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「引き出す」関係から「一緒に考える」関係へ
コピーしました コピーに失敗しましたロジカルシンキングに代表される欧米型の考え方が日本に浸透し、効率良く問題を解決することが提唱されるようになりました。また、ITやSNSの飛躍的な発達により、圧倒的なスピードをもって、合理的に判断することができるようになりました。
組織の中のコミュニケーションは、10年前とは様変わりしたことを、皆さんもお感じになっていることでしょう。
確かに便利にはなりましたが、その一方で、社員一人ひとりがどのように物事を捉え、どのように思い考察したかのプロセスや、そのときにどう感じたのかという情報は置き去りにされてしまっているように思います。
置き去りにされた情報はどこにあるのか?
ハーバード・ビジネス・レビューに興味深い論文がありました。
コーネル大学の教授ジェームズ R. ディタートとテキサス大学の准教授イーサン R. バリスは、「マネージャーとしてどれだけオープンな姿勢を心がけたとしても、部下の多くは仕事上の取り組みに疑問を投げかけたり、新しいアイディアを出したりするより、黙っている可能性が高い」と述べ、またその理由を、「『恐れ』ではなく、どうせ取り合ってもらえないだろうという『諦め』である」と述べています。
現場の声や社員一人ひとりの考えや感情といった情報は、リーダーが成果をあげるだけでなく、業務改善やイノベーションを起こしていく上で、実は大きな影響およぼす「変数」です。
しかし、事実や数字などの目に見える情報に比べると、圧倒的に表に出る機会がないまま、個人の胸のうちや組織の奥底に眠ったまま、なおざりにされてしまう時代なのかもしれません。
私のエグゼクティブ・コーチングのクライアントは、「ある行動」を増やしたことで、組織に眠っていた個人の考えや感情などの情報が、手に取るほどわかるようになったと言います。
それはどのような行動だったのでしょうか?
「一緒に考える」の関係へ
コーチングと聞くと、多くの方が「引き出す」というキーワードを連想されるようです。確かにコーチ・エィでも、過去にはこの「引き出す」という言葉をよく使っていました。
しかし現在は、コーチングを「二人の間に問いを置いて、その問いを共有し、一緒に考えるプロセス」と捉えています。
先述のクライアントは、この「一緒に考える」時間を増やしたのでした。
「一緒に考える」とは、「問いを共有し、それについて対話する」こと。評価する側とされる側になったり、質問する側とされる側になったりすることなく、対等の関係で、そして、両者が当事者になって対話をすることです。
「その問題はなぜ起こったのだろうか?」ではなく、「私たちは、その問題に対してどのように一緒に取り組んでいけるだろうか?」といった問いを共有します。そこには正解も不正解もなく、お互いのアイディアや不確かな意見、感情をぶつけ合いながら、全く新しいアイディアや情報に昇華させていくのです。
「一緒に考える」には、双方が等身大になり、結果的に互いの考えや感情を正直に話すことができる効果があるのでしょう。
ところが、先に述べたように、現代の組織のコミュニケーションのあり方からすると、個人の思いや考えを話せる機会は生まれにくく、リーダーが意図的にその場、機会を生み出していく必要があります。
「一緒に考える」ための一歩とは
先ほどの論文では、上司がコミュニケーションを怠ると、話しても無駄だという部下の諦めが30%増加し、マネージャーが過去にコミュニケーションをきちんと交わしていた場合は、部下が遠慮なく話す頻度が19%増加した調査が紹介されています。
まずはリーダー自ら、「一緒に考える時間がほしい」とリクエストをすることが大事なようです。
慶應義塾大学大学院特別招聘教授の保井俊之さんは、その著書『無意識と対話する方法』の中で、下記のように述べています。
「もともと日本式の経営は、広い意味での家(イエ)を長く続けることが目的でした。だからステークホルダーである従業員やその家族、お客さんとフラットに対話をする風土があったんです」
確かに、ソニーの創業期において、井深大さんと盛田昭夫さんは席を並べ、ソニーのビジョンについて、終わりのない対話を続け、ずっと一緒に考えていたそうです。ホンダは「ワイガヤ」という場において、一緒に考えることでイノベーションを起こしてきました。
もともと、日本の組織には、一緒に考える風土があるのだと思います。
「一緒に考える」風土は、きっと皆さんの組織にもあるはずです。
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【参考資料】
・「リーダーが必要な情報を得るために 言いにくいこと言える職場」、コーネル大学教授ジェームズR.ディターテキサス大学准教授イーサンR.バリス、ハーバード・ビジネス・レビュー 2016年7月号
・前野隆司、保井俊之著、『無意識と「対話」する方法 ~あなたと世界の難問を解決に導く「ダイアローグ」のすごい力~』、ワニブックス、2017年
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