Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
職場の「孤独」をなくせ
2018年04月11日
あなたの職場に「孤独」を感じている人はいますか?
「孤独」を辞書で引くと、「頼りになる人や心の通じあう人がなく、ひとりぼっちで、さびしい・こと(さま)」とあります。(※1)
職場で「孤独」を感じている人がいるとしたら、おそらくその人は、職場の中に頼りになる人や心の通じ合う人がいない、と感じているのでしょう。
そもそも、人類は人と人とが互いに協力することによって、ひとりでは到底手に入れることが出来ない獲物を獲得したり、広大な土地を開拓したりしながら、お互いの知恵を結集して生活を向上させてきました。
周囲と良い関係を築き協力し合うことは、自分と家族やその子孫が、より安全で質の高い人生を送ることができる可能性を示唆していました。
もし、周囲とのつながりを全く持つことが出来ない状態になってしまったら、それはすなわち「死」を意味することすらあったのです。私たちの祖先は、周囲とのつながりがない「孤独」を感じる状態が、人間にとって大変危険なことであると知っていたはずです。
私たちが周囲との関係に敏感なのは、長い歴史の中で備わった自然な反応だと言えるでしょう。
「孤独」が脳に与える影響とは?
シカゴ大学のジョン・T・カシオポ教授らは、人が孤独を感じたときの脳の状態をfMRIで調べました。すると、脳が「孤独」を感じた時に受け取るシグナルは、体に痛みを感じた時に受け取るシグナルと同じだということが分かりました。(※2)
さらに最近の研究では、そのような孤独が長く続くと健康に次のような影響をもたらすことも明らかになっています。(※3)
- 孤独は冠動脈性の心疾患リスクを29%上げ、心臓発作のリスクを32%上昇させる
- 孤独な人はそうでない人より、20%速いペースで認知機能が衰える
- 孤独度が高い人がアルツハイマーになるリスクは、孤独度が低い人の2.1倍
- 孤独は、体重減少や運動による血圧低下効果を相殺する負の効果を持つ
一方、「孤独」は主観的なものです。
職場の中で誰が孤独を感じているかは、見た目だけでははっきりと分かりません。周囲とのつながりがあまりなくても孤独を感じない人もいますし、楽しそうに多くの人と話していても孤独を感じている人がいるはずです。
とは言うものの、最近では従業員満足度調査などで「孤独を感じるか」といった項目を入れている企業が多くありますし、上司と部下の1対1の面談を頻度高く実施している企業も増えています。このようなことをきっかけにして、職場に孤独を感じている人がいることや、誰が孤独を感じているかを把握できる場合もあるのです。
もしあなたが職場の上司で、あなたの部下の中に「孤独」を感じている人を見つけたら、そのままにしておくべきではありません。
先のカシオポ教授らの研究では、孤独を感じている人は、注意力に支障を来たし、困難な課題を正確に答えられなくなることが分かりました。さらに、孤独を感じている人は、そうではない人に比べ、他者に多くの罰を与えようとしたり、人を助けようとしなかったり、自滅的な危険を冒したり、するべきことを先延ばしにしたり、という傾向もあるのです。(※2)
組織は何らかの共通する目的を達成するために集まった集団であるはずですから、意図的な「いじわる」などでないなら、本来は職場の中で周囲とのつながりを感じられない孤独を感じるはずはないでしょう。
ところが、ラグビーやサッカーのようなスポーツのチームと違い、職場では、同じ目標を持っているとはいえ、会議でみんなが集まるような時間を除き、各人がそれぞれ異なる役割を持って作業をひとりで行うことが多いのです。
そのため、同じ職場にいても自分が他の人と「一緒に仕事をしている」という感覚を持ちにくい場合があるのです。
このような「職場の孤独」を解決するヒントになるものを1つご紹介したいと思います。
「職場の孤独」を解決する、ある一言とは?
スタンフォード大学のプリンヤンカ・カーとグレッグ・ウォルトンが興味深い実験をしました。彼らは被験者を集め、各々に難しいパズルの問題を解いてもらいました。
ただし、被験者のうち半数には「これはチームで一緒にやるタスクです。あとで他のメンバーにヒントを伝えたり、他のメンバーからヒントを受け取ったりできます」と伝えました。実際にはひとりで行う作業なのですが、他のメンバーと「一緒にやっている」という「感覚」を与えたのです。
一方、残り半数の被験者には何も伝えませんでした。
この結果、意外なほど大きな違いが生まれました。
「一緒にやっている」という感覚を与えられた被験者は、何も言われていない被験者よりも正解数が多く、作業内容を詳しく思い出すことが出来て、作業による疲れや消耗も少なく、この作業を面白いと感じる人が多く、作業を48%長く続けることが出来たのです。(※4)
「一緒にやっている」という「感覚」を与えるだけで、パフォーマンスが向上させることがこの実験でわかりました。
一緒に仕事をしていない人に「一緒にやっている」と伝えると嘘になってしまいますが、職場で一緒に仕事をしている人に「"一緒に"仕事をしているんだよ」と、わざわざ「一緒に」を「言葉」にして伝えることは効果があると考えられます。
ところで、こんなことがありました。
数年前、ある会社の社長Aさんに、この「一緒にやっている感覚を伝える」話を紹介したところ、とても気に入られたようで、会議やメールの中で部下に対して「一緒に考えよう」や「一緒に頑張ろう」といった言葉を使われるようになったのです。
その後、たまたまある新任役員の方から「社長からこんな嬉しいメールをもらったんですよ」と見せてもらったメールには、しっかり「一緒に」の文字がありました。
ある時「"一緒に"をずっと使っておられるそうですね」とAさんに言うと、Aさんは「そうなんですよ。実はね、"一緒に"を使うと自分の調子が上がることが分かったんですよ」と笑いながら教えてくれました。
「職場の孤独」を解決することは、あなた自身のパフォーマンスを高めることにつながる可能性があるのです。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考文献】
※1 『大辞林』第3版
※2 ジョン・T. カシオポ、ウィリアム パトリック、柴田裕之 (翻訳)、『孤独の科学』、河出文庫、2018年
※3 岡本純子、『世界一孤独な日本のオジサン』、角川新書、2018年
※4 ハイディ・グラント・ハルバーソン、「部下のモチベーションを高める魔法の一言」、ハーバード・ビジネス・レビュー記事、2015年1月5日
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。