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組織の「調和圧力」から脱出する
コピーしました コピーに失敗しました企業は競争力を高めようと、新規事業開発部やイノベーション推進室などを設立し、優秀な人材を集め、「イノベーション」が起こる環境作りに腐心します。しかし、なかなかその実が得られない現実があります。
私自身、経営者の方とのコーチングで「新しい発想やアイディアがでてこない」という話をよく耳にします。
そもそも、「イノベーション」や「新しい発想やアイディア」は、なぜ生まれにくいのでしょうか?
イノベーションを阻むものの正体
ハーバード・ビジネス・スクールのフランチェスカ・ジーノ教授による2,000人を超える調査によれば、回答者の半数近くが、周囲に「調和する」必要性を常に感じているそうです。
それを「調和圧力」と呼びます。
同教授は、「組織活動が順調であれば、組織内に調和圧力が生まれ、その結果、社員は自分の意に反していても本音を語らず、周囲に『同調』する傾向が強くなる。そしてそれは勤労意欲の低下や生産性の悪化、イノベーションの減少につながっていく、と説きます。
組織の成長プロセスに、社員が組織に「調和」するのは大事なことではありますが、過度の調和は、組織力を低下させるということです。
それでは、組織が「イノベーティブ」になるためには、どのように「調和圧力」の重力から免れることができるのでしょうか?
「調和圧力に屈しない」社員はいかに生まれたのか?
私がコーチングしているメーカーの技術開発役員Aさんは、社内で「発想力が豊か」だと称されています。Aさんは、上司が相手であってもその意見に反対であれば、自分の思うことを伝えることを旨としている方です。
Aさんの発言で、会議は頻繁にカオス状態に陥るものの、議論は活発化し、総体として「創造的な会議」を生み出していることを社長も評価してくれています。
組織の「調和圧力」に屈しないAさんのその姿勢について、以前質問したことがあります。
「どのようにして、そのような行動が取れるようになったのか?」と。
Aさん曰く、
「最初からそのような行動ができたわけではありません。ただ、この本部に異動してきた当時の担当常務に、よく問われたことがきっかけになっている気がします」と。
技術開発本部に配属されたAさんは、その常務から、
「君はどんなことが得意なの?」
「仕事をする上で大切にしていることは何か?」
「これまでの仕事で自慢したいものは?」
「ふだん、どんな情報を探しているのか?」
「どんなことに面白さを感じるのか?」
といった問いかけをよくされたそうです。
最初はおざなりに答えていたそうですが、何度も何度も問われ続けるうちに、自分自身が大切にしている事や考え、そして、自分の強みに意識が向くようになっていったといいます。
そうすると、人と議論しているときに、相手の意見をしっかり聞くと同時に、それに左右されない「自分なりの意見」があることに気づくようになっていったと言います。
「価値観」や「強み」を問われると、人は自分の内側のアイデンティティと向かいあうようになります。そして、何かを判断する場面で、いたずらに周囲の意見に左右されることなく、「私のような人間はこういう状況ではどうするべきか?」という問いが発生するようになります。
Aさんも、しだいに周囲に過度に調和することがなくなり、Aさんオリジナルの視点から発言し、行動することが増えていきました。そのうち、「発想の豊かなユニークな社員」という評価を得るようになりました。
仕事が面白くなり、自分に対する自信がついてきたのも、その頃からだと言います。
ジーノ教授は「価値観」や「強み」を深く認識することが、高い意欲と「イノベーション」を引き出す、という研究を示すと共に、「人は時に、大勢と逆行することで、自分の行動に自信がもて、自分は独特で意欲に満ちていると感じ、結果として、より大きな成果と創造性を得る」ことがあると説きます。
「価値観」や「強み」にフォーカスした問いを自身やメンバーに投げかけ続けることは、「調和圧力」という重力を超えて、「イノベーション」を起こす組織作りの一歩といえそうです。
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【参考資料】
フランチェスカ・ジーノ、「『建設的な不調和』で企業も社員も活性化する」、ハーバードビジネスレビュー、2017年11月号
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