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1枚目のパンケーキは必ず失敗する
2018年04月18日
Language: English
ブライアン・オーサーという人物をご存知でしょうか。
平昌オリンピックで、フィギュアスケートの羽生結弦選手とハビエル・フェルナンデス選手のふたりをメダルに導いた名コーチです。
ふたりのメダル確定後、3人が楽しそうにセルフィーしている姿からは、良好な信頼関係が伝わってきました。
オーサー自身もメダリストで、キム・ヨナ選手の指導をきっかけにコーチに専任したそうです。
オリンピックが終わり2ヶ月。
新年度がはじまり、部下と目標設定について話している方も多いのではないでしょうか。
この目標設定時にどう部下と関わるか、オーサーのコーチ術から何か学べるものはないか。彼の著書を紐解きました。
オーサーコーチに学ぶ「初戦」の選び方
フィギュア・スケートのシーズンは秋に始まります。
2015-16年シーズンのはじまり、羽生選手は、ショートとフリーの両方で、「演技後半での4回転ジャンプ」を組み込み、初成功に向けた挑戦を自らに課したそうです。
成功すれば前人未到の300点超えが実現する、難易度の高い目標でした。
迎えたシーズンの初戦。オーサーが選んだのは、地元トロント郊外で行われたオータムクラシックでした。
この初戦、羽生選手はショートもフリーも、演技後半での4回転ジャンプに失敗。つめかけた多くの日本メディアが「ミスの原因は、精神的なものか、技術的なものか」と分析しようとしました。
しかし、この初戦のミスについて、オーサーはこんなことわざを使って解説しています。
「The first pancake is always spoiled. (1枚目のパンケーキは必ず失敗する)」
同氏によると、1枚目のパンケーキは、火が強すぎたり小麦粉を入れすぎたり、焼き時間を間違えたりするものであり、成功が目的ではない。何を調整すればいいのかをチェックするための最初の1枚だ、と。
そして、「ユヅルの1枚目のパンケーキは失敗し、とてもたくさんの収穫がありました」と振り返っています。
オーサーは、この後に控える大きな目標のために、羽生選手が「試す場」を用意していたのです。
ビジネスの領域でも、この「1枚目のパンケーキ」に似た考えで、リーンスタートアップというものがあります。
これは、コストをそれほどかけずに最低限の機能で顧客にサービスを提供し、その反応を見ながら随時改善していく方法です。このサイクルをこまめに繰り返すことで、起業や新規事業の成功率が飛躍的に高まると言われているそうです。
まさに、パンケーキを何枚も焼きながら美味しくしていくプロセスと同じです。
部下にとっての「1枚目のパンケーキ」は?
大きな目標達成のために、小さな失敗をする場を用意することは、有効な方法のひとつのようです。
では、目標を設定する時に、このことはどれくらい意識されているでしょうか。
目標設定時には、主に最終目標が会社や個人にどれだけ価値があるのかが話されます。
目標を明確にすること自体が骨の折れる仕事であり、目標が決まるだけで、ある種の達成感があるのではないでしょうか。
そこから目標達成に向けて進んでいく訳ですが、部下の目標が高ければ高いほど、初めて取り組む種類の仕事も多いはずです。
自ずと、失敗も増えます。
すべてをうまくやろうと思っていると、失敗で落ち込み、仕事が進まなくなってしまうかもしれません。
ですから、そうなる前に、部下の目標が明確になったら、次にやりたいことは「1枚目のパンケーキは何か?」を一緒に考えてみることです。
目標達成に向けてチャレンジとなり、失敗しても致命的にならず、検証可能な「最初の仕事」とは何なのでしょうか。
その「1枚目」を用意することで、部下の守りの意識は減り、挑戦しやすい環境となります。もし失敗しても、必要以上に狼狽したり落ち込んだりせず、失敗から何を学ぶかに目がいきやすいのではないでしょうか。
こうした積み重ねが、最終的な目標達成につながっていくはずです。
さて、羽生選手の2015-16年シーズンのその後はどうだったのでしょうか。
シーズン2戦目でも、ショートでミスし、6位発進という芳しくない結果でした。しかし、続く3戦目NHK杯で歴史的瞬間が訪れます。
ショートで4回転を2回共成功。フリーも4回転を成功させ、史上初の300点越え、322.40点という結果を残しました。
偉大な結果も、最初は「1枚目のパンケーキ」から始まったのです。
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【参考文献】
ブライアン・オーサー(著)、樋口豊(監修)、野口美惠(翻訳)、『チーム・ブライアン 300点伝説』、講談社、2017年
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