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「パズル」を解くリーダーと「ミステリー」を解くリーダー

「パズル」を解くリーダーと「ミステリー」を解くリーダー
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アメリカの国家安全保障の専門家、グレゴリー・トレヴァートンが明確にした「パズルとミステリーの違い」が『失敗の技術』という本に紹介されています。(※1)

その説によると、オサマ・ビンラディンの居場所を探るのはパズルを解くのに似ているのだそうです。必要な「ピース=居場所に関する情報」を手に入れさえすればパズルは完成し、潜伏場所が判明します。そこには、洞察も判断も必要としません。

一方、サダム・フセイン政権崩壊後のイラクがどうなるか? と考えるのはミステリー。事実を集めるだけでなく、不確実な状況を判断し、評価する作業が求められます。

つまり、パズルは、情報が手に入れば解くことができます。一方、ミステリーを解くためには、過剰な情報の中から「何が重要な情報であるのか?」を見極め、分析し、洞察することが必要だと言うのです。

人はなぜ、「パズル」の視点で考えがちなのか?

トレヴァートンは、「サダム・フセインが支配するイラクの問題を、アメリカの諜報機関は『イラクは大量破壊兵器を保有しているのか?』というパズルの視点で対応した。しかし、もし『サダム・フセインは今、何を考えているのか?』というミステリー視点で対応していたら、事態は異なる展開をしていたのではないか」と説いています。(※2)

私たちは、ともすると、ミステリーよりもパズルの視点で物事をとらえようとする傾向があります。

それは、人類の究極の目的は、その誕生以来、「生存すること」だからです。そこで、人は自身が生き残るための問いを意識的・無意識的にたくさんしてきました。そして、その問いの多くが、パズルの視点のものであったことが1つの原因ではないかと考えられます。

たとえば、

「この木の実は食べられるのか?」
「獲物はどこにいるのか?」
「敵は爆撃機をどれぐらい保有しているのか?」
「他社と比較してうちの会社の製品の優位性は何か?」
「自分は評価されているのだろうか?」等々。

これらの問いかけは、必要な情報=ピースが整えば、解くことができます。つまり、パズル的な視点による問いといえます。

しかし、組織のリーダーが今、目の前にある問題をパズルの視点だけで考えるとどうなるでしょうか?

視点を移動させた、ある社長の話

先日、ある企業のA社長が、コミュニケーションのうまくいっていないB役員について、

「B役員は、なんで、こうも、話しづらい人なんだろうか?」と繰り返しおっしゃっていました。

「B役員は、なぜ話しづらいのか?」という問い自体は、オープン・クエスチョン(開く質問)と呼ばれるもので、通常は、新しい気づきをもたらすことができます。

しかし、A社長自身の問いへの回答は、

「コミュニケーション能力がないから」
「全体の利益を考えてないから」
「A社長のことを好きでないから」

というものでした。

問いに対して、情報=ピースを探し、「当てはめる」ような印象です。この回答からは、何か新しい発想や行動が起こることはありませんでした。

そこで、「この問いかけを、少し変えてみましょう」とA社長に提案してみました。

すると、A社長が考えたのは、

「B役員は、そもそも、話がしづらい人なのだろうか?」
という問いかけでした。

この質問の形式はいわゆるクローズド・クエスチョン(閉じる質問)といわれるもので、「前提」を問う質問です。

この問いをしてみると、「たしかに、いつも、必ず、誰にでもB役員は話がしづらい人というわけではない」ということに意識の目がむきます。

そして、次にたどりついたのが、

「なぜ、私とB役員とは話がしづらいのだろうか?」

という問いです。

この問いをきっかけに、A社長は自身とB役員の関係についてより注意深く観察するようになったそうです。そして、

「私の何が、話しづらくさせているのか?」
「B役員は、どんなテーマであれば話しやすいのか?」
「B役員は、誰とは話しやすそうか?」

など、新たな問いかけをする機会が増えたと言います。結果、B役員への関わりの選択肢が増え、以前ほどには話しづらい感じはしないとおっしゃっていました。

もし、自分でパズル的な視点だけで問いかけをしているのではないかと感じたら、A社長が試みたように、問いかけを「閉じる」または「開く」ことで、視点を変えていくことは可能です。

複雑で曖昧で、不確かな時代に必要なミステリーのパラダイム

アメリカの「質問」に関する教育機関、ライト・クエスチョン・インスティチュートでも、この技法は質問のレベルを高めると説いています。

複雑で曖昧で、不確かな現代には、過去の既存の情報や答えでは、問題は解決できないことが増えてきています。パズルよりミステリーのパラダイムが必要になってきています。

偉大な芸術家も科学者も、問題にはパズルよりミステリーのパラダイムとして向き合っています。アルベルト・アインシュタインは「我々の経験で最も美しいのはミステリアスなことだ。それは真の芸術と科学の源である」という言葉を残しています。

リーダーは、何かを問う時には、自身がパズルのパラダイムで問いをしているのか、ミステリーのパラダイムでしているのか、立ち止まって考えてみるのもいいでしょう。

あなたは今、パズルを解くリーダーですか? それともミステリーを解くリーダーですか?

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【参考資料】
※1 マルコム・グラッドウェル(著)、勝間和代(翻訳)、 『失敗の技術 人生が思惑通りにいかない理由』、講談社、2010年
※2 イアン・レズリー(著)、須川綾子(翻訳)、『子どもは40000回質問する ~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』、光文社、2016年
※ ウォーレン・バーガー(著)、鈴木 立哉(翻訳)、『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』、ダイヤモンド社、2016年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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