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創造する2人
2018年02月07日
『POWERS OF TWO(二人で一人の天才)』という本があります。
キュレーターである著者のジョシュア・ウルフ・シェンク氏が次のように書いています。
「私たちは『孤高の天才』に憧れを抱く。驚異的なひらめき、非凡な才能。だが、それは幻想にすぎない。あらゆる分野の革新は、刺激し合い、補完し合う『クリエイティブ・ペア』が生み出してきた」
コーチという仕事を長くやっていると、クリエイティブ・ペアは、決して特別な2人が「結成する」ものではなく、誰でもが創り得るものであると感じます。
上司と部下、同僚と同僚、コーチとクライアント。
お互いに意見を出し合い、脳を刺激し合い、新しい発想が2人の間に溢れ出す。
みなさんも人生のどこかで、きっと「クリエイティブ・ペア結成の瞬間」を体験したことがあるのではないでしょうか。
1on1(ワン・オン・ワン)はクリエイティブ・ぺアを生むのか?
昨今、1on1(ワン・オン・ワン)という言葉を耳にすることが増えました。
1on1というセリフをタイトルに銘打った書籍。「1on1を社内に広めようとしている」という経営幹部の言葉。
1on1とは、その名の通り、上司・部下による定期的な1対1のミーティングのことを指します。フォーチュン500社のすでに20%が導入済みとのレポートもあります。
上司と部下の「面談」ではなく、「1on1」と呼ぶ背景には、向かい合った2人の間で現状が共有され、相互理解が深まり、そして新しい発想が生まれる。まさに、「クリエイティブ・ペア」が生まれることが期待されているのだと思います。
しかし、実際には、「縦の関係」を「創造する関係」に変えるのは簡単ではありません。
何が「ブロック」になるのでしょうか?
弊社では長らく、企業や組織で1on1のコーチングを展開させるための支援をしてきました。一つ興味深いデータがあります。1on1コーチングを「受けた人」から回答を得たデータです。(※)
企業内で1on1コーチングをする場合、「上司、部下」の関係で行われるだけでなく、別の部署の人など「非部下」をコーチするケースもあります。
1on1コーチングを「受けた人」から得たデータを「部下」と「非部下」に分けてみたところ、浮かび上がってきた事実があります。
あくまでも、相対的な比較ですが、コーチングを部下に行った場合より、非部下の人に行った方が、「社内コーチ側の関わり」 について、変化の度合いが高いことがわかりました。
中でも、 とくに差のあった項目のうち次の2項目に私は着目しました。
「相手のタイプに合わせた関わり方をしている」
「相手の変化や成長に気付いてそれを伝えている」
この結果は、以下のように解釈することができます。
1on1をする相手が他部署の人間であると、普段接する機会が少なく、相手のことがよくわかっていないため、相手のタイプを意識して関わり、相手が少しでも変化したり成長したりしたときには、そのことをしっかり口にしている。
それが相手を「オープン」にするため、相手は自分のアイディアを出し、行動に移し、結果を生み出すことができる。
逆に、部下の場合は、「すでにわかっている相手」だと、社内コーチ側が思ってしまい、相手が本来はどういうタイプで、どういうコミュニケーションを取るべきかを他部署の人間と接するときほど意識しない。そして、部下が多少の変化や成長をしても、以前からの思い込みによってわずかな気づきを覆い隠してしまう。
結果、部下は「クローズ」し、1on1の中で自分を自由に表現し、アイディアを発見し、行動し、結果を出せないことがある。
「クリエイティブ・ペア」を生む一歩とは?
『図解 脳に悪い7つの習慣』の著者である脳医学者の林成之氏によると、脳は「持論に凝り固まる」「先入観や常識にとらわれる」という「クセ」があり、変化や独創性を阻害する要因の最たるものであると述べています。
おそらく、上司は、心の中では、部下との関係を「クリエイティブ・ペア」に昇華させたいと思っているでしょう。2人の間にアイディアが溢れ出す関係性を作れたらどんなに良いかと思いを馳せる。
ただ、「部下はこういう人」という思い込みが、コミュニケーションを固定化させ、部下の考えを解き放つことを妨げる。
目の前の部下とクリエイティブ・ペアになるために、まずは思い込みを少し脇に置き、相手がどんな人で、最近どんな変化を遂げているかに注目してみはどうでしょうか。
そして聞いてみる。「どんなアイディアがありますか?」と。
21世紀の「井深さんと盛田さん」のペアがそこに生まれるかもしれません。
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【参考資料】
・ジョシュア・ウルフ・シェンク (著)、矢羽野薫(翻訳)、『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』、英治出版、2017年
・林成之(著)、『図解 脳に悪い7つの習慣』、幻冬舎、2009年
※ 株式会社コーチ・エィ コーチング研究所調査
調査対象:コーチングをうけたクライアントの部下3,271人、非部下(他部署)の1,182人
調査期間:2015年5月〜2017年9月
調査内容:「コーチの関わり」20項目(D-meter)
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