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自分にだけ見えていないこと
コピーしました コピーに失敗しました私は30年ほど前、中学校で社会科の教師をしていました。当時は教育荒廃、校内暴力の真っただ中で、胃が痛くなる毎日を過ごしていました。
先日、久しぶりに当時の同僚と話す機会がありました。
「あのころは大変だったけれど、今はもっと大変だ。どこで問題が起こっているかわからないから」
当時は、いわゆる「不良」と呼ばれていた生徒たちが問題を起こしていました。
「不良」は髪型や服装、外見が違っていたので、どこで問題が起こっているのか、誰が問題を起こしているのかは一目瞭然。簡単ではないにしても、それなりの対処ができていたのだと思います。
ところが今は、
「見た目ではわからない。表面上は平和に見えていて、どこで問題が起こっているのかわからない。昔よりもこまめに生徒や保護者と話していないと、問題を察知できずに手遅れになってしまう。自分にだけ見えてなかったなんてことがあるんだよ」
と言うのです。
自分に「見えていない」事柄は、扱うことができません。
見えていれば、対応することができます。
「見えていないこと」は、マネジメント上の大きなリスクです。
「見えていない」ことのリスクとは?
昨年、コーチング研究所で「ブラインドスポットについてのアンケート調査」を行いました。(※1)
このアンケートでは、ブラインドスポットを「周囲は知っているけれど、本人はそれがわかっていないこと」や、「自分の行動傾向や影響について、自分が把握できていない領域」と定義し、2つの質問をしています。
質問1:あなた自身が、仕事を進める上で自分の「ブラインドスポット」に気づいた経験がありますか?
「はい」と答えた人は全体の77%。
自由回答には、以下のようなコメントが寄せられています。
「部下とのコミュニケーションが取れていると思い指示していたが、後日に担当役員から、(現場と)乖離していると部下から話があったと異動を命じられた」
「部下のためと思って、仕事を下ろさず、自分で処理してしまっていた。ある部下が勇気を持って、彼らの成長機会を奪っていることを伝えてくれて、初めて気づいた。自力で気づき理解するのは簡単ではない」
「今後の戦略を上司と話した際、自分の気づかなかった切り口で指摘された。自分では練り上げた戦略であったが、上司のチャンネルで知り得る情報が欠如していたことを学んだ」
質問2:あなたの上司は、仕事を進める上での「ブラインドスポット」を持っていますか?
「はい」と答えた人は全体の72%。
コメントは、以下のようなものでした。
「上司は、組織運営に関して、実際に現場がどうなっているのか把握できていない。問題が起こっても何故なのかを理解できない」
「上司の言葉、意見に仕方なく同意している部下が多いことに関して気づいていない。上司が人の意見をほとんど受け入れないため、いいアイデアがあっても、ほとんどの部下が報告しない」
「機嫌が表情に出る、苛々していると返事をしないなど、特にコンディションの悪いときに表面に出る」
このアンケート調査からは、多くの組織人が「ブラインドスポット」を体験していることが予想されます。
「ブラインドスポット」はなぜ起こるのか?
Loretta Malandro氏が「Discover Leadership Blind Spots」(※2)で指摘するブラインドスポットが起こる原因などを要約すると、次のようになります。
- 「一人でやろう」とする衝動がある
- 他者からのサポートを断る、助けを求めるのを嫌がる
- 自分のストレスやプレッシャー、心配について話さない
- みんながいるところで一人になったり、離れたりしようとする
- 自分の考えや決断の中に、他者を入れない
- 自分が他者に及ぼしている影響に鈍感(無関心)である
- よかれと思っている行動は、「効果がない」ものかもしれない。
- 「難しく面倒な対話」を避けている
- 一般論で話し、具体例を出さない
- 何が不十分なのかを直接伝えず、相手が察することを期待する
20年前の私の「ブラインドスポット」
20年以上前の、私のブラインドスポットの体験です。
私は、今とは別の会社で、支社長という立場で働いていました。あるとき、東京の本社から20代の女性スタッフが転勤してきました。彼女は明るく前向きでとても優秀。一緒に仕事をするのが楽しみになるようなスタッフでした。私は彼女を多くのプロジェクトに参加させました。彼女もその期待に応えて、のびのびと仕事をこなしているように見えました。
3か月ほど経ったころ、夕方のオフィスで彼女から唐突に声をかけられました。
「桜井さん、話したいことがあるんですが、お時間をいただけますか?」
ふたりきりで話すために、オフィスからエレベーターホールに出ました。立ったままで向かい合うと、彼女はぽつぽつと話始めました。
