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忙しい人がはまりやすい、マルチタスクの罠

忙しい人がはまりやすい、マルチタスクの罠
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私たちは、一日の中でどの位、集中して仕事ができているでしょうか?

リーダーシップやチームマネジメントを専門とするオンリー・コネクト・コンサルティング社CEOのデボラ・ザック氏の調査によると、多くの人が次のようなマルチタスクを行っているそうです。(※1)

  • パソコンで作業をしていたのに、いつの間にかほかのことをしている。(91%)
  • 名前を聞いたのに、しばらくするともう思い出せない。(91%)
  • 人の多い場所や交通量の多い道を歩きながら、スマートフォンなどをいじる。(87%)
  • 同僚や仲間と一緒にいるときに、メッセージなどに返信する。(52%)
  • 電話で話している最中や、ミーティングの最中に、メッセージに返信する。(50%)
  • ミーティングの最中、少し前の発言の内容が思いだせない。(49%)

マルチタスクの「つもり」とタスク・スイッチング

同氏によれば、人間の脳は一度に一つのことにしか集中できないので、同時に二つのことをやろうとすると、逆に生産性を低下させてしまうそうです。

マルチタスクをこなしているつもりでも、実際は、タスクからタスクに切り替えるタスク・スイッチングしている"だけ"ということのようです。

これと同様の調査がハーバード・ビジネス・レビューでも紹介されています。(※2)

その調査では、比較的長く一つのことに集中する従業員と、頻繁に作業を切り替える従業員の生産性の比較をしています。結果としては、作業を切り替えれば切り替えるほど、作業の達成度が低くなるというものでした。

私たちは、マルチタスクをしているつもりでも、すればするほど、実は、仕事に集中できなくなっているようです。生産性を上げるのではなく、むしろ悪化させてしまっている、といえそうです。

気が散っている上司

エグゼクティブ・コーチングのクライアントAさんは、創業経営者です。

Aさんの会社では、複数の事業を運営していましたが、ビジネスの更なる成長発展のために、M&Aによる新たな事業の開発に着手をすることにしました。

Aさん自身も、全体的に仕事量が大幅に増え、多忙になっていきます。

毎日、会議や部下との面談などの予定が朝から分刻みで押し寄せる。メールやメッセージが頻繁にくる。

そして、会議や面談中であっても、すぐにPCやスマホからその内容を確認し、返信していきます。そのために、部下との面談を一旦中断することも度々あり、時には、中断したまま面談の時間が終わってしまうことも起こりました。

Aさんは、山ほどある仕事を、マルチタスク、つまり、「タスク・スイッチング」でこなそうとしていました。

生産性を高めるためには、それが効果的だと信じていたのです。

しかし、部下の目には、Aさんの姿は落ち着きがなく、常に気が散っているように映っていました。

そして、自分の話をAさんが真剣に聞いていない、とも感じるようになっていきました。その結果、Aさんへの相談や、意見や提案を積極的に言うことが減っていったのです。

生産性を高めている「つもり」だったAさんの行動は、部下のモチベーションや仕事の質にマイナスの影響を与え、組織の生産性の低下を招いてしまっていたのです。

突出した、成果を挙げる人たち

コンサルティング・ファームのPwCは、世界のビリオネアにどのような特徴があるのかを調査しています。(※3)その調査によると、彼らには、次のような特徴があるとのことです。

  • 仕事は山ほどあっても、他のことはすべてシャットアウトし、目の前の仕事や目の前の人に集中する。
  • 余計な仕事や気が散る要素を全て排除し、「本当に重要なこと」に集中して取り組む。

エグゼクティブ・コーチングのクライアントの方々の多くは、セッション中に電話やメールが着信しても、中断する方は、まずいません。そもそも、スマホなどのデバイスの電源は切り、完全にシャットアウトする。そして、集中してコーチングセッションに臨む。

そういう方々が、多数いらっしゃいます。

ビジネスで、突出した成果を挙げている人たちは、今の瞬間を無駄にせず、目の前の仕事、目の前の人に集中している人が多いのだと感じます。

本当に実現したいことを手に入れるために

Aさんは、山ほどある仕事を全てこなすためにマルチタスクで対応していました。しかし、それが裏目に出て、組織に逆効果を及ぼしていることに自分でも気づき始めました。そこで、私は聞きました。

Aさんがいま、更にビジネスを成長発展させたい目的は何か?

Aさんはしばらく考え、答えました。

それは...雇用の拡大です。ビジネスを成長、発展させ続け、雇用の拡大に貢献すること...です。

この後Aさんは、「本当に実現したいこと」に向けて成果を挙げていくために、自らの行動を変えることを決めます。

会議中や部下との面談中に、メールやメッセージを見たり、返信したりしない。
集中してメール処理する時間を別途設ける。
そして、目の前の部下との対話に集中する。

Aさんは、気を散らさず、目の前のことに集中する上司に変わりました。

約1年後、M&A案件を無事着地させることに成功します。また、既存事業もそれぞれ事業会社化し、新たに企業グループとして組織を再編しました。そして、更なる成長発展に向けて、現在も取り組みを続けています。

目の前のことに集中する

目の前の仕事、目の前の人に集中する。

私たちが、本当に実現したいことに向けて成果を挙げていくためには、このような集中力が必要だといえるのではないでしょうか。

あなたは、一日の中で、目の前のことにどの位集中できていますか?

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【参考資料】
※1 デボラ・ザック(著)/栗木さつき(訳)、『SINGLE TASK 一点集中術 「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』、ダイヤモンド社、2017年
※2 “マルチタスクで仕事の効率は上がるのか(The Multitasking Paradox)” HBR, March 2013. / Havard Business Review編
※3 ジョン・スヴィオクラ、ミッチ・コーエン(著)、高橋璃子(訳)、『10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』、ダイヤモンド社、2016年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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