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あなたは、どのネットワークに存在していますか?

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「Aには、もっと経営視点を持ってほしい」

私のクライアント、Aさんは、ある製造業の常務執行役員です。この一言は、その上司である社長が、Aさんへの期待としてコーチである私に伝えた一言です。

社長からすると、Aさんは経営会議などの場で自部門を代表する発言に終始しており、「経営者としての期待値に足りていない」というのです。

エグゼクティブ・コーチングでは、クライアントの上司から、「経営視点を持ってほしい」という期待を伝えられることが、実は少なくありません。

このコラムの読者の中にも、上司から同じような期待を伝えられたり、または、ご自身の部下に同じような期待を持っていたりする人もいらっしゃるのではないでしょうか?

社長は続けて言います。

「現状のAは、執行役員の視点のままで自部門を見ている」
「経営会議では、全社の視点に立ち、他部門に対してもっと率直に意見を言ってほしい」

「経営視点」を持つためにAさんが始めたこととは?

コーチング・セッションで、社長さんからお聞きした内容をフィードバックすると、「うーん、経営視点ですか...」と、Aさんはしばらく考え込みました。そして、

  • 有名な経営者の著書を読む
  • 経営者向けの講演会や研修に参加する

など、経営視点を高めるためのアイディアをいくつか挙げていきました。が、どうもしっくりこないようです。

さらに考えに考え抜いたのち、最終的に納得感を持って決めたのは、「経営視点を持っている人と話す時間を増やす」というものでした。上司である会長や社長と話す時間を増やす、というのです。

さて、この一見シンプルな行動は、果たして効果があるのでしょうか?

人の行動を決めているのは何か?

ハーバード大学の教授、ニコラス・クリスタキス氏によると、人は、意識する・しないに関わらず、周囲の人々との関係の中に深く組み込まれており、自らの行動は、その関係性から大きな影響を受けているのだそうです。

たとえば、生活習慣や行動パターン、健康に人間関係がどれくらい影響しているのかを調べる社会実験では、日々接している家族や友人の誰かに喫煙者がいると、喫煙者になる可能性が61%高まり、友人が太っていれば、太る確率が57%上昇する、という結果が出たというのです。

つまり、私たちの行動は、「より多くの影響を受けている関係性」に依存し、決まっている、ということが言えるわけです。

ところが、人はそもそも、自分が「どの関係性からより多くの影響を受けているのか」に、気づいてさえいない可能性があります。

MITメディアラボの研究員、ベン・ウェイバーの著書『職場の人間科学』には、「凝集性の高いネットワーク」という考え方が紹介されています。

「凝集性の高いネットワーク」とは、人々が互いにたくさん会話をする集団です。

「凝集性の高いネットワーク」の中にいる人同士は会話する時間が多いため、強い「信頼」が生まれます。さらには「共通の前提」が生まれ、「共通の概念」を理解し合うことで、「共通言語」によるコミュニケーションが可能になります。

簡単に言うと、とても「居心地の良いネットワーク」とも言えます。私たちは、気づかぬうちに、この「居心地の良いネットワーク」に安住している可能性があるのです。

だからこそ、自分にとって、最も「凝集性の高いネットワークはどこか?」を考えることは、私たちが、どの関係性から最も影響を受けているかを知ることに繋がるのでしょう。さらに、上記の考え方に基づけば、私たちの行動を変える一つのシンプルな方法は、「今とは異なる『凝集性の高いネットワーク』に身を置く」ことと言えます。

A氏は、「常務執行役員」という役職で執行責任を負っていることもあり、結果的に、自身の管掌部門である居心地の良い「凝集性の高いネットワーク」にの中に存在し、最もそこから影響を受けていたことに気づきました。

そして、会長や社長とは、よく飲みに行く間柄ではあるものの、仕事については会議以外で話す時間がほとんどなかったことに気づいたのです。

A氏は、「経営視点を持つ」ために、経営視点を持っている会長、社長と、仕事について1対1で話す時間を増やし始めました。

そうすると、経営会議の場で、「社長なら、こう考えるかもしれない」と思うことが、少しずつ浮かぶようになってきたそうです。また、他部門に対して意見を言う時の躊躇がなくなってきたそうです。

A氏の始めたシンプルな行動は、管掌部門のネットワークからの脱却だけでなく、会長、社長とも飲みという場の「居心地の良いネットワーク」からの脱却という二重の意味があったようです。

「経営視点を持つ」ために、A氏は次のステップを考え始めました。「会長・社長との対話によって視点の高さは出てきた。次は、視点の広がりをもっと出したい」と。

そして、社外の「経営視点を持っている人」と新たなネットワークを、自ら作り出そうとしています。

あなたは今、どの「凝集性の高いネットワーク」の中に存在しているのでしょうか?

あなたが本当に身を置くべき「ネットワーク」はどこでしょうか?

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【参考資料】
・トム・ラス (著),‎ ジム・ハーター (著),‎ 森川 里美 (翻訳)「幸福の習慣」 、ディスカヴァー・トゥエンティワン、 2011年
・ベン・ウェイバー(著)、千葉 敏生(翻訳)、『職場の人間科学: ビッグデータで考える「理想の働き方」』、早川書房、2014年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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