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「チャレンジする組織」のつくり方

「チャレンジする組織」のつくり方
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企業の経営者の方から、しばしば「もっと社員のチャレンジ精神を高めたい」「社員が失敗を恐れずチャレンジする組織にしたい」という話をお聞きします。そのような組織は、どうやって手に入れるのでしょうか。

人は子どもから大人になるまでの間に、実に様々なことができるようになります。

ボールを投げる、字を書く、自転車に乗る、料理を作る、外国語を話すなど、何度も失敗し、チャレンジし続けることでしか、なかなか上達できないものも多くあります。何も出来ない赤ちゃんが数年から十数年の間にこういったことがどんどん出来るようになるのですから、失敗とチャレンジを繰り返すプロセスは人の成長に欠かせないものだと言えるでしょう。

チャレンジの背景にある考え方とは?

失敗してでもチャレンジし続けようとする気持ちには、「自分の能力は努力によって変化する」という考え方が背景にあります。このような考え方のことを「成長型マインドセット」(Growth Mindset)と呼びます。マインドセットとは「考え方」のことです。

小さな子どもはどんなものにでも興味を示し、失敗を恐れずに手を伸ばします。そして、失敗したり、分からないことがあったりすると、「どうして?」「あれは何?」「それは何をするものなの?」と次から次へと質問します。ある研究によると2歳から5歳までの3年間だけで子どもは周囲に4万回の質問をするのだそうです(※1)。

私達は誰でも「成長型マインドセット」を持って生まれてきた、と言っても過言ではないでしょう。

「成長型マインドセット」の対局にあるのは「固定型マインドセット」(Fixed Mindset)です。「固定型マインドセット」とは「自分の能力はこれ以上変化しない」という考え方のことを言います。

2つのマインドセットが生む違いとは?

スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授は、この2つのマインドセットが人の行動をどのように変化させるのかを調べるために、ある実験を行いました。(※2)

同教授は、思春期の子どもたち数百人を集めて、子どもたちにとって難しい問題を10問やらせました。そして、子どもたちを正答率に差がない2つのグループに分けました。

次に、Aグループの子どもたちは「固定型マインドセット」に意識が向くようにほめ、もう一方のBグループの子どもたちは「成長型マインドセット」に意識が向くようにほめました。

「固定型マインドセット」に意識が向くようにほめるとは、たとえば、「8問正解だ。君はもともと頭がいい」「生まれつき才能がある」「君は優秀だ」というように、能力はもともと備わったもの、固定されているものであるかのようにほめるということです。

「成長型マインドセット」に意識が向くようにほめるとは、「8問正解だ。君はよく頑張ったんだね」と、努力によって人は変化することが当然であるかのようにほめるということです。

すると、その直後から2つのグループに違いが出てきました。

Aグループの子どもたちは新しい問題にチャレンジすることを嫌がり始めたのです。「頭がいい」「優秀だ」とほめられた子どもたちは「自分の能力はこれ以上変化しない」ほうが都合がいいのです。新しい問題にチャレンジしたら今度は失敗するかもしれません。失敗したら「頭がいい」「優秀だ」とほめられたことを手放すことになりかねません。それを恐れてチャレンジそのものを避けるようになったのです。

一方、Bグループの子どもたちの9割は、自分から次々と新しい問題にチャレンジしはじめました。頑張ったこと、努力したことをほめられたことによって、もっと頑張ろうとしたのです。

この調査は、知能検査の問題を使って行われました。次々と難しい問題に挑戦させ続けた結果、Aグループの子どもたちは「自分は頭がよくない」「優秀ではなかった」と自信を失うようになり、知能検査の結果が元の点数より下がってしまいました。

Bグループの子どもたちは最後まで難しい問題にチャレンジすることを面白がり、結果として知能検査の結果が上がったことが確認されたのです。

何が「成長型マインドセット」を育むのか?

私達は誰もが「成長型マインドセット」を持って生まれてきたはずです。

しかし、Aグループの子どもたちは、「もともと優秀であること」や「生まれ持った才能」で評価されることが分かると、それを失うことを恐れ、新しいことにチャレンジしなくなりました。自分への評価を、そこで「固定」して欲しかったためです。

人は「何によって評価されるのか」に敏感です。

私達は、今自分が居る環境が「何によって評価されるのか」を素早く察知することで、周囲から受け入れられやすい方法を選択しようとします。

もし、あなたの組織が「チャレンジする組織」ではないのなら、その原因は、社員の意識を「固定型マインドセット」に向かわせるようなコミュニケーション、つまり「頑張る」「努力する」「挑戦する」といった「行動」よりも、「頭の良さ」や「優秀さ」といった「状態」を評価するコミュニケーションが社内で行われている可能性があるのではないでしょうか。

「チャレンジする」とは「行動」です。

行動することをより評価するコミュニケーションを組織の中で増やしていくことが「成長型マインドセット」を組織内で増やすヒントではないでしょうか。

しかし、あなたの組織が「固定型マインドセット」で溢れた組織であっても、決して心配することはありません。

マインドセットは「考え方」だからです。

あなたのマインドセットは、あなた自身で変えることができます。たとえ組織内で「成長型マインドセット」を持つ人があなた一人であっても、周囲をあなたのコミュニケーションで「成長型マインドセット」へと変化させていける可能性があるのです。あなたが上司なら、なおさら部下のマインドセットに大きな影響を与えることが出来るでしょう。

「チャレンジする組織」の第一歩は、あなたのチャレンジからなのかもしれません。

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【参考資料】
※1 イアン・レズリー(著)、須川綾子(翻訳)、『子どもは40000回質問する ~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』、光文社、2016年
※2 キャロル・S・ドゥエック(著)、 今西康子(翻訳)、『マインドセット「やればできる! 」の研究』、草思社、2016年
(この本では、「Fixed Mindset」は「硬直マインドセット」、「Growth Mindset」は「しなやかマインドセット」と訳されています)

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