Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
組織を成長させるリーダーのあり方
コピーしました コピーに失敗しましたみなさんの組織は、日々成長していますか?
シンプルに言えば、属する一人ひとりが成長すれば、組織は全体として成長します。たった一人の、桁違いな成長が組織を一気に変えることもあるかもしれません。ただ、組織が長い間、強くあるためには、一人ひとりの成長は欠くことのできないものです。
では、どうすれば、個人は組織の中で成長していくことができるでしょうか?
Jリーグチェアマンが発見した、一流選手の「成長する要素」とは?
先日、Jリーグチェアマンの村井満さんに弊社で講演をしていただきました。村井さんはリクルートで人事担当執行役員、グループ事業会社社長を務めた後、Jリーグの再生を託され、チェアマンに転身しました。
この村井さん、チェアマンに就任して、ある事に興味を持ちました。
Jリーグのチームに入って、2~3年で引退に追い込まれる選手もいれば、世界で活躍し代表に選ばれる選手もいる。
その違いはいったい何に起因するのか?
50に渡る選手の能力を見る項目を選び出し、それを基に、監督やコーチなどにインタビューをしていったそうです。結果わかったのは、どうも、本田圭佑も、岡崎慎司も、元々、鋼のような「心」を持っていたわけでもなく、「技」が特段周りの選手と比べて優れていたわけでもなく、「体」力が抜群だったわけでもない。
つまり、決して彼らの「心技体」が図抜けていたわけではなかった。
では何か。
一流と言われるまでに成長した選手に共通していたひとつの要素は、「傾聴力の圧倒的高さ」だったそうです。
ミスをする。失敗する。どうすればよかったのか? どう改善できるのか? 頭を悩ます。その時に、ふさぎこむのではなく、自分の欠点、弱さと向き合い、それを超えるために、周りに助言を求める。話を聞く。何度でも納得するまで聞き続ける。
こうした「傾聴力」が、彼らを一流に引き上げた大きな要因だったと村井さんは語られていました。
元SEのエグゼクティブコーチは「〇〇魔」だった
弊社はエグゼクティブ・コーチングの会社ですが、前職でもエグゼクティブコーチだった人間は一人もいません。従って、社員は入社してから、エグゼクティブコーチになるためのトレーニングを受けることになります。
大企業のトップのコーチをするわけですから、一朝一夕にエグゼクティブコーチになることはできません。Jリーグと同じで、残念ながらエグゼクティブコーチになることができず、別のキャリアを歩み始める人間もいます。
そんな中で、圧倒的なスピードでエグゼクティブコーチになり、現在多くの大企業のトップを高い品質でコーチングしているK君がいます。
彼はもともとシステムエンジニアで、コーチングのコの字も知らない状態で入社しました。入社したての頃から、彼はとにかく「質問魔」で、わからないことがあるとすぐに私に電話してきました。朝だろうが、夜だろうが、「今、ある方のコーチングを終えたところですが、質問があります。10分いいですか?」「どうすればこういうクライアントの方に行動を起こさせることができるでしょうか?」「どんな問いを投げると視点が変わるでしょうか?」
弊社は大きな会社ではありません。それでも、入社間もない社員が社長に質問する、しかも頻繁に聞く、とういうのは、多少ハードルがあると思います。
しかし、彼はそのハードルをものともしない。
彼もまた圧倒的な「傾聴力」で、エグゼクティブコーチとしての階段を素早く上りました。
わからないことがあれば聞く。
知らないことがあれば聞く。
できている人を探して聞く。
考えてみれば当たり前のことですし、真剣に成長を望むのであれば、やって然るべきことのように思います。ところが多くの人にとっては、これはなかなか難しいことであるようです。
なぜでしょうか?
「人に聞く」は、なぜ難しいのか?
ハーバード大学で成人学習について研究しているロバート・キーガンとリサ・サスコウ・レイヒーは、著書『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか ~すべての人が自己変革に取り組む「発達志向型組織」をつくる』の中で、次のように述べています。
「実は、組織に属しているほとんどの人が、本来の仕事とは別の『もう一つの仕事』に精を出している。お金ももらえないのに、その仕事はいたるところで発生している。大企業でも中小企業でも、役所でも学校でも病院でも、営利企業でも非営利団体でも、そして世界中のどの国でも、大半の人が『自分の弱さを隠す』ことに時間とエネルギーを費やしている。まわりの人から見える自分の印象を操作し、なるべく優秀に見せようとする。駆け引きをし、欠点を隠し、不安を隠し、限界を隠す。自分を隠すことにいそしんでいるのだ」
そして、以下のように結論付けています。
「弱点を隠している人は、その弱点を克服するチャンスも狭まる。その結果、組織は、その人の弱点が日々生み出すコストも負担し続けることになる」
誰しも成長はしたい。しかし、自分の弱さや失敗はオープンにしたくない。それが、周りに尋ね、助言を求め、傾聴することを阻み、本田や岡崎になることを難しくしているのではないでしょうか。
もしこれが多くの人に共通することであるとすると、我々はリーダーとしてメンバーを、どうすれば本田や岡崎のように成長させることができるでしょうか?
弱みを隠すという「もう一つの仕事」に従事させるのではなく、弱みをオープンにし、圧倒的な傾聴力をもって、成長にまい進させることができるでしょうか?
組織のあり方は、リーダーのあり方から始まります。
リーダーのあり方が組織に伝染します。
リーダーが完璧を装えば、メンバーは弱みを積極的に開示することはないでしょう。一方リーダーが自分の弱みを明らかにし、周りに成長のためのアイディアを求めていれば、メンバーにもそのアティチュードは広がります。
カリフォルニア州にあるクレアモント大学院大学の経営学/心理学の教授であるポール・J・ザック氏によると、「弱さ」を見せ、「助け」を求めることができるリーダーは、他者からの信頼を獲得し、ゴールに向けてチームを一つにする確率が高いそうです。
弱みを開示し合い、成長に向けて助け合うという文化がそこには形成されます。
まずは、あなたが、完璧を装うことを止め、弱みを見せ、相談をメンバーに持ちかけてみてはどうでしょうか?
それが、メンバーの成長を促し、組織を成長させる、実は大きな大きな一歩であるかもしれません。
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【参考資料】
Paul J. Zak, The Neuroscience of Trust,
Harvard Business School Publishing
January–February 2017 Issue ,2017
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