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変革をやり遂げるために必要な2つの要素

変革をやり遂げるために必要な2つの要素

「部下に権限を委譲したが、気がつくと自分が手を動かしてしまっている」

「M&Aで人事制度やITシステムを統合したが、社員が積極的に協力せず、予定が遅れている」

組織に変革を起こそうとしても、進まない場合がよくあります。

変革の推進を阻む最大の要因は何なのでしょうか?

ハーバード・ケネディスクールで、リーダーシップの講義を35年間担当しているハイフェッツ氏は、その要因を「技術的問題 Technical Problems」と「適応課題Adaptive Challenges」の2つの要素から論じています。(※1)

「技術的問題」と「適応課題」とは?

まず、ハイフェッツ氏のいう「技術的問題」と「適応課題」の定義から見ていきましょう。

同氏は、「技術的な問題」を次のように説明しています。

技術的問題は、かなり複雑で重要な場合もあるが、すでに解決策が分かっており、既存の知識で実行可能である。高度な専門知識、組織内の既存の構造、手続き、実行方法によって解決できる。

つまり、「技術的問題」は、目標達成に必要な知識やスキルを身につければ対処することができる、ということです。

一方の「適応課題」については、このように書いています。

適応課題は、人々の優先事項、信念、習慣、忠誠心を変えなければ対処できない。発見を導くような高度な専門性だけでなく、ある凝り固まった手法を排除し、失うことを許容し、改めて成功するための力を生み出さなければ前に進められないのだ。

「適応課題」は知識やスキルの獲得では対処できないもので、解決するには自身自身を変化させる必要がある、ということです。

大切な何かを成し遂げようとするとき、私たちは、この2つの要素を意識して対処しているでしょうか?

リーダーの権限委譲を例に考えてみましょう。

「技術的問題」の対処には、次のような行動が考えられます。

  • 権限委譲を実行するための知識が不足している。だから、他のリーダーや書籍から権限委譲の方法について学ぶ
  • 委譲する仕事が不明瞭で分からない。だから、仕事をリストアップして、それぞれに求められる能力要件を整理する

このように、「技術的問題」は、探せば見つけられそうです。また、それに対してプランを立てて行動していけば、着実に「権限委譲」を進めていくことができます。

では、「適応課題」の方はどうでしょうか。

「適応課題」として対処するには、権限の委譲を妨げているであろう、自分の優先事項や信念を見つめなおした上で、「新しい考え方」を探る必要があります。

その対処方法については、ハーバード大のキーガン教授の方法論を参考に考えてみたいと思います。(※2)

まず、「権限委譲を妨げている自分の優先事項・信念は何か?」を問い、自分自身を知ることが第一歩になります。

そのためには、今現在の自分の習慣や行動をリストアップします。たとえば、このような項目です。

  • 権限委譲にむけて全てを相手に任せようと思いながら、つい、口を出してしまう
  • 委譲する相手とのコミュニケーションよりも、実務の時間を優先させてしまう

次に、権限委譲を阻む行動をとっている「理由」を考えます。これらの行動を選んでいる、自分自身の心に潜む本当の理由、「裏の目標」と呼ばれるものがあるはずです。

「裏の目標」には、次のようなものがありそうです。

  • 多くの仕事をこなすことで他人に認められたい。
  • 現場から、手を動かしていない人だと思われたくない。
  • プレーヤーとしても優れているところを示しておきたい。

こうすることで、「権限委譲の停滞」の根源である自分の現在の優先事項や信念が見えてきます。

そして、「理想の状態」を実現するには、どのような「新しい考え方」が有効なのかを見つけていきます。

とはいえ、いきなり考え方を変えるというのではなく、「新しい考え方」に基づいた小さな行動を試し、検証しながらバージョンアップしていきます。

このプロセスを進める過程では、どうしても、快適な元のスタイルに戻る力が働き、簡単には進まないことが多いでしょう。「適応課題」へ対処するには、答えのない問題に対して、自分自身の「考え方」を変えていくという心理的な抵抗感があります。だからこそ、人は無意識にも「技術的問題」への対処に偏りがちになるのではないでしょうか。

目標に向けてのプランを決めても、実行できない、続かない状態となる原因は、「技術的問題」の側面のみを解決しても、「適応課題」の側面を解決できていないことが多いのではないかと思います。

あなたの目標達成に存在する「適応課題」はどんなものでしょうか。

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参考文献
※1
『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』(栄治出版)
ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー、アレクサンダー・グラショウ (著), 水上雅人 (翻訳)

※2
『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版)
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー (著)
池村千秋 (翻訳)

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