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能力を向上させるために、本当に必要なこと

能力を向上させるために、本当に必要なこと
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「あなたは自分の伸ばしたいその能力を向上させるために、日々どんなプラクティス(練習)をしているの?」

アメリカにいる私のコーチが、そう問いかけました。

リーダーとして、いかにメンバーに自分の考えを伝えていくのか、そんな話をしている時でした。

私の頭にまず浮かんだのは、

  • 手本になる人を見つけて真似できるところを探す
  • 実際に多くの実践を積む
  • 周囲からフィードバックをもらう

といったことでした。

それらはコーチが問いかけた「プラクティス」に該当するのだろうか?

私が自信なく答えると、コーチは更にこう続けました。

「それで、本当にあなたの能力は向上するのかしら? あなたがその能力を身につけるために、 本当に必要なことはなんでしょうか?」

能力の向上に本当に必要なことは何か?

スポーツの世界でも、音楽の世界でも、練習しなければ能力が身につくことはありません。 それは、仕事で発揮される様々な能力も同じであるはずです。しかし、私たち現代人は忙しい毎日を過ごしています。 新しいことを次から次へと覚え、沢山のことをこなし、そして失敗を最小限に抑えて実践することが求められています。

それゆえ、とかくビジネスの場では、「実践で経験を積む」ことが能力を向上させる現実的、かつ一番の近道だと思いがちです。

確かに、実践経験は多くのことを私たちにもたらしてくれます。が、それは本当に能力向上の近道なのでしょうか?

TEDに、教育者のエドアルド・ブリセーニョ氏の「自分にとって大切なことがもっと上達する方法」(※1) という講演があります。

ブリセーニョ氏は、タイピングを例に次のように話をします。

「私たちは、日に何時間もパソコンに入力しますが、入力速度は上がりません。でも仮に、毎日10~20分間、今のスピードより10~20%早く入力しようと集中したなら、入力速度はもっと早くなるでしょう。さらに、何を間違えるのかを特定し、それらの単語のタイピング練習をすれば、いっそう早くなるはずです」と。

ブリセーニョ氏は、私たちの時間を「学習領域」と、「パフォーマンス領域」に分けて説明します。

「学習領域」とは、「上達」を目的とし、計画された行動を行います。失敗が許される環境のなかで学び、そして新しい能力を身につけていきます。

一方、「パフォーマンス領域」は、 可能な限りベストを尽くして物事を実践する時間です。 そのため、すでに身につけている能力を最大限使って、失敗は最小限にとどめようとします。

つまり、「パフォーマンス領域」では現在のパフォーマンスを、「学習領域」では成長や未来のパフォーマンスを最大化します。

「実践で経験を積む」ことで失敗から学ぶこともあるでしょうが、実はこれは「パフォーマンス領域」に該当し、必ずしも未来にむけた能力向上への「近道」ではないということが言えそうです。

ブリセーニョ氏はこう言います。

「私たちの多くが一生懸命やってもそんなに上達しないのは、パフォーマンス領域に大半の時間を費やすからです。これが成長を妨げ、皮肉にも長期的には伸び悩む原因を作りだします」と。

質の良い練習とは?

「学習領域」とは、つまり「練習をすること」です。では能力を向上させるためには、どんな練習をするのが効果的なのでしょうか。

それを理解するためには、まず「能力向上」とは何が起きることなのかを理解する必要があります。「能力向上」とは、脳の中に、能力が発揮されるために必要な神経回路を作り、それがスムーズに機能するように強化することです。

では、そのそうな神経回路を作りだし、強化するためにはどんな練習が効果的なのでしょうか。

世界各地の「才能開発所」や、スポーツや芸術、音楽、ビジネス、数学などさまざまな分野で逸材を養成している機関を取材したジャーナリスト、ダニエル・コイル氏の著書『才能を伸ばすシンプルな本』(※2)に、能力を伸ばす練習の秘訣が沢山書かれています。その中のいくつかを紹介します。

【能力の限界近くで練習する】

能力の限界近くで練習すると、何度もミスが発生します。脳の神経回路では、ミスが認識され、修正されます。このプロセスを通じて正しい神経回路が作られていきます。

【時間よりも繰り返し練習する】

大事なのは練習時間ではなく、繰り返した回数になります。繰り返されるたびに、脳はミリエンという新しい層を特定の神経回路の周辺に追加します。絶縁体の性質を持つミリエンが増えた神経回路は、信号の伝導速度が高速かつ正確になります。

【スキルを細分化する】

身につけたい能力を最小の要素に細分化します。そして、その一つひとつを習得するまで練習し、それぞれの要素をつなげていきます。プレゼンテーション能力の場合、ロジカルに話を構成するスキル、伝えたいことを明確にするスキル、相手に合わせた話し方をするスキル、聞きやすい声で話すスキル、緊張しないで話すスキルなど、まだまだあるでしょう。これら一つひとつを練習の対象にします。

【毎日、少しずつ練習する】

5分間の短い時間でも、毎日の練習が脳の成長を促進します。時々練習する程度だと、脳は遅れを取り戻すことに終始し、成長を促すことに繋がりません。

【迅速なフィードバックを得る】

間違ったことを繰り返しても練習にはなりません。うまく出来ているのか否かを知り、必要な修正をすることが大切です。フィードバックが迅速であればあるほど、記憶に残りやすくなります。

私がコーチングで実践した練習

私はコーチと、自分に必要な能力を向上させるために、どんな練習が必要なのか、そのことを繰り返し話しました。磨きたい能力をいくつかのスキルに細分化してリストアップし、それら一つひとつを身につけるためにどんな練習が工夫できるのか、その練習で本当に身に付くのかについて話すようになりました。

「自分の考えをメンバーに伝え、それを浸透させる」

この能力のために私が必要だと考えたのは、私が一方的に話すだけでなく、メンバーにもそのことについて語ってもらうことでした。

磨くべきスキルは、

  • メンバー皆が考え、語りたくなるような共通の問いを作るスキル
  • 話すことの目的を明確にするスキル
  • 聞き手が手に入れるものを明確にするスキル
  • 聞き手の理解を確かめるスキル

などでした。

そして、「共通の問いを作る」を磨くために、伝えたいメッセージを明確にし、共通の問いを作り、それを誰かに話してフィードバックをもらう。フィードバックを得たらすぐに質問を修正し、またその場で質問をつくり、話し、フィードバックをもらう。そしてさらに質問を修正し聞いてもらう。

それを毎回3回以上繰り返す「練習」をすることにしました。

コーチは言います。

「私とのセッションでどんなに話しても、能力そのものは向上しません。きっかけが生まれるだけです。あとは、あなたの練習次第よ」

あなたが向上させたい能力は何ですか?
そのために、どんな練習をしますか?
それを、いつやりますか?

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【参考資料】
※1 エドアルド・ブリセーニョ、TED「自分にとって大切なことがもっと上達する方法
※2 ダニエル・コイル(著)、弓場隆(翻訳)、『才能を伸ばすシンプルな本』、サンマーク出版、2013年
※ 加藤 洋平、『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』、日本能率協会マネジメントセンター、2017年
※ ジョフ・コルヴァン(著)、米田隆(翻訳)、『究極の鍛錬』、サンマーク出版、2010年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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