Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


「場」で考えるリーダーシップとは?

「場」で考えるリーダーシップとは?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

新年度が始まりました。

多くの企業では、新入社員を迎えたり、社員が新たな部署へ赴任したりする季節です。

新しい職責、新しい部門への挑戦が始まった方も多いのではないでしょうか。

組織は、新しい人材の投入や異動で「個」の開発を図り、組織全体の能力や可能性の向上を狙うわけです。

しかし、「リーダーが新しいポジションに適応するには、1年3か月~1年半の月日がかかる」という研究結果もあるようです。

これが長いか短いかは、意見が分かれるところですが、高い職責になればなるほど、より大きな変化と、より早期の能力発揮が求められることは確かです。

では、未経験かつ挑戦的なミッションに直面したリーダーが、より早く組織の目標を達成するにはどのような視点をもつと良いのでしょうか。

リーダーシップを「場」で考える

ハーバード大学教育大学院教授カート・フィッシャーの提唱する「ダイナミックスキル理論」という能力開発の成長モデルがあります。(※)

これは、「人の能力は、多様な要因によって影響を受けながらダイナミックに成長していくものである」とし、取り巻く状況や他者との関わりを通じて、絶えず変化をしながら成し遂げられる「動的なもの」とする考えだそうです。

つまり、リーダーシップとは、不足している技術や知識の習得といった「個」によるものではなく、その時々の環境や課題、関係者たちとの「場」の中でしか成し遂げられない、と言えるのではないでしょうか。

数年前に新しい環境に直面していたAさんは、「場」を意識して新しい環境・職責を乗り越えたリーダーのお一人です。

Aさんは、初回のセッションで、

「新しい部門で求められているゴールの達成は、いまの私の実力にはほど遠いと感じています。が、なんとか短時間で、達成したい」

とおっしゃいました。続けて、

「部下の数は、300人だったのが10倍になります。これまでは国内に限られていたのが世界中に広がります。しかも、負け癖のついている組織の立て直し。不協和音が出やすいこの環境で、これからの私に必要となるリーダーシップとは何か、その棚卸しから始めたい」と。

私は、Aさんが、ご自身の「リーダーシップ」の発揮を、知識やスキルでなく、新しいメンバー3,000人との「場」で個別・具体的に発揮していくものと捉えていることを感じました。

そこで、次のセッションでは、以下のような質問を用意しました。

  • Aさんを取り巻く環境変化は、Aさんご自身にどんな影響を与えていますか?
  • その影響は、誰から受けていますか?
  • Aさんのどんな行動が、組織の成果創出にもっとも影響を与えますか?
  • 社員はいま、Aさんからどんなメッセージを受け取っていると思いますか?
  • 今後、Aさんがどんなメッセージを発信することが、組織の成果創出に繋がりますか?

Aさんは、私が投げかける問いを元に、自身の置かれた状況と課題を見渡しました。

リーダーシップ能力を「サブ能力」に分解する

Aさんは次に、会議や面談のシーンや関係するメンバー一人ひとりの顔を思い浮かべながら、具体的な能力や行動を明確にしていきました。

  • 私(Aさん)を「敵」と見る部下の話を、感情的にならずに聞く能力
  • 逃げも隠れもしない、という私の姿勢を全マネジメントチームに伝える発信力
  • 主要メンバーをOne Teamにするための戦略立案力
  • 苦手意識を感じる主要メンバーに媚びることなく話す力
  • 意見の異なるメンバーたちと「共に考える」ためのファシリテーション力

「ダイナミックスキル理論」では、リーダーシップといった「漠然とした能力」を高めるには、それを構成する小さな能力、つまり「サブ能力」の特定が重要だとしています。

「場」の状況や課題、関係者を視野にいれながら、いま必要な「個別具体的」な能力に分解、特定すれば意識や行動の変化に結び付きやすくなる、ということでしょう。

Aさんも、メンバー構成や一人ひとりの関係性を考慮しながら「サブ能力」にした意識や行動を職場で実践し、次々に実績を上げていきました。

まず、3か月間をかけて国内外の主要拠点を周りながら、全世界にメッセージを発信していきました。そして、そのメッセージで社員が理解したこと、できなかったこと、心から納得できたこと、できなかったことをアンケートし、タイムリーに組織の状況把握につとめました。

そして、どの国の、どの部門の、どんな人たちと、何について対話することが必要なのかをあぶり出し、直接に、間接に対話を重ねていきました。

結果、1年後には、みごと収益を生み出す組織に蘇らせたのです。


いま、あなたはどのような「場」にいますか?

そして、新しく、挑戦的なミッションの遂行にむけて、高めたいと思う能力を構成している「サブ能力」にはどんなものがあるでしょうか?

まずはこの棚卸しから始めてみるのはいかがでしょうか。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
※加藤洋平、『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』、日本能率協会マネジメントセンター、2017年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

リーダー開発 育成/成長

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事