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バナナの原則からはじめよ

バナナの原則からはじめよ
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部下には、苦手な仕事にチャレンジさせるのがよいと考える上司がいます。それを乗り越えて一人前。そうでなければ仕事は任せられない、ということでしょう。根拠があるわけではないのですが、一般に受け入れられている考え方です。

コーチも同じです。クライアントが答えに窮する質問がよいだろうと考えるコーチがいます。

「難しい質問ですね」
「これまで考えてきませんでしたね」
「いやあ、困ったなー」

クライアントが簡単に解けない問題、難しい課題に遭遇しているときこそ、コーチの出番だと思うのかもしれません。

バナナとオレンジ、先になくなるのはどっち?

アメリカ企業の多くで見られる、ある面白い現象に気づいた人たちがいます。アメリカでは、多くの企業がラウンジやキッチンに社員のためのフルーツを置いています。典型的なのはバナナやオレンジといったフルーツですが、どの企業でも、一番最初になくなるフルーツは、必ずといっていいほどバナナなのだそうです。バナナが先になくなって、オレンジがあとに残る。彼らはこの現象に気づき、これを「バナナの原則」と呼ぶようになりました(※)。

「バナナの原則」とは、バナナのほうがオレンジよりもおいしいとか、バナナが好きな人のほうがオレンジを好きな人より多く存在するということではありません。バナナが先になくなるのは、単にバナナのほうがオレンジよりも皮をむきやすく、簡単に食べられるからなのです。

この「簡単にできる」という「バナナの原則」は、物理的なことに限りません。実は、組織マネジメントにも当てはめて考えることができます。

たとえば、組織変革を目的に、組織内のコミュニケーション量を増やし、コミュニケーションの質を上げようとするとき、社員に向けて「もっとコミュニケーションを交わしましょう」と言っても効果がないのは明らかです。そこで、社内SNSをつくるとか、イベントを企画するなどアイディアはいろいろと出ますが、どれも実現しなかったり、途中で終わったりしてしまうことが多いようです。そもそも、新しいことを始めようとするときに、決まって抵抗する社員も一定数いるものです。

それでも、組織の変革が必要なとき、リーダーはどのようにしたら、コミュニケーションが起こる環境をつくることができるのでしょうか。どのようにしてさまざまな障害を乗り越えればよいのでしょうか。

「バナナの原則」についてコラムを書いた Tania Luna と Jordan Cohen は、その中で新旧二人の学者の言葉を紹介しています。

「1世紀以上もの昔、哲学者のグリエルモ・フェッレーロは『人は最小努力の原理に従って動く』と言った。すなわち『複数の選択肢を与えられれば、人はその中から一番簡単なものを選ぶ』」と。また最近では、ハーバード大学の心理学者シェーン・エイカーも『人は20秒速くスタートできるものを選ぶ』と言っている。(偶然にもこの20秒という数字は、バナナとオレンジの皮を剥く時間の差とほぼ一致する)」と。

「バナナの原則」の組織変革への応用

こうしたことを考えてみると、新しい視界が開けます。できそうもない課題や、時間と労力を必要とする課題には価値があり、「できる」、「できそうだ」、「やってみたい」と思えるような課題には価値がないのでしょうか。簡単に欲しいものを手に入れられる、そのことには価値がないのでしょうか。

夢というのは、5年後、10年後でなければ叶わないものなのでしょうか。数十分後や数時間後に手に入る夢は、意味がないのでしょうか。

「頑張って努力しないと、欲しいものは手に入らない」というビリーフがあります、それは一方では正しいのですが、いつも絶対ではないのです。

部下がすぐに取り掛かれる、あるいは取り掛かってみたいと思えるような課題はどういうものか。クライアントが簡単に答えられる、あるいは答えてみたいと思えるような質問とはどういうものか。

それを考えること自体がパズルやゲームのように面白いと思えることには、充分に「価値」があるのではないのでしょうか。

次に部下と話すときに、これからする話は「バナナかな、オレンジかな?」「いや、もしかしたらパイナップルかもしれない」。そんなふうに少し考えてみてはどうでしょうか。 

今回のコラムは、少し短めです。「バナナの原則」に従って。

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【参考文献】
※To Get People to Change, Make Change Easy
Tania Luna and Jordan Cohen
DECEMBER 20, 2017
Harvard Business Review
Copyright © 2017 Harvard Business School Publishing.

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