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「当たり前」から脱却し、新しいリーダーシップを手に入れる

「当たり前」から脱却し、新しいリーダーシップを手に入れる
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社会学の定義は、「日常生活で当たり前だと思っていることや当たり前すぎて見過ごしてしまっていることをあえて問いかけ、それに自分で答を見つけていこうとすること」だと、金菱清氏の著書『新体感する社会学』で読みました。

私たちエグゼクティブコーチも、クライアントの「当たり前」に問いを立てます。クライアントの「当たり前」は、クライアントの思考の枠となり、目標達成の障害になってしまうことがあるからです。

「ふつう」「一般的に」「当然」といった言葉を使って表現する時は、その人の「当たり前」が表れることが多いようです。

「当たり前」の背景にあるのは何か?

私のクライアントの例ですが、

A氏 「ふつう、一回言えばわかるじゃないですか」
B氏 「一般的に、顧客を訪問したら上司に報告するものでしょう」
C氏 「全体ミーティングでも伝えていますし、方針は、当然、組織全員が理解しています」
クライアント自身の「当たり前」がそこにあらわれています。

C氏の場合をみてみましょう。

C氏の発言の背景には、「伝えさえすれば、相手は理解する」というC氏の「当たり前」があります。

でも、組織調査でどのくらい理解しているかを実際にリサーチしてみると、理解どころか、そもそも伝わっていないこともあります。全体ミーティングに参加していたにもかかわらず、「聞いたことがない」と答える人もいるのです。

C氏が目標を達成するためには、いち早くこの事実を知り、組織全員に方針を理解してもらうための異なる方法を選択する必要があります。ところがC氏の「当たり前」によって、C氏が新しい方法を選択する機会は失われてしまうのです。

上記の3人に聞いてみると、人は、この「当たり前」を過去の上司との関係性や失敗体験、そして成功体験などから、知らず知らずのうちに身につけているようです。

2017年5月26日の日経新聞朝刊に、「『熱意ある社員』6%のみ 日本132位」という、驚くようなタイトルの記事がありました。

従業員のエンゲージメント調査、日本の結果は?

米ギャラップ社が世界各国の企業を対象にした従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査に関するもので、結果が次のように紹介されていました。

  • 日本は、「熱意あふれる社員」の割合が6%しかいなく、米国の32%と比べても大幅に低く、139カ国中132位であった
  • 「周囲に不満を撒き散らしている無気力な社員」の割合は24%
  • 「やる気のない社員」の割合は70%

もしリーダーが、「仕事は情熱をもって取組むべきものだ」という「当たり前」に基づいてリーダーシップを発揮していたとすると、94%の社員の行動にイライラしてしまうかもしれません。

または、「だれもが、当然、情熱を持って取組んでいるはずだ」と思っていると、熱意あふれる社員が6%しかいないという実態に気づけない可能性すらあります。

「熱意あふれる社員」の割合が低い理由について、ギャラップ社のジム・クリフトン会長兼最高経営責任者は、1980~2000年ごろに生まれたミレニアル世代の求めることと、日本企業が得意としていたコマンド&コントロールの経営手法があっていないことを指摘しています。

この結果からも、過去の経験で身につけた「当たり前」を基にしたリーダーシップは、もはや通用しない、ということなのかもしれません。

では、どのようにして「当たり前」から脱却し、新しいリーダーシップを手に入れることができるのでしょうか?

「当たり前」からの脱却に有効なもの

社会学的にものを考える最初のステップは、「脳の初期化を行うこと」だそうです。

私たちは、新たに情報がインプットされると、自分の「当たり前」に当てはめて考えてしまいがちです。それをいったんゼロにする作業を、「脳の初期化」と呼んでいます。

さかのぼること10年ほど前、私が初めてマネージャーになったとき、自分のリーダーシップについて「脳の初期化」を体験したことがあります。

当時の私は、「マネージャーである自分が成果をあげれば、部下は当然ついてくる」という「当たり前」を持っていました。もちろん、これでは成果は上がらず、私は大きなストレスを抱えていました。

そんな時に、ある1冊の本と出会いました。
タイトルは、『なぜ、あなたがリーダーなのか?』

私は、タイトルのこの質問から目が離せなくなり、心拍数が上がったのを覚えています。同時に「マネージャーの私に、本当に期待されていることは何か?」という問いが頭に浮かび、新しいリーダーシップを考えるきっかけになりました

質問は、「脳の初期化」に有効です。

実はつい最近も、ある質問によって「脳の初期化」を体験しました。

「なんで営業とバックオフィスで階を分けているんですか?」

これは、コーチ・エィに今年の4月に入社したばかりの新入社員から受けた質問でした。

私にとって、「オフィスの配置は、"当然"機能で分かれるもの」でしたが、より成果につながる配置があるのかもしれません。

新入社員は、純粋な興味と素朴な疑問で、私たちの「当たり前」に問いを立ててくれます。

4月に入社したばかりの新入社員に対して、どこかまだお客さまのような気持ちで接している人も多いかもしれません。しかし、既に私たちの「脳の初期化」に欠かせない、重要なステークホルダーになっているのです。

あなたの「当たり前」から脱却するために、あなたの目の前の新入社員と対話をすることから始めてみませんか?

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【参考資料】
・金菱 清 (著)、『新体感する社会学: Oh! My Sociology』、新曜社、2014年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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