アプローチでした。

しかし、上司を頼らなくても「自分と自分の仕事の影響を受ける人々とをつなぐ」アプローチは、ある程度、自分でもできるのではないでしょうか。うまくいくと、想像もしていなかった「働く理由」を発見することができるかもしれません。

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【参考資料】
※1
『幸福の習慣』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)
トム・ラス(著)、ジム・ハーター(著)、森川 里美 (翻訳)

※2
「心理学的実験で実証される お客様の言葉が社員を顧客志向に変える」
アダム M. グラント (DIAMONDハーバードビジネスレビュー 2011年10月号)

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