Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
組織文化とリーダーの自己認識
コピーしました コピーに失敗しました組織変革を専門にコーチングを提供しているStanley D. Truskie 博士は、「組織文化を形成するとき、まず始めるべきは、エグゼクティブ層の『自己認識』の向上である」と説きます。
ここで言う「自己認識」とは、自分を客観的に見ることのできる能力を意味します。さらに言えば、自分の言動が他者にどんな影響を与えているのを認識していればいるほど、「自己認識が高い」といえます。
では、リーダーの「自己認識」はどのように「組織文化」に影響を与えているのでしょうか?
リーダーの自己認識と組織文化の関係とは?
社会構成主義を唱えるケネス・ガーゲンは「『組織文化』とは、主に『対話』の産物である」と定義しています。
例えば、事業の発展には「顧客満足」が最も重要な価値だと認識するリーダーがいたとします。そのリーダーが、自ら顧客に丁寧に対応し、さらに
「お客様が今、最も欲していることは何だろうか?」
「顧客に提供できる最大の価値は何だと思う?」
「今日、お客様について何回考えたか?」
など、「顧客」をテーマに部下に真摯に問いかけ、「対話」をしていれば、その組織には顧客満足の高い「組織文化」が開発されるでしょう。
逆に、イノベーション創発のために「挑戦」する文化を根付かせようと、部下に「挑戦しよう!」とメッセージを投げかけるリーダーがいたとします。
しかし、その掛け声とは裏腹に、部下の持ちこむチャレンジングで新しい提案やアィデアに対して、
「なぜこんな使い物にならないアィデアをもってくるのか?」
「どれだけ成功する可能性はあるのか?」
といった否定的な言動で対応していたとしたら、どうでしょうか?
「リーダーのあり方」が、結果として「挑戦」する文化を損なう障害にもなりかねません。
つまり、「自己認識」が高いリーダーは、自身の言動が周囲にどんな影響を与えるのかを客観的に認識している分、自らの言動を修正することができます。そして、「組織文化」の開発にむけて、意図した結果を導くことが可能です。
一方、「自己認識」が低いと、自身の周囲への影響がネガティブに作用していることに気づかず、目指す「組織文化」の構築を得ることは難しくなるでしょう。
会社の停滞の裏にあったものは何か?
私がエグゼクティブ・コーチングをしていたAさんは、外資系の会社で役員を務めた後、あるオーナー系のメーカー社長に就任しました。その会社は創業者の時代から、社員が互いを大切にし、助け合う組織文化によって業績を継続的に向上させてきました。
オーナーからAさんへの期待は、社員を大切する文化の継続と、未来に向けてグローバルな事業を拡大することでした。
Aさんは就任と同時に、グローバル化へのビジョンを掲げると共に、社員を大切にする経営をすることを、ことあるごとに社員に伝えました。そして、定期的に社員との懇談会を設け、コミュニケーションを大切することを心がけました。また、海外の会社との提携も進め、経営は順調なスタートを切り、株価も上昇傾向にありました。
しかし、社長就任から2年もたった頃から、社員の離職率が少しずつ上がりはじめました。今までになかったことです。グローバル化に伴う社員の価値観の多様化によるもの、という理解もできましたが、しだいに業績も停滞しだしました。
Aさんが、自身のリーダーシップのたな卸しをしたい、とエグゼクティブ・コーチングを受けることを決められたのは、そういうタイミングでした。
お会いしたAさんは、海外経験豊富な経営者という雰囲気をお持ちでした。
海外展開やビジネスのアイデアを情熱的に語ってくれます。しかし、同席している部下の役員の方々が交わすコミュニケーションには、どことなくよそよそしい雰囲気を私は感じていました。
コーチングを開始して1か月ほどが経った頃、役員の方々に、Aさんのリーダーシップや会社についてインタビューする機会がありました。
その結果、わかったことは、
- 社長の海外事業のビジョンやスピード感は尊敬している。しかし、それを実行する周囲は取り残されている
- 社長は、製造現場には来ない。来ても、スーツやネクタイ姿で距離感を感じる
- 話に英語が多く、一方的に話され、腰が引けてしまう
- いつも忙しそうで、社員と対話する時間がほとんどない
- 社員同士、お互い助け合う文化が減っている印象がある
この結果を報告すると、Aさんは、ショックを隠せないようでした。
自分では、役員とコミュニケーションがとれていると思っていた、社員を大切にしているつもりだった、と言うのです。
「していたつもり」からの脱却
Aさんは、1週間近く、その結果を見ながら、落ち込んだそうです。しかし、現実に向かいあうことが経営者の役目だと覚悟し、自ら今回の結果について部下と話し合う機会をもちました。
それを繰り返すうちに、ある役員から「初めて、社長と話し合った気がします」と言われたそうです。
Aさん曰く
「もともとせっかちで、未知を切り開くことが大好きな性分。ですから、海外事業をどんどん拡げていきました。社員とも話し合って進めてきたつもりですが、多くの社員を置き去りにしてきていたようです」
そこから、Aさんは時間をつくり、役員と1対1で話し合う時間を定期的に設けるようになりました。そして、部下たちの話に耳を傾け、
「あなたが最高の力を発揮するために、私が支援できることは何ですか?」
「あなたが成長させたい部下は誰ですか」
など、一人ひとりの強みを引き出すことを心がけて対話をするようにしました。また、社内や工場では、声をかけて歩くようにもなりました。工場では、作業着に着替えました。
しだいに、いろんな場面で、社員から話しかけられることが増えたといいます。
最近は、「役員や部下からの提案が増えています。今は、社員と一緒にこの会社を経営している実感が増してきています」と嬉しそうに語ってくれました。社員が助け合い、会社の業績もしだいに上向きになってきているそうです。
そこには、社員を大切に思うリーダーの姿がありました。
「組織文化」を開発するためには、まずは、リーダーが自分自身をよく認識すること。そのためには、自分の言動を常に観察し、モニターして、時には、周囲からフィードバックをうける。
リーダーの自己認識は組織文化を創造する源ともいえます。
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【参考文献】
Stanley D. Truskie,2011, Transformational Leadership: Using the MBTI to Coach Leaders
Articles on MBTI @ applications & Personality Types
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