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無意識センサーをマネジメントに活かす
2016年11月16日
みなさんは、自分が何歳まで生きると思ってらっしゃいますか?
ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授の著書『LIFE SHIFT(英題THE 100-YEAR LIFE)』によると、1914年生まれの人が100歳まで生きる確率は1%だったそうです。しかし、2007年生まれになると、その半数が104歳まで生きるそうです。そして、2050年の日本は、100歳以上の人口が100万人を超えているというから驚きです。
書籍では、人間の寿命が過去200年間、10年に2~3年の緩やかなペースで伸びていることが示されています。ちなみに、1957年生まれは89~94歳、1967年生まれなら92~96歳、1977年生まれになるとその半数が95~98歳まで生きるとのことです。このように、寿命は、時間をかけて少しずつ、しかし着実に変化を進めてきたのです。
もし自分が100歳近くまで生きるとしたら、人生設計もそれにあわせて変えるべきではないか、というのがリンダ・グラットン教授の主張です。
ゆっくり進む変化は、なぜやっかいなのか?
時間をかけて少しずつ、ゆっくり進む変化を「スローシフト」と私は呼んでいます。
「スローシフト」は、寿命のみならず、みなさんの仕事の中にもたくさん潜んでいるのではないでしょうか。
「不人気商品が"じわりじわり"と売上をあげている」
「職場の挨拶が"いつの間にか"減っている」
など、「気がついたら変わっていた」ということは多々あります。
「スローシフト」がやっかいなのは、微妙な変化をリアルタイムに認識するのが難しい、ということです。変化は気づかぬうちに進行しており、いつの間にか、現実と自分の認識に大きなギャップが生まれているのです。
ギャップに気づかぬままに打ち出してしまう次の一手は、当然ながら、的を射たものにはなりません。逆に、「スローシフト」をいち早く認識することさえできれば、現実に即したより効果的な対応ができる、といえます。
では、この「スローシフト」を、マネジメントの領域で考えるとどうなるでしょうか?
マネジメントにおける「スローシフト」とは?
先日、コーチングのクライアントである部長職のAさんが3ヶ月を振り返り、おっしゃいました。
「3ヶ月程度では、部下の状態は変わっていないと思います。成長するには、少なくとも1年くらいは必要でしょうから」
「本当にそうでしょうか?」と、私は質問をしました。
Aさんは、少し考える時間をとってから、これまでのことを思い出しながら答えました。
「そう言われてみると、部下の一人、Mさんは役割を任せてから部下の指導に熱心になったし、若手スタッフのOさんは、3ヶ月前より会議の発言する回数が増えたと思います。逆に、課長のTさんは最近少し元気がないような気がします・・・・・・。うすうす感じてはいましたが、じっくり考えてみると、変化って確実にあるものですね」
Aさんは、意識して思い出すことで、3ヶ月の間におきた部下の変化を認識していったのです。Aさんにとって、いつも身近にいる部下の変化は、まさに「スローシフト」だったのです。
ともすると見過ごしがちな「スローシフト」ですが、Aさんのように、変化を"うすうす感じている"という場合も多いのではないでしょうか。いわば、「無意識のセンサーが感知している」とでもいうような状態です。
「無意識センサー」にまつわる実験結果
「無意識センサー」は私の造語ですが、それにまつわるアイオワ大学の実験レポートがあります。
実験の被験者は赤と青のカードを自由に選んでめくり、その裏には受けとる報酬、あるいは罰金が記されています。実は青の方が罰金は少ないのですが、被験者はそれを知りません。たいていの人は50枚ほどめくるうちに"なんとなく"その法則に気づき、80枚ほどまで進むと、青を選んだ方が良い理由を説明できたといいます。
さらに驚くべきことに、実験では手の平の汗の量を計測しており、わずか10枚ほどめくったところで、被験者の手の平には、赤に対してのストレス反応が出たそうです。この実験で全ての現象が説明できる訳ではないですが、人には意識で認識するより前に、無意識で感じていることがあるようです。
もし、「無意識センサー」が感知したものをすぐに認識することができれば、部下の「スローシフト」もいち早く捕らえることができます。
例えば、成長しつつある部下にすぐに気がついて、タイムリーに承認することができます。「部下のどこを誉めたらいいか分からない」という上司の言葉をよく聞きますが、そのようなことは少なくなるでしょう。一方、部下の望ましくない変化に気がついたときも、事態が悪化する前に話す時間を設け、軌道修正をはかることもできるはずです。
では、「無意識センサー」を上手く活用するには、どうしたらいいでしょうか。
「無意識センサー」を活用する
「無意識センサー」は自動的に動いていますので、センサーが何かを感知した瞬間そのものを認識するのがその第一歩となります。部下と話していて、良くも悪くも「何か、いつもとちょっと違うな」と感じる時はないでしょうか。「理由は説明できないけれど、何かある」という感覚です。まさにそれが、無意識センサーが働いた瞬間といえます。
通常は、このセンサーが働いても、目前の仕事に集中しているため、気に留めず流してしまうことが多いのではないかと思います。
脳科学者の茂木健一郎氏は、ひらめきを活かすには、無意識と対話をし、感じているものに言葉を与えることが必要だと言っています。そのためには、目的意識でがちがちに固めるのではなく、リラックスして脳を活動させることが良いそうです。
センサーが何かを感知したと思ったら、その後に少し休憩時間をとってみてください。リラックスした状態で自分の感覚に注意を向け、「一体、何がひっかかったのか?」と考えることで、無意識センサーが感知したものが意識に上ってくるかもしれません。1回では分からないかもしれませんが、2回、3回と続ければ、その正体が鮮明になってくるでしょう。
無意識センサーを使いこなせば、部下の「スローシフト」をいち早く認識することができます。もしかしたら、私たちが100歳まで生きることができるように、部下はいつの間にか予想を超える変化をしているかもしれません。
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【参考資料】
・リンダ グラットン(著)、アンドリュー スコット(著) 、池村 千秋(翻訳)、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』、東洋経済新報社、2016年
・マルコム・グラッドウェル (著) 、沢田 博(翻訳) 、 阿部 尚美(翻訳)、『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』、光文社、2006年
・茂木 健一郎、『ひらめき脳』、新潮社、2006年
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