Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
汝自身を知れ もう一度
2017年09月06日
「汝自身を知れ」
この古代ギリシアの格言は、ソクラテスが自らの活動の原点としたことでも有名です。「自らを知る」ことの大切さは、古代ギリシア時代から説かれてきたわけです。「自らを知ること」、つまり「自己認識を高めること」がいかに大切であるかは、誰もが理解しているかのように思われていますが、なぜ「自らを知ること」が大切なのでしょうか。
会社の中で「自らを知る」ことの大切さが語られるとき、それは上から下に向けられた教訓のようでもあり、そう語る上司は、すでに「自分を知っている」という前提に立っているようにも感じます。しかし、部下たちは上司に対して思います。
「汝自身を知れ」
上司が部下に対して思うように、部下のほうも、上司の自己認識がもっと深まれば、会社はどれほどよくなるだろうと思っているものです。
私のコーチが問い続ける「あなたって、どんな人?」
私のコーチであるハーレーン・アンダーソン氏は、すでに10年以上の関わりがあるにもかかわらず、常に私にこう問います。
「あなたって、どんな人?」
この10年間、何度となくこの問いに答えてきているのですが、彼女はいつでも同じことを聞いてきます。
「あなたって、どんな人ですか?」
そう問うてくる彼女の表情を見ていると、私を試しているわけではなく、ましてや以前の答えを忘れて聞いているわけでもなく、本当に私に関心をもち、私を「知らない」というところから聞いているのだとわかります。
会社の人たちや、仕事で出会う人たちと話していると、そのほとんどは、仕事のこと、会社の業績のこと、会社で起こっている問題について、また、政治や外交について、AIやブロックチェーンなど最近の技術革新について、はたまた芸能の話題といったことであるのに気づきます。
そして、その会話に参加する人たちのほとんどが、そうした事柄を評価することに夢中なのです。さまざまな事柄を評価したり、評論したりすること自体が、自分の評価につながっていると誤解しているのかもしれません。
こうして、世界を理解することに夢中になっている一方で、私たちは自分自身を変えていくための時間を、いったいどれだけ取っているのでしょうか?
社員の自己認識と会社の業績の関係とは?
「自己認識を高めることが重要だ」と広く言われますが、そのことが社会的にどういう意味をもつかについてはあまり議論がされてこず、また、あくまでも自分自身の問題に過ぎないと考える人がほとんどです。しかし、以前もコラムで触れたとおり、コーン・フェリー社が行ったある調査では、社員の自己認識の高さと会社の業績に関係があることが明らかになったとコーン・フェリーのシニアパートナーであるKevin Cashman氏がフォーブス誌のコラムで書いています。
Cashman氏によると、コーン・フェリーのアナリスト David Zes氏と Dana Landis氏は、486社の上場企業に属する6,977名を対象に、彼らの自己評価と同僚からの評価の不一致(ブラインドスポット)を調べました。二人はさらに、対象者が属する会社の株価パフォーマンスを30ヶ月にわたって追跡し、「収益率 ROR rate of return」がより高い上場企業は、自己認識のより高い社員を雇っていると結論づけたと報告しています。
Cashman氏はさらに続けます。
「Landis氏によれば、『ブラインドスポット』 が、より少ない人々は、パフォーマンスを向上させただけでなく、満足感もより高い傾向があった、という」
システミック・コーチング™では、社内で個人に生じているブラインドスポットだけではなく、顧客や株主、取引先などと会社の間に生じるブラインドスポットにも着目します。なぜなら、人が世界で一人だけで存在しているのではないのと同様、会社も社会全体とつながりをもちながらそこに「在る」からです。周囲との関わりのなかで、自らがどのように認識、認知されているかについての理解を深めることは、会社の収益性や活動全体に影響するのです。
ところで、「自己認識」という、すでにわかったつもりになっていたことにスポットをあてて考える中で気づいたのですが、知識を振り回し、誰かに向かってたくさんしゃべった日は、決してごきげんな気分ではありません。ちょっと不快なものが体の内側に残ります。それよりは、まわりの人たちから自分に対する本音を聞くことができるほうが、ショックはあるものの、不快感はあまりありません。朝起きたときに、ごきげんな自分を感じることができます。
ずっと以前に、友だちが言っていたことをよく思い出します。
「だいたい、人がしゃべっている内容のほとんどは自慢話だ!」
自分がずっと自慢話ばかりしているとは思っていませんでしたが、そう言われてみると、たしかにそうです。
私たちは、自慢話以外に何を話すことができるのでしょうか。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考文献】
Cashman, K., 2014, Return On Self-Awareness:Research Validates The Bottom Line Of Leadership Development, Forbes.com LLC
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。