Coach's VIEW

Coach's VIEW は、最新のコーチング情報やリサーチ結果、海外文献の紹介を通じて、組織改革や人材開発、リーダー開発グローバルビジネスを加速させていくヒントを提供するコラムです。


「完成させない」技術

「完成させない」技術

「人間は、一人ひとり違う」

この概念は、今日、多くの人が当然のように捉えているのではないでしょうか。

ところが、70年前にこんな面白いエピソードがありました。

なぜ、飛行機事故は減ったのか?

1940年代の末、米空軍はある発見をします。

当時、パイロットが飛行機を制御できなくなる事故が頻発し、あらゆる原因調査の結果、コックピットの設計そのものに問題があることに注目しました。コックピットは、1926年にはじめて設計された当時のパイロットの平均値に合わせたものに決められたままだったのです。

4,063人のパイロットの身体測定を行い、「平均的なパイロット」を割り出しました。そしてその「平均的なパイロット」と、「実際のパイロット」一人ひとりを比較していったのです。

結果はどうだったのか。

なんと4,063人のパイロットのなかで、測定した10項目すべてが平均の範囲内におさまったケースはゼロ。つまり、「平均的なパイロット」など、存在しなかったのです。

そこで米空軍は、「平均値」という考え方を捨て、さまざまな体のサイズに対応できる「調節可能なシート」を考案し、飛行機事故を減らすことに成功します。現在、自動車にも標準装備されている調整可能なシートは、この発見が元で生まれたそうです。

この調査を行った、ギルバート・S・ダニエルズ中尉は、レポートの中で、「平均的な人間に基づいて設計されたシステムは最終的に失敗する」と結論付けています。

観客動員数が増加した、広島カープのコンセプトとは?

コーチングは、その三原則のひとつに「個別対応」があるように、「一人ひとり違う」という前提に立ったコミュニケーションのテクノロジーです。

このコラムを読んでいらっしゃる管理職のみなさんは、「個別対応」の重要性を認識し、部下一人ひとりに合わせた関わり方や、開発方法を取り入れながら個別対応型のマネジメントを実践されているのではないでしょうか。

「Aさんは、結果を重視するタイプだから、思い切って全部任せてみよう」
「B君は、プロセス重視なので、こまめに関わって、彼の相談にはすぐに乗るようにしよう」

というように、部下への関わり方を、個別に完成させているのだと思います。

ただ、この個別対応型マネジメントの先に、「真の個別対応」とも言える、一歩進んだ個別対応型のマネジメントがあると思うのです。

先日、「真の個別対応」を手に入れるヒントを、見つけました。

今年、プロ野球のペナントレースでセ・リーグ優勝を果たした広島東洋カープは、12球団の中でも、観客動員を劇的に増やしているそうです。

2005年に100万人前後であった観客動員が、2016年シーズンには216万人と、約2倍の動員に成功しています。

ファンの増加の背景には、選手の魅力やチーム力の強化があることはもちろんでしょう。

しかし、もうひとつ、野球場を「レジャー空間の場」とした、新しい観戦の楽しみを創りだす工夫を凝らし、スタジアムを進化させ続けていることも大きな要因のようです。

スタジアム創りのコンセプトについて、広島東洋カープの広報の方は、「完成させないようにしているのです」とテレビでおっしゃっていました。

つまり「完成させない」と決めることで、変化を起こし続けることに成功しているのです。

完成させない、個別対応型マネジメントとは?

このことから考えると、個別対応型マネジメントを実践している方には、個別の関わり方を「完成」させているが故に、「固定化」させてしまっている可能性がある、と言えます。

今、皆さんの目の前にいる部下は、本当に、昨日の部下と一緒でしょうか?

もし昨日と同じ質問をしたら、部下は昨日と全く同じ考えや答えを言うのでしょうか?

恐らく、昨日の部下は、昨日の仕事の後に、誰かと会い、誰かと会話をし、何かに触れ、新たな知識を得、そこから刺激を受けることで、考え方が微妙に変化しているはずです。とすると、もはや別人になっているとも考えられ、昨日の関わり方が、今日も通用する保証はない、ということです。

「"真の"個別対応」への第一歩は、部下への「関わり方」を「完成させない」と決めることから始まります。

「Aさんは、結果を重視するタイプだから、思い切って全部任せてきた。けど、今日のAさんはどうだろう?」

「B君は、プロセス重視なので、こまめに関わって、彼の相談にはすぐに乗るようにしてきた。が、彼の成長を考えると、思い切って任せてみたらどうなるだろう?」

ちょっとした違いですが、「部下のいつも」との違いに気づき、「新しい関わり方」が見えてくる可能性があります。

部下への「関わり方」を「完成させない」ことで、新鮮な興味関心を手に入れることができるはずです。そして、「関わり方」を「変化させ続ける」ことで、部下を「最速で」成功させる方法を手に入れることができるかもしれません。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

【参考資料】
『平均思考は捨てなさい』(早川書房)
トッド・ ローズ(著)、小坂恵理(翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

関連記事