Coach's VIEW

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「気合」か「物語」か

「気合」か「物語」か
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「コーチング型マネジメント」に関する本を出版することになりました。昨年の春から準備を始め、今年の8月末頃に出版の予定です。

この間約1年半、出版社とミーティングを重ねてきているのですが、その編集者のAさんから、私との取材を進める中で、ご自身が職場の編集部で「コーチング型マネジメント」を試しているという、嬉しいエピソードを聞きました。

女性敏腕編集者Aさんが語る「試そう」と思った瞬間

私の今までのマネジメントは、典型的なトップダウンスタイルでした。

部下からの相談に対しては、

『これはこうして!』
『さっさとやって!』

彼らの話をほぼ聞かず、即座に指示を出す。

管理職として10年。

見よう見まねでなんとかやってはいましたが、自分のやり方に壁も感じ始めていました。

仕事自体はそれでうまくいってはいるものの、周囲を見ると、自分の部下は誰一人、育っていない。それではだめだと思い始めていました。

自分がいないと仕事は回らない状態でしたが、内心どこかで、自分は仕事ができる上司だ、という自己満足の中にいたように思います。

仕事ができればそれでいい
仕事ができることが最も重要

だと、疑いなく思っていたのです。

桜井さんと「コーチング型マネジメント」の話をしていく中で「仕事はできるが部下との関係性がイマイチな上司」よりも、「仕事はイマイチだが部下との関係性は良い上司」の方が、部下は活性化する。

という話を聞いて、ショックを受けました。

「部下と関わる」ことに対する、自分の「イメージ」が大きく変わりました。それがきっかけで、自分もコーチングを試してみようと思ったのです。まずやれることとして、部下の話を聞くように心掛けるようになりました。

以前だったら、相談されたときには、

私の方が知っている
私が答えをもっている

と思いこんでいるわけですから、間髪入れず、『それは違うよ。このようにやりなさい』

と返していました。

とても些細なことだとは思うのですが、今は、『それは違う!』と思ったときでも、なるべく「どう思う?」と聞くようにしています。そして、相手の答えを待つようになりました。

変化を感じ始めたのは、早くも昨年の夏頃です。

部下からいろいろと話しかけてくれるようになりました。以前の私は、誰からも近寄りがたい存在だったようですが、うまくいっていないネガティブなことも相談されるようになりました。

結果として、仕事の死角がなくなっていきました。仕事全体がうまく回り始めたことを感じました。

組織の状態に関係する「リーダーの3つの力」とは?

次の図は、コーチング研究所がこれまでに実施した、組織のトップ143人のリーダーに対する調査結果で、「事業推進力」「組織影響力」「関係構築力」と「組織の状態」の関係を見たものです。(※)

組織の状態
・メンバーは、目標を達成しようという強い意志を持って業務に取り組んでいる
・メンバー同士がしっかり連携して動いている
など32項目
関係構築力
・部下に気づかせたり、自発的に考えさせる質問をしている
・部下の強みや得意分野を引き出し、伸ばしている
など16項目
事業推進力
・戦略を実現するために明確な計画を立てている
・組織で起きていることを領域ごとに十分把握している
など12項目
組織影響力
・組織のビジョンを明確に示している
・仕事をする上での信念を持ち、それを行動で示している
など12項目

このリサーチからは、「事業推進力」「組織影響力」「関係構築力」の三者が、それぞれ「組織の状態」と相関があることがわかります。

一般的には、「事業推進力」「組織影響力」が評価されてリーダーやマネージャーに登用されることが多く、役職が上がるほどハード面でのリーダーシップを備えていると思われます。それは当然のことですが、このリサーチからは、ソフト面である「関係構築力」も同じように組織の状態に影響を与えていることが推察できます。

「コーチング型マネジメント」は、上司と部下の関係構築に大きな影響を与えます。

「コーチング型マネジメント」の具体的なやり方は、まずは互いがこれからコーチングを行うことに同意した上で、以下のように行います。

  • 定期的に行う(1~2週間に1回)
  • 時間を決める(15分~30分程度)
  • 話を聞く(相手のための時間)

ポイントは「部下のための時間をとって、部下の話を聞くこと」です。「相手の話を聞く」ことは、関係構築に関する多くの要素の土台になっていると言っても過言ではありません。

「話を聞く」 が生む「関係性の土台」と「物語の再構築」

上司は部下に対して生産性を上げるために行動変容を求めます。

もっと早く!
もっと効率的に!
違うやり方!

時には、「気合をいれろ!」「根性見せろ!」「やる気みせろ!」などと言うこともあるかもしれません。

しかし、その人が持っている「イメージ」や「かくあるべき」といったその人なりの「物語」が書き換えられない限り、行動変容が起こることはありません。

編集者のAさんは、「コーチング型マネジメント」という新しい概念に触れ、そして私との対話を通して、部下との関わりに対する「イメージ」、「物語」を書き換えたのだと思います。

そして今度は、Aさんが部下の「話を聞く」ようになったことで、彼らが持っている仕事のやり方や上司との付き合い方など、さまざまな事柄に対する「イメージ」や「物語」が書き換えられ、行動が変化するという連鎖が起こり始めているのだと思うのです。

相手の持っている「物語」を聞き、そして、一緒に相手の「物語」を描く。

頭ごなしの指示や精神論ではなく、相手の話を聞くことが始まりなのです。

それが相手の行動変容に繋がるのだと思います。

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※コーチング研究所調査
組織や部下を成長させるリーダーシップ力とは」(2017年)

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