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下から上に向かう、組織の信頼マネジメントとは?

下から上に向かう、組織の信頼マネジメントとは?
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「組織の方向性を全社に浸透させたい。だから、現場に出て、直接、社員に働きかけよう。それを続ければ、きっと伝わるはずだ」

A社長はこう信じて、全国行脚を続けていました。

ピンマイクで舞台を歩きながら語りかける、日本人離れしたスタイルの社長プレゼンは評価上々でした。

  • 社長の人柄が見えた
  • 社長が近い存在になってきた
  • 入社した時の気持ちに戻れた

プレゼンテーション直後のアンケートには、社長への感謝の声が散見されます。A社長は自らの全国行脚に手ごたえを感じ、意気揚々としていました。

一方で、社長の傍らには、全国の現場の状況を追跡調査する女性がいました。

意気揚々の社長の知らぬところで、何が起きていたのか?

「折り入って、社長には言いづらいご相談があるのですが...」

ある時、彼女から直接私に連絡がありました。

  • 社長の言っていることは綺麗ごとに過ぎない。社長の言うことと、現場で起きていることには大きな乖離がある。
  • 社長の意識と、現場の上司たちの言動に差がありすぎる。社長は、現場の状態を知らな過ぎるのではないか。

こうした現場の声が日々届いている、と言うのです。

「『伝えれば伝わるはず』という社長の気持ちは分かる。

しかし、社長一人が頑張っても、自分の上司を信頼できていない社員たちが多くいる。

この現実を差し置いた社長の話は、却って現場に無力感を与え、社長への信頼低下や、メッセージが伝わらぬ要因にもなってはいないか?」

彼女は、こうした懸念を抱いていました。

そこで私は、この社長とは異なる視点で全社アプローチをしていたB社長のケースを紹介しました。

「上司そのものが会社」と考える社長のアプローチとは?

8000人の組織を束ねるB社長。

「大きな方向性を語るのは社長である自分の役割。しかし、社員にとっては、"自分の上司そのものが会社"である。現場のリーダーが、部下たちに日々、何を語っているか。それこそが重要だ」

このように語るB社長は、自らが語る会社の方向性を浸透するために、「聞けて語れる現場リーダー創り」に集中しました。

具体的には、現場のリーダーたちが、部下と下記のような関わりを増やすこと。そこに目を光らせ続けました。

  • 部下の話を聞く
  • 部下を認める
  • 部下を観察し、適宜、フィードバックをする
  • 部下の目標を常に話題にする

半年間で、これらの項目のスコアは上昇し、現場リーダーと部下の間の信頼関係の向上も明らかでした。

しかし、最も興味深かったのは、社長に関する、次の項目の変化でした。

  • B社長への信頼
  • 社長が発信する、会社の方向性への心からの共感

B社長に関するこの両スコアが、1年前に比べて圧倒的に上昇していたのです。

これは、なぜでしょうか?

組織内の信頼醸成の矢印とは?

ある心理学の学術調査(※)は、下記のように指摘します。

「『現場リーダーは公平だ』と思える社員ほど、その組織の「経営リーダーたち」に対しても、より高い信頼を持つようになる」

つまり、組織内の信頼とは、「下から上に向かって伝達・浸透(トリクル・アップ)される」と言うのです。

B社長自身、このことに直感的に気づいていたようです。

「社員が、直属あるいは身近な上司を信頼できないなら、さらにその上の経営層を信頼するのは難しい。今、自分が信頼や共感を得ているとすれば、それは、現場リーダーたちのおかげによるものである。その基盤があるからこそ、経営者も信頼を得られ、自分が発する方向性が伝わる可能性があるのだろう」と。

因みに、先ほど紹介した、「社長が発信する方針への心からの共感」のスコアと、「私は直属の上司から未来への情熱を感じる」という項目には、統計上の相関関係が認められています。

「私は、現場のリーダー層のおかげで楽をしている」

ニコニコ笑いながら語るB社長は、組織の信頼マネジメントに対して極めて戦略的でした。

組織のトップとして大きな方向性を語る。

それと同時に、現場のリーダーと部下の間の信頼関係構築力の向上にも焦点を当てる。そして、信頼のトリクル・アップ(逆浸透)の作用をテコに、自身の方向性が伝わる信頼基盤を整え、組織を変えていく。

「伝えても、伝わらない」

このジレンマを抱える組織トップに、B社長の伝統的でシンプルな戦略は、ひとつの選択肢になり得るかもしれません。

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【参考資料】
Ashley Fulmer, 2017, Employees Who Trust Their Managers Are More Likely to Trust Their CEOs,Harvard Business School Publishing.

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