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協力

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人を動かし、組織を動かすには何が大事なのか。

エグゼクティブコーチの仕事をしていると、常にこの問いが頭のどこかに流れています。

先日、ある会社の経営会議に出席しました。経営会議は、終始冷めた雰囲気で、活発な役員同士の意見交換は見られません。そんな雰囲気を察知してか、会議の最後に社長が口を開きました。

「もっと役員同士がお互いに意見をぶつけ合うと良いと思っている」

社長は5分近く、それこそ懸命に、自分が思っていることを口にしました。嘘のない正直な意見に聞こえました。

しかし、笛吹けど踊らず。

それに呼応して言葉を発する役員は誰もいません。社長はとてもバランスの取れた良いリーダーに私には見えました。

なぜ彼の言葉は役員に響かなかったのか。
その光景はしばらく自分の中に残りました。

人を動かし、組織を動かす大きな一歩

実は、人は生まれながらに、他者に協力しようとするところがあるようです。

マックス・プランク進化人類学研究所所長であるマイケル・トマセロ博士の『ヒトはなぜ協力するか』が記しています。

生後14ヶ月の幼児が、血縁のない初めて会う大人と対面する。その大人がちょっとした問題に直面していると、幼児はその大人の問題解決を援助する。手がふさがっている時に扉をあけてあげる、手の届かないところにあるものをとってあげるなど。実験では、24人中22人の幼児が援助行為を行った、と。

幼児は、援助の大切さを教えられる年齢には至っておらず、援助行動を大人に促されたわけでもなく、さらには、その援助行動に対して後で報酬を与えられなくても、「自然に」繰り返し赤の他人の大人を援助するそうです。

「ヒトはヒトを助けるように生まれてくる」と、トマセロ博士は結論付けています。

経済学者でサンタフェ研究所行動科学プログラムのディレクターを務めるサミュエル・ボウルズの『協力する種:制度と心の共進化』も伝えています。

個人的な行動だけで課題をクリアしたときよりも、パートナーと相互協力をして解決したときの方が、報酬を感じる脳の線状体という部位の活動は高まる、と。

つまり、ヒトはヒトに協力したい種で、そのことで喜びを感じるようにできている。

であるならば、人を動かし、組織を動かすためには、まず何よりもストレートに協力を求めることが大事ではないかと思うのです。

ひとりの人間として、私はあなたの協力を求めている。だから、手を貸してほしいと。

上記の2人の博士の本から読み解くに、そのメッセージは、この地球上で協力し合わなければ生き残れなかったヒトという種に、「遺伝子レベル」で響くのではないかと思うのです。

ところが現実には、ストレートな協力の要請の代わりに、様々なコミュニケーションが代替して使われます。

代替コミュニケーションの代表格が「指示」と「コメント」です。

通常、指示は上司という役割を「根拠」として発せられるものです。指示には「組織では、下の者は上の者の言うことを聞くべきだ」という「根拠」がありますから、相手は断ることが難しくなります。

指示が駄目なわけではありませんが、そこでは「目の前のその人のために、よしやってやろう!」という自発的なムーブメントが失われる可能性があります。

コメントは、その人の考えの表明です。

「仕事のスピードを上げるのは大事だと思う」

これは、単に意見を述べただけであって、相手の行動にまったく働きかけていません。言葉はただ宙に舞います。

リーダーのコミュニケーションを観察してみると、存外この類のコメントが多いことに気づかされます。協力を求め、結果断られ傷つくことを無意識の内に恐れるからかもしれません。

協力して欲しいときには、真っ直ぐに「協力して欲しい」と伝える。人を動かし、組織を動かすための大きな一歩であるでしょう。

さて、ここで、もうひとつの視点があります。例え、協力を要請したとしても、日頃から「あまりこの人は協力したい人ではない」と思われていれば、協力を取り付けるのは難しいでしょう。

常勝チームの監督は、選手に何を伝えているのか?

今年大学ラグビーで前人未踏の9連覇を成し遂げた帝京大学の岩出雅之監督は、著書の中で次のように述べています。

「応援したくなる人になろうと選手たちにはいつも言っています」

ラグビーは15人の相互作用で織り成していくスポーツです。
「One for All, All for One」の言葉が示すように、一人ひとりが、周りの選手を活かす、助ける、という意識が高くないと勝てないスポーツです。数人の卓越したプレーヤーだけでは勝つことは決してできません。

「このプレーヤーがこう動いたからこう走り込みボールを受け取る」という「理屈で」はなく、「こいつを活かす! 助ける!」という協力精神が浸透しているチームが勝ちます。

だから、大事なのは、「応援したくなる人」になること。
協力したいと思われる人になること。

そのためには、日頃の過ごし方がとても重要であると、岩出監督は言います。

例えば、何かしてもらったら「ありがとう」とちゃんと言う。感謝の気持ちを忘れない。15人中15人が、応援したいと思うプレーヤーで、お互いに試合中、とことん応援し合っている。そのチームは間違いなく強いでしょう。

冒頭の社長は、応援したくなる人であると思います。少なくとも外部の私にはそう見えます。でも彼は、コメントしかしていなかった。協力を要請していないのです。

こんな会社にしたい、組織にしたい、だから協力してほしい、助けてほしい。

そう伝えることができれば、周りの役員の遺伝子はうずき始め、「9連覇する組織」に向けて一歩を歩み始めるのではないでしょうか。

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【参考資料】
・マイケル トマセロ (著)、Michael Tomasello(原著)、‎ 橋彌 和秀(翻訳)、『ヒトはなぜ協力するのか』、勁草書房、2013年
・‎ サミュエル・ボウルズ、‎ ハーバート・ギンタス (著)、竹澤 正哲、高橋 伸幸、‎ 大槻 久、‎ 稲葉美里、‎ 波多野礼佳 (翻訳)、『協力する種:制度と心の共進化』、NTT出版、2017年

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