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自己認識をあげるもう一つの方法「二重ループ学習」とは何か

自己認識をあげるもう一つの方法「二重ループ学習」とは何か

私たちは、どうしたら自分が周囲に与えている影響に早めに気づき、できる限り望ましい影響の方向へ、できる限り速やかに、そして前向きに、修正することができるのでしょうか。

組織において自己認識を高めるツールとして、よく用いられる手法に360度フィードバックがあります。みなさんは、これまで360度フィードバックで、自己評価と他者からの評価のギャップに愕然とされた経験はないでしょうか。360度フィードバックは有効なツールではありますが、結果を受け取るのが難しく、逆効果となってしまうこともあります。少なくとも私には大きなショックを受けた経験が二度ほどありますし、何度体験しても、なかなか慣れないものです。

リーダーは自分を高く評価する?

基本的に人は「見たいものを見て、聞きたいことを聞く」、そして自分は「他と比べてできる奴だ」と思い込みやすい生き物である。そんな調査研究は多数あります。

ハーバード・ビジネス・レビュー掲載のリサーチ『人はそれほど自己認識は高くない、特に職場では』(※1)は、「人は、自分自身のケーパビリティに関して、お粗末な『鑑定士』」と評します。そのリサーチでは、「自己評価」と 「客観的な評価 」との間の平均相関係数は0.29だったと。相関係数は、1.0が「一致」を意味するので、0.29という数字は、たしかに「お粗末な鑑定士」を示すと言えるでしょう。

また、脳科学の世界では、人は好みの情報に耳を傾けやすく、嫌な情報は無意識に排除しようとするのは自然のことだと言われています。脳科学者で薬学博士である東京大学池谷裕二氏は、その著書の中で、エジンバラ大学ジョンソン博士の仮説を引用しながら、以下のように述べています(※2)。

「(ジョンソン博士らは)自己の能力を誤って高く評価する人は、競合においてしばしば有利に働き、結果として集団のなかで優位になっていくことを証明しました。戦わずして勝利はない。向こう見ずであることは最初の一歩を踏み出すことに一役買うのでしょう。」

つまり、組織を率いるリーダーは、ある程度「お粗末な鑑定士」でいいというのです。

「自己認識の向上」を重要視するエグゼクティブ

上の例が示すように、リーダーにとって、自己評価と他者からの評価にギャップがあることは、ある程度は許容できることなのかもしれません。しかし、他者の協力を仰ぎ、一人では成しえない成果をあげようとするならば、自己認識と他者からの認識のギャップは、必ずしも好ましいとは言えません。自己を冷静に客観視することも、リーダーにとっては重要なことです。実際に、コーチングにおいて「自己認識を上げること」に取り組むエグゼクティブが一番多いという調査もあります(※3)。

「二重ループ学習」で自己認識を上げる

アメリカの組織心理学者クリス・アージリスとドナルド・ショーンの名を世に知らしめた業績のひとつに、「二重ループ学習」という概念の提唱があります(※4)。「単一ループ学習」とは、決まった枠組みの中で、同じことを繰り返す学習方法。一つのことを強化する場合に有効です。一方、「二重ループ学習」は、決まった枠組みの中で繰り返し学びつつ、その枠組みを超えた新たな可能性を模索しながら学ぶ学習をいいます。「二重ループ学習」には、学習のやり方そのものの正しさを問うフィードバックループがあるため、新しい知識や情報を取り入れつつやり方を修正していくことが可能になります。この考え方は、組織論の中で使われますが、個人の学習に置き換えても、同じことが言えそうです。また、常に前提を問いかける存在である私たちコーチは、エグゼクティブに対し、「二重ループ学習」をしかけているといってもいいかもしれません。

私は、某大手メーカーのAさんに、3年間にわたってコーチングをさせていただいています。その経験の中で、Aさんのあり方にエグゼクティブが自己認識を高める際のひとつのヒントがあると感じています。

3年前、コーチを受け始めた当初のアセスメントで、Aさんの自己評価と部下からの評価には大きな差がありました。Aさんはそのギャップに直面し、ご自身の変革に取り組まれました。

この3年間を振り返り、Aさんは、行動の後に、次のような問いを投げかけて、自身について振り返ることが増えたといいます。

「私は、会議中にどのような振る舞いをしただろうか」

「私が、部下たちの結果に及ぼしたポジティブな影響にはどのようなものがあるだろうか、あるいはネガティブな影響にはどのようなものがあるだろうか」

Aさんは、この間、本部長から部門トップ、さらには取締役になられました。

Aさんの自らへの問いかけは、まさに「二重ループ学習」を促す問いだったと思います。たとえコーチがいなくても、自らを客観的に見つめ、前提を問い続けることで、望ましい方向へ速やかに修正していかれました。

組織の上に行くほど、耳の痛い情報が入りにくくなることは世の常です。それを補完するためにも、リーダーが、実践的な内省につながる自らへの問いをもつことは、組織にとって、より最善に近いシナリオを探り、より重要な事柄に気づいていくことにつながっていくのではないでしょうか。

もし、今日から「二重ループ学習」の問いを自分に投げるとしたら、あなたはどんな質問をしますか。

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【参考文献】
※1
Research: We’re Not Very Self-Aware, Especially at Work
by Erich C. Dierdorff and Robert S. Rubin
March 12, 2015
Harvard Business Review
Copyright © 2017 Harvard Business School Publishing

※2
『 脳には妙なクセがある 』(扶桑社)
池谷裕二(著)

※3
QUARTZ
"The No. 1 thing CEOs want from executive coaching? Self-awareness"

※4
『 リフレクティブ・マネジャー ~ 一流はつねに内省する~ 』 (光文社)
中原淳(著)、金井壽宏(著)

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