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「うまくいかせたい」のか、それとも「正しさを証明したい」のか
2017年11月22日
厄介な問題
組織の活動を停滞させる原因の多くは、組織が抱える「厄介な問題」にあります(※1)。「厄介な問題」とは、たとえば次のようなことです。
- 会長と社長の間のコミュニケーションがない
- 役員同士は領空侵犯せず、お互いに連携していない
- 管理職が権力に頼ったマネジメントをしている
- 他部門との連携がうまくできていない
- 世代間で仕事への姿勢が違い、小さなトラブルが絶えない
- 役員が、現場に伝わる言葉で方向性を伝えられない
- 会社の理念やミッションを社員が忘れている
厄介な問題を「厄介」にしているのは、「そういう時は、こうすればいいんだ」的な、過去の解決方法を適用することができないからです。また、その解決にどれだけ時間がかかるかを読むこともできません。できれば、避けて通りたい。これらの問題に首を突っ込めば、自分自身も巻き込まれるのは目に見えているわけですから。
多くの管理職は「自分の得意な領域で仕事をしたい。できればマネジメントから外してほしい」と願っています。それは「人との関わりに煩わされずに仕事をしたい」という願望でもあります。
リーダーシップは「関わり」である
現代において、リーダーシップとは「関わり」であり、「コンテキスト(文脈、背景の情報、状況、前後の脈絡など)」であり、それは「対話」を通して「共創」されるものです。厄介な問題に向けた、人と人との「関わり」、そして「対話」の役割の果たすところは大きくなっています。
それにもかかわらず、学校でも会社でも、「関わり」や「対話」について学ぶ機会はほとんどありません。また、これらは座学で学べるものでもありません。「体験的」学習を繰り返さなければ身につかない能力であり、そのこと自体が、面倒で厄介に思えるかもしれません。
人と人が「関わり」をもつ、つまり言葉を交わせば、そこには「誤解」や「衝突」が生じるものです。問題は、多くの人が、それらを解決する「能力」を身につけておらず、練習もしていなことにあります。「誤解」や「衝突」は、考え方や価値観、方法論の違いから生じますが、「違い」の存在が問題なのではありません。衝突を起こす双方が、「自分の考えや信条は『正しい』」、「相手は『間違っている』」という思いに囚われてしまうことが問題なのです。
そもそもの動機が、仕事を「うまくいかせる」ことにあったとしても、多くの人は、意見の食い違いや、自分の考えに対する否定的な言葉や態度に反応し、本来の目的を忘れてしまいます。「自分の考え」や「自分の信条」をアウトプットした瞬間から、そこには「譲れない何か」が生じるのです。
頭では複数の視点や多様性が大事だと思っていても、批判されたり、賛同が得られなかったりすると「自動的」に反応し、本来の目的は、遠くに追いやられてしまいます。なぜなら、私たちは、自分の考えや信条を否定されると「自分自身」が否定されていると簡単に思ってしまうからです。
「自分」と「自分の考え」は同一ではないのですが、それらを分けて考える練習が不足しているために、そのように感じてしまうのだと思います。
ディベートが集団知能に与える影響
私も含めて全ての人は「正しくありたい」と思っています。
「正しくある」ことは、社会の一員として求められることであり、社会的立場を保証するかもしれません。しかし、アメリカのエグゼクティブコーチである Amy Douglas は、フォーブス誌に寄せたコラムの中で「対立が起こった時によく見られるのは、本来の目的が脇に置かれ、お互いが自分の正しさの証明に終始している様子だ」といいます。ディベートになってしまうわけです。
「ディベート」の語源には、「打ち負かす、圧倒する」という意味があります。ディベートには「勝ち負け」があります。その繰り返しは、やがて、人間の「集団知能」を低下させます(※3)。現代のリーダーの多くは、真実を見つけるために反対意見同士を検証し議論する弁証法的マネジメントのトレーニングを受けていることもあり、想像以上に「どちらが正しいか」に対する強いこだわりをもっています。この方法の問題点は、負けたときに、それを受け入れられず、どこか心のしこりとして残ることです。この「しこり」はやがて「厄介な問題」に発展していきます。
こうして考えると、「正しさへのこだわり」は、会社をうまくいかせるベクトルにダメージを与えることがわかります。たとえば「常に私は正しい」と考えるリーダーのチームでは、提案が上がりづらいでしょう。なぜなら、そのリーダーは常に自分のやり方でやりたいからです。社員がリーダーに気をつかうため、組織全体が業績向上に向けてエネルギーを向けられなくなっていきます。
選択肢を探索する
イノベーションのためには、「衝突」や「意見の食い違い」、「解釈の違い」は必然です。ただ、そこに「正しさ」へのこだわりが生まれると、残念ながらイノベーションにはつながりません。
うまくいかせるためには、自分の正しさへのこだわりに目を向けると同時に、組織やチームをうまくいかせる方策を生み出す必要があります。そのためには、「熟考」し「実践」、「練習」しながら、自分自身のマインドセットをシフトさせることが必要です(※2)。
そのためにコーチは、リーダーが、自身の「思い込み」や「前提」、そして「ビリーフ(何が正しくて、何が間違っているかの基準になる信念や観念)」と向き合い、その機能を知ることから始めます。そして、それらが周囲にどのような影響を与えているかを、リーダー自身が理解できるようにしていきます。
次に、リーダーが実現したいこと(意図)の優先順位を明らかにし、「意図」と「影響」を比較したときに、本来の目的に向けてより高い効果を出せる行動を自ら選択する「選択のステージ」に上がれるようにしていくのです(※2)。
「選択のステージ」には、正しさの証明も含めた、あらゆる選択肢が並びます。「選択のステージ」の条件は、3つ以上の選択肢があることです。
そしてさらに、「他に選べるものはないか」を「探索」するために、リーダーはコーチと「対話」を続け、同時に、自分の周囲の人たちとも他の選択肢の「探索」に向けて「対話」をするのです。
少し時間はかかりますが、「いま、目の前にどんな選択肢が用意されているのか?」、「他に選択肢はないのか?」という問いから、マインドシフトは始まります。
あなたは自分の未来にどれだけ選択肢をもっていますか?
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【参考資料】
※1
Leitch, J. et al., 2016, 10 Principles of Strategic Leadership, PwC
※2
Douglas, A., 2017, What's More Important To You: Being Effective Or Being Right?, Forbes
※3
Isaacs, W., 1993, Taking flight: Dialogue, collective thinking, and organizational learning, Organizational Dynamics, Volume 22, Issue 2, Autumn 1993, Pages 24-39
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