Coach's VIEW

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自分を知る、自分を発揮する

自分を知る、自分を発揮する
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「あなたは、どんな人なのですか?」

もっと周囲の人たちの本音を聞けるようになりたい、と話す私に、アメリカにいるコーチがそう問いかけました。

メンバーの力を引き出してチーム力を高めるには、本音で対等に話し合う事が不可欠だと思っていました。一方、その気持ちとは裏腹に「優秀なリーダーだと見られたい」「私と話す時間に価値があると思ってもらいたい」という気負いが心の奥底にあることを、私はコーチとの対話の中で認識し始めていました。

コーチは私に言いました。

「『優秀なリーダー』だとか『話す価値がある人』と評価してもらいたいというあなたの想いは、相手にどう影響するのでしょうか? もしあなたが私にそのような想いで話していたら、私はきっと本音を言うよりも『優秀な人間』を演じようとするでしょう」

私が思い描く「優秀なリーダー」や「話す価値のある人」ではなく、「あなたは、本当はどんな人なのか? それを聞きたい」と、コーチは私にそう問いかけてきたのです。

封印される本来の自分

「個性を磨く」や「強みを活かす」といったことは聞きなれたことであり、多くの人がその重要性に反対することはないと思います。それにも関わらず、組織では個性を磨き、他者との違いを際立たせるよりも、「違いをなくす」方向に力が働く傾向があるように思えます。

それだけではありません。

自分はどんな人間なのか、どんな個性の持ち主なのか、どんな強みを持っているのか、ということを明快に答えるのは意外と難しいのではないでしょうか。

コーチに冒頭の問いを投げられた後、試しに同僚何人かに声をかけて聞いてみましたが、答えに詰まる人が何人もいました。

ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された「『建設的な不調和』で企業も社員も活性化する」という論文で、ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノ氏は、多くの職場では社員は周囲と同調する方向に力が働くと言い、その力を「同調圧力」と呼んでいます。

「同調圧力」が働く背景には、私たちが、小さいころから周囲に同調することで受け入れられ、多数派のひとりになれた安心感を得てきた特性が指摘されています。

組織は、古くから人間のこの特性を利用して機能してきました。そして更に面白いのは、仕事で「自分らしさを発揮したい」という願望があったとしても、周囲に同調することを好む傾向から、自ら「自分らしさ」を封印してしまうというのです。

「自分はどんな人なのか?」を認識するために取り組んだこと

「あなたはどんな人なのですか?」というコーチの問いにさんざん考えを巡らせたものの、結局納得いく答えは出てきませんでした。

そこで私はコーチと相談し、次の事に取り組むことにしました。

自分と関わる10人に、私を表現するにふさわしい形容詞を6個ずつもらってくる、というものでした。

過去から今まで、一緒に働いてきた上司や同僚、部下、お客様たちにお願いして、ひとり6個、全部で60の「私を表現する言葉」を集めました。

冷静沈着、面倒見がいい、賢い、怖い、細かい、論理的、ひらめきが豊富、情熱的、感覚的、戦略的、フレキシブル、飽きっぽい、放任的、未来志向、ユーモア、楽観的、創造的、ポジティブ、勇敢、大胆、合理的、楽しそう、緩急併せ持つ、話しやすい、面倒なことが嫌い、話好き、自分で判断する、自信家、タフ、政治的、観察的、厳しい

一部ですが、こうした言葉が出てきました。全てを並べて眺めていると、自分がどんな人間なのか、私が関わってきた人達の視点から見えてきました。

そして、並べられた言葉の中には、自分の努力で培われてきたものもあれば、自分では認識していなかった、自然に発揮されているようなものもありました。

それを伝えると、コーチは言いました。

「努力しないで発揮できているもの、それこそが『あなたらしさ』なのではないか」と。

リーダーの自己認識は、周囲に何をもたらすのか?

「世界で最高の職場」について研究し『DREAM WORK PLACE』の著者であるロブ・ゴーフィーとガレス・ジョーンズは、「最高の職場」に共通する6つの原則の一つに、「自分らしく、ありのままでいられる場所、他者とは違う自分のあり方や物の見方を表現できる場所」という要素をあげています。

そして、

  • 組織で個性を発揮することが可能になればなるほど、仕事や取り組みへのコミットメントが高まる
  • 個性を発揮することができると、社員の創造性が高まり、職場で革新性と生産性が促される

といったことを言っています。

私は、自分がどんな人間として見られているのかを知った時、「優秀な人」を演じなくとも、そのままの自分で人と接していけばよいのだ、と思えるようになりました。

さらに、周りから受け入れられよう、評価されようと、無意識のうちに膨大なエネルギーを費やしていた事も認識するようになりました。

そして、「相手は私にどんな事を伝えようとしているのか?」「言葉の裏にどんな気持ちが込められているのか?」といった事を聞き取るために、自分のエネルギーを費やせるようになりました。

「優秀な人」を演じるために「自分」に向けて費やしていたエネルギーを、「相手」のために注げるようになってきたのです。その結果、周囲の人たちが本音で話してくれることが増えたと感じています。今までは聞けなかったような、その人自身の話をしてくれるようになってきました。

また、自分の中から湧き上がってくる想いやアイディアに耳を澄ませること、それを相手に伝えるためにどうすればよいのかを考える事にも、以前よりもエネルギーを注げるようになってきました。

私自身の「自分を知る」は、「チーム力」にも変化をもたらしてきていると感じています。

あなたは、どんな人ですか?

そして、あなたは今、どんな自分でいることにエネルギーを注いでいますか?

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【参考資料】
・フランチェスカ・ジーノ、「『建設的な不調和』で企業も社員も活性化する」、ハーバード・ビジネス・レビュー、2017年11月号
・ロブ・ゴーフィー、ガレス・ジョーンズ(著)、 森由美子(翻訳)、『DREAM WORK PLACE~だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる~』、英治出版、2016年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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