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「サードプレイス」としての「エグゼクティブ・コーチング」

「サードプレイス」としての「エグゼクティブ・コーチング」

スターバックスのコンセプトに、「サードプレイス」というものがあります。店舗を、「家庭(ファーストプレイス)」でも「職場や学校(セカンドプレイス)」でもない、第三番目の場として提供する、というものです。

「サードプレイス」は、もともと社会学者のレイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg)が提唱した概念です。彼は、都市居住者には、生活上欠かせない家や職場などの「二つの居場所」に加え、「さまざまなプレッシャーから開放され、創造的な交流が発生する中間の場」として第三番目の居場所「サードプレイス」が必要であると説きます。

「サードプレイス」はなぜ必要なのか?

オルデンバーグは、「サードプレイス」の代表例として、イギリスのパブやフランスのカフェなどをあげています。そこは、自由でリラックスした雰囲気の中で生まれる対話があり、都市生活者が良好な人間関係を生みだす重要な空間であると説いています。

スターバックスは、お店を一つの「サードプレイス」として提供するために、アースカラーを基調とした温もりのある空間づくりや自然で個別対応のある接客などを意識してきました。

また、演出家の鴻上尚史さんは、著作の中で「サードプレイス」に近似した概念を「境界線」という言葉で語っています。鴻上さんの好きな場所は屋上だそうです。屋上、「そこは、職場や学校と家庭のボーダーライン」つまり「境界線」です。

なぜなら、そこには「二つの世界のどちらにも属していないことからくる、気持ちを楽にする自由がある」から。さらに、屋上は、さまざまな人々や風景が見渡せます。そこに立つと、「人間とはなんだろう?」「人生とはなんだろう?」という思いが湧いてくるそうです。鴻上さんにとって屋上は、「世界が見える場所」です。それは、一種の「サードプレイス」と言ってもいいでしょう。

さて、私たちは、多くの時間を「職場」や「家庭」の中で過ごしています。そんな中では、その場なり文化なり風土に染まり、知らず知らずのうちに思考パターンや行動様式が硬直化していくことがあります。

だからこそ、今、企業のエグゼクティブにも、「自身や組織は何者で、どこからきて、どこにいこうとしているのか」について、何の制約もなく考える時空間としての「サードプレイス」が日常的に必要なのではないでしょうか。

それをなおざりにしていることと、コンプライアンスの問題といった組織の危機は、もしかしたら相関があるのではないかと思うのです。

エグゼクティブにとっての「サードプレイス」とは?

オルデンバーグは、「サードプレイス」の特徴のひとつは「インフォーマルでパブリック」な関わりを促進する場である、と説きます。「インフォーマル」とは、他者に強制されない自由意志にもとづく場であること。そこでは対等の関係であること。「パブリック」とは、一人でなく他者とのコミュニケーションを通じて行う活動である、ということです。

考えてみれば、エグゼクティブ・コーチングの場もまた、「サードプレイス」といえるかもしれません。「職場」でもなく「家庭」でもない、「中間の場」。エグゼクティブとコーチは「対等」です。そして、「自由意志」で自由な表現が保障されています。そこでは、エグゼクティブが一人で内省するわけではありません。コーチからの「問い」を中心とした「対話」が、その主要な位置を占めています。

そもそも「対話」とはギリシャ語の「ディア・ロゴス(dia and logos)」を語源としています。「流れゆく意味 (meaning flowing through)」という意味があります。すなわち、「対話」は「対話に参加している人が、共同で"その意味"を構築していくプロセス」と言うことができます。

あるメーカーで、新しく社長に就任したAさんをコーチングした際のことです。その方は、何人もの先輩役員を抜き、技術畑の執行役員から大抜擢されたばかりでした。いち早く、新社長としての役割を全うすることが望まれていました。

社長就任からしばらくしてスタートしたコーチングでは、「"社長"になるために自分が変わらなければいけないことは理解しているが、正直、具体的に何をどう変えていくのかが分からない」という状態であることがわかってきました。

「今までの成功とこれからの成功は何が違うと思いますか?」
「その成功を作り出すためにどんなチャレンジをしてきましたか?これからはどんなチャレンジをしたいですか?」
「社長は、会社で起こっていることをどのようにして知りますか?」

私は、こうした問いかけを続けていきました。

コーチングの場では、普段、部下やお客様の前で背負っている「社長」という「役割」の洋服を脱いで、コーチと二人で「新しい役割」としての「社長」という衣を丹念に眺めていきます。Aさんがもっていた「社長イメージ」や「マネジメント」「リーダーシップ」に対する固定化した「意味」づけを二人でたな卸していきます。そして、必要であれば新たな「意味」づけを探索する作業が続きます。

Aさんの職場は、弊社のオフィスから北の丸公園を挟んで向かい側にあります。

Aさん言わく「ここから自分の会社を眺めながら、普段の自分に少し距離をおいて語ることで、今までとは違う役割や行動が期待されていることが、ようやく見えてきました」

今までは技術部門を統括するのに、論理性を前面に打ち出すマネジメントが主流でしたが、今後は社員を鼓舞する熱さや情熱も表現していきたい、とAさんは語っています。

コーチとエグゼクティブは、「コーチング」という「サードプレイス」の中での「対話」を通して、自分はいま、「リーダーシップ」をどのように意味づけしているのか、その意味づけによってどんな具体的な行動を起こしているのか、果たして、その意味づけ以外の可能性はあるのか、それらを探索していきます。

「対話」とは、「問いかけ」を通して「共に考えること」。そして、そこに新たな「意味」を構築していくということです。さらにいえば、ポジティブな「未来」の可能性をつむぎだしていくものともいえます。

「サードプレイス」としての「エグゼクティブ・コーチング」には、そのような意義があります。エグゼクティブには「サードプレイス」としての「エグゼクティブ・コーチング」が必要な場のようにますます思えてきます。

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【参考資料】
『サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』 (みすず書房)
レイ・オルデンバーグ(著)、マイク・モラスキー(解説)、忠平 美幸(翻訳)

『幸福のレッスン』(大和書房)
鴻上尚史著

William N. Isaacs, 1993, Dialogue, Collective Thinking and Organizational Learning, Organizational Dynamics

『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社)
中原淳、長岡健(著)

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