「桜井さんは、最初は一緒にもりあげてくれるけど、後はほったらかしで冷たい。最後は全部私に押しつけて、ずるいです」
うまくいっていると思っていた部下から思いもかけぬ話をされて、その瞬間はショックで何を言われているのかよくわかりませんでした。しかし、それがきっかけとなって、私と彼女のコミュニケーションの量は飛躍的に増えて行きました。
私たちはお互いが理解するまでとことん話すようになり、それと共に、彼女はより多くの仕事をこなすようになっていきました。私には「よかれと思って」いたことが、彼女には「効果がない」どころか逆効果だったのです。
自分の一方的な思い込みによって生じたブラインドスポットなのだと思います。
つい先日に起こった、私の「ブラインドスポット」
次は、つい先日に起こったブラインドスポットの体験です。
社内で、コーチングに関する新しい商品開発のためのミーティングをしていました。
その中で、「コーチング」と「ティーチング」の関係が議論の焦点となりました。その中心になったのは、私と上司のふたり。
「コーチング」と「ティーチング」については、過去、幾度となく話し合ってきたテーマです。
ところが、話すたびにちょっとした違和感がある。
今までにも、しばしば話が噛みあわない、と感じることがあったのですが、踏み込むと混乱がより深まるような予感がして、なんとなく当たり障りのないところまでで放置していたテーマなのです。
この時も、私は話しながら悶々とした違和感をもっていました。議論は2時間を超えようとしていました。
しかし、今回の商品開発にあたっては、この違和感を解消しない限り前には進まない、と思いました。そこで私は、
「Aさんは今、ティーチングをどのような定義で話しているのですか? 私は、知識や情報の提示、ニュートラルな伝達という意味で使っています。Aさんはどのような意味でつかっているのか、しつこいようですが、もう一度聞かせてください」
と尋ねたのです。すると、
「なるほど、桜井さんは、ティーチングはニュートラルな知識の伝達と言う意味で使っていたんだね。私は、相手の主体性を無視して押しつける、という意味も含めて話してるね」
この2時間だけでなく、何年もの間、お互いがまったく違う定義で議論を続けていたわけです。
私は、この数年間のもやもやした霧が晴れていくような、そして少し拍子抜けしたような感覚に襲われていました。
このやりとりの後、議論は急速に展開し、ふたりの方向性は一致していきました。
これは、「難しく面倒な対話」を避けたために起こるべくして起こったブラインドスポットなのだと思います。
もし、私が最初に違和感を覚えたときに、勇気を持って「対話」を起こしていれば、議論の時間は短縮されたのかもしれません。
ブラインドスポットに気づくには?
ブラインドスポットは、誰にでもいつでも起こるのだと思います。そして、それに気づくことができれば、対応することができるのです。
では、どうしたらブラインドスポットに気づくことができるのでしょうか?
いくら頑張っても、自分に見えないものは、自分で見ることはできません。自分ひとりでは見ることができないのです。すべてのブラインドスポットは、対話の欠如から生まれていると言えるでしょう。
「他者」との対話によってはじめて、自分のブラインドスポットに気づくことができるのです。
Loretta Mlandro氏は、ブラインドスポットへの対処として次のようにポイントをあげています。
- 他者に、正直なフィードバックをもとめること
- あなたが及ぼしている影響について正当化をやめ、アカウンタビリティを持つこと
- あなたの「ブラインドスポット」について誰かにコーチしてもらうように頼むこと
そして、それが起こったことを「認め」その「行動」を止め、やり直すこと。
「自分には見えていないことがある」という前提に立って、他者との「対話」を作りだす。
自分に見えないものを見るためには、自分から「対話」を作り出し、それを継続することが大切なのだと思うのです。
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参考資料
※1 株式会社コーチ・エィ コーチング研究所調査
読者アンケート調査(No.19)「ブラインド・スポットについてのアンケート調査」
調査対象:コーチ・エィ発行メールマガジン「WEEKLY GLOBAL COACH」の読者
実施期間:2017年12月6日~12月26日
有効回答数:117件
※2 Loretta Malandro,2009,Discover Your Leadership Blind Spots,Bloomberg
※ 桜井一紀(著)、『一流のリーダーほど、しゃべらない』、すばる舎、2017年
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