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なぜ「ヨコ」のコミュニケーションは難しいのか?

なぜ「ヨコ」のコミュニケーションは難しいのか?
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昨年のNY Times Magazineに、このような記事がありました。

グーグルが、自社内の優れたチームの特長を知るために180のチームを分析したところ、優れたチームのメンバーは、互いに相手の声や表情といった「非言語」のメッセージを汲み取ってコミュニケーションをしていることが分かった、というものです。(※1)

グーグルのような先進技術を駆使する企業で「対面」のコミュニケーションが力を発揮しているというのは興味深いことです。

1990年代以降、インターネットの進化によって、多くの「対面」コミュニケーションがメールに置き変わっていったように見えました。ところが、メールによるコミュニケーションが力を発揮している部分は、実は、限られているのかもしれません。

「対面」による依頼と「メール」による依頼

コーネル大学のバネッサ・K・ボーンズ助教授らは、「見知らぬ相手」に対して架空のアンケートへの回答を依頼する、という実験を行いました。実験は、「対面」で依頼するグループと「メール」で依頼するグループの2つに分かれて行われました。

その結果、「対面」による依頼の成功率は、「メール」に比べて34倍も高かったのです(※2)

「メール」は基本的に「言語」のみのコミュニケーションですが、「対面」は「言語」+「非言語」のコミュニケーションです。

ボーンズ助教授らは、その後の実験で、人は他人の依頼を受け入れるかどうかを、非言語のメッセージで決めていることがわかった、と述べています。(※3)

ところが、この話はなんとなく腑に落ちません。

なぜなら、「依頼」は仕事で最も重要なコミュニケーションの一つですし、私自身も多くの「依頼」をまさに「メール」で行っています。そして、経験的に、メールによる「依頼」はもっと成功している気がするからです。

「メールによる依頼」が成功するとき

そこで考えられるのは、「依頼される側」に「依頼を受け入れる準備」がある場合は、メールだけでも受け入れられやすいのではないか、ということです。

上司と部下といった「序列」のはっきりした関係性では、部下は上司からの「メールによる依頼」を受け入れる心の準備が出来ている場合が多いはずです。先にご紹介したボーンズ助教授らの実験は「見知らぬ相手」を対象に行われたものでした。つまり、明確な「序列」がある場合の上から下への依頼においては、「メール」と「対面」の差は、それほど大きくないのかもしれません。

そう考えると、「タテの関係」で、上司からのメールによる依頼には即座に応じても、「ヨコの関係」である人事や経理、〇〇業務改革室といった他部署からのメールによる依頼になると、なぜかつい、ネガティブに反応してしまう、という話も理解できる気がします。

先日、テスラのCEO、イーロン・マスクが社員に送ったとされるメールがネット上で公開されていました(※4)。要約するとこのような内容です。

「会社の中で情報がどのように扱われるかには2つの方法がある。これまでの一般的な方法は上司を介したコミュニケーションだ。しかし、部下から上司に、さらにその上司へと話を持っていき、そして今度は逆に上司から部下へ、またその部下へと話をするような方法は極めて無駄だ。

テスラでは、会社全体の利益のために働くことが全ての社員の義務だと思ってほしい。そのためには、誰が誰にコンタクトをとっても構わない。もちろん私に直接でも構わない。他人の許可を待つことなく必要な相手にすぐにコンタクトしてほしい。超高速かつ確実に仕事を進めるために、コミュニケーションを阻害するサイロをつくってはならないのです」

イーロン・マスクだけでなく、実は最近、エグゼクティブ・コーチングのクライアントである日本企業の経営者の多くの方が、従来通りのタテの組織を維持しつつも、部門や階層を越えたコミュニケーションをもっと増やしたい、とおっしゃるのです。

その目的は、大きく分けると、スピードアップしたい、イノベーティブなアイディアを増やしたい、ミスやトラブルの隠蔽を防ぎたい、の3つです。

ところが、これまで見てきたように、「ヨコの関係」には、「タテの関係」以上に非言語のメッセージが必要となる可能性があります。

このことは、サルとゴリラの違いからも見ることが出来そうです。

序列社会のサルと、序列なきゴリラの決定的な違いとは?

霊長類の研究で有名な京都大学の山極寿一教授によると、サルの社会は、序列が完全に明確なヒエラルキーの世界であるため、弱い者は強い者に従うのがルールです。

ところがゴリラは全く逆で、勝ち負けの概念がなく、群れの仲間の中でも序列を作らないという特徴があります。

サルには、他のサルの非言語のメッセージを汲み取るようなことはありません。上下がはっきりしている社会では、その必要がないからだと考えられます。

しかし、ゴリラは非言語のメッセージを読み取る能力にたけ、顔を向き合って視線を交わしながら食事をしたり、人間の様子を見て感情を読み取ろうとしたりするのです。ゴリラの社会には序列がないため、集団生活を営むために、互いの非言語のメッセージを汲み取る能力が発達したと考えられるのです。(※5)

「序列」がない社会ほど、非言語のメッセージの必要性が高まるのだとすると、企業におけるヨコの関係はもちろんのこと、町内会や子どもの学校の父母会、家族や親せきとの付き合いのように序列がはっきりしない関係では、思った以上に「非言語」のメッセージを増やしたほうが良い、ということになります。

ヨコの関係であるにもかかわらず、みんなが集まる場に顔も出さずにメールや文章だけを送ったり、序列のないヨコの関係の居心地の悪さから「私は〇〇会社の部長です」などと、その場にタテのコミュニケーションを持ち込もうとしても、うまくいくことは少ないでしょう。

今後、組織のコミュニケーションはタテの関係だけには頼れなくなります。組織横断的なプロジェクトなど、ヨコの関係でのコミュニケーションが増えれば増えるほど、相手の声や表情から非言語のメッセージを汲み取り、自分も言葉だけでなく非言語のメッセージを駆使することが、いっそう大切になってくる可能性があるのです。

先に紹介したボーンズ助教授らの実験で、もう1つ興味深いことがありました。

「対面」と「メール」では成功率に34倍もの大きな開きがあるにも関わらず、実験に参加した人達は、どちらのグループも「およそ半数がアンケートに答えてくれるだろう」と楽観的な予想をしていたというのです。

私たちは、まだまだ、非言語のメッセージの大きさに気づいてもいないのかもしれません。

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【参考文献】
※1 Google Finds That Successful Teams Are About Norms Not Just Smarts

※2 Ask in person: You're less persuasive than you think over email
M. Mahdi.Roghanizada,Vanessa K.Bohnsb,
Journal of Experimental Social Psychology Volume 69, March 2017, Pages 223-

※3 「何かを依頼したときの成功率は対面がメールの34倍だった」
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
HBR.ORG翻訳マネジメント記事 2017年06月26日

※4 
This Email From Elon Musk to Tesla Employees Describes What Great Communication Looks Like

※5 山極寿一(著)、『「サル化」する人間社会』、集英社インターナショナル、2014年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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