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ゴールの達成率を上げるために考えておくべき、もう1つの視点

ゴールの達成率を上げるために考えておくべき、もう1つの視点
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ゴール達成の確率を、どう引き上げるのか。

これは、コーチングにおける最も重要なテーマのひとつです。

皆さんは、ゴール達成の確率を引き上げるために、どんな戦略をもっているでしょうか?

「望ましい未来を描きましょう。そうすれば、未来があなたをそこに引き寄せます」

そんな話を聞いたことがある方もいるかもしれません。

確かに、「望ましい未来」の熟考は、ゴール達成の確率を上げるために、欠くことのできない要素です。

しかし、さまざまなリサーチを見ていると、それだけでは確率を上げるのには十分ではないようです。

実は、「その先」の熟考をしていないがために、多くの人たちが、達成率を上げられずにいるのだ、と。

ゴール達成のエキスパートの書棚に並ぶのは「失敗」の事例

エグゼクティブコーチという仕事柄、ゴール達成のエキスパートたち、即ち、企業のエグゼクティブに、数多く出会ってきました。

こうした人たちと接する中で感じるのは、概して、楽観的でエネルギーに満ちているということでした。しかし、それだけではないのです。

どこか疑り深く、辛口である。

そんな印象も受けることが多々ありました。

先日、ある経営幹部の方が、コーチングのお礼にと、望ましい未来の実現について書かれた本をプレゼントしてくれました。

そのお礼に伺った際に、彼の書棚に目をやりました。すると、

  • 日本軍はなぜ負けたのか
  • 組織はなぜ滅びるのか
  • 〇〇企業の失敗事例の研究

そういったタイトルの書籍であふれていました。

「贈ったものと矛盾しているって?
失敗の本は、人には贈りづらいのよね。
でも、どうやって失敗するかは、勉強になる。
何かを起こす前に備えておける」

はにかみ笑いをしつつ、その目は真剣でした。

彼の言ったことは、次に紹介する、心理学者達が突き止めた「ゴール達成の確率」を高める条件と関係しているかもしれません。

ゴール達成の確率を上げる「2つの熟考」とは?

心理学者Oettingen博士らの研究(※1)によると、どんなコンテキスト(環境)の下であろうと、「2つの熟考」により、達成率は格段に上がるのだそうです。

まず、第1に「望ましい未来」への熟考。

これを実践する人は多数いる。しかし、もう1つの熟考を併存させることが滅多にないため、ゴール達成の確率を上げられないのが実態とのこと。

その第2の熟考とは、「予測される障害」に関するもの。

この熟考がもたらすもの、それは、

  • 「障害」に向けたプランの検討
  • 「障害」を予期し、それでも「ゴール」を目指すというコミットメントの上昇

だと。

心理学者達が心的対比と呼ぶこのプロセスにより、ゴール達成までの「やり続ける確率」が上がるのです。

  • 「私は~を手に入れたい」
  • 「~という障害があったとしても、私は~を手に入れたい」

確かに、後者の方が、達成に向けた強い気持ちを引き出すことは、容易に想像がつきます。

ゴール設定時に加えるべき、シンプルな問い

「予測される障害」を敢えて熟考する。

このアプローチは、実は人の心的作用を踏まえると、実に戦略的です。

人は、「心の中にあるイメージと現実とのギャップ」を見出した時、その葛藤を解決し調和と秩序を手に入れたい、という強力な欲望と動機をもつと言われます。

このいわゆる「認識の不協和」の状態こそが、ゴール達成への強い欲求を引き出す鍵となります(※2)。

私たちが敢えて「望ましい未来」と対比させる形で「予測される障害」を明確にすればするほど、「認識の不協和」は増大し、その葛藤を解決したい強力な動機を味方につけることになるのです。

そして博士たちは、ゴール設定の際に、

  • 「もし~であれば、そのときは?」という「If - then」を検討に加える

というシンプルな工夫を提案しています。

この方法をマネージャーたちにトレーニングし、2ヶ月後に、ゴールに向けた進捗についてその部下たちに調査をしました。結果、「自分の上司は、行動を起こした」と回答した部下は、97%に達したそうです。

  • あなたは、どんな未来を手に入れたいのですか?
  • この3か月で、どこまで到達したいのですか?
  • その間に予測される障害は何ですか?
  • もしそれが起こったら、そのときはどう対応しますか?

ゴール達成の確率を引き上げたいとき、「望ましい未来」の熟考に加え、第2の「予測される障害」の熟考を加える。

「もし~であれば、そのときは?(If-then)」と問い、障害の対応策まで踏み込む。

このシンプルな工夫の追加が、目標達成に対するパワフルなコミットメントを引き出し、同時に、それを阻む障害に対応しうるフレキシブルなアイディアを引き出します。

試す価値はありそうです。

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【参考資料】
※1 Joel Constable,Two Techniques for Helping Employees Change Ingrained Habits,
March 28, 2018
Harvard Business Review

※2 ルー タイス(著)、吉田 利子(翻訳)、『望めば、叶う』、日経BP社、1998年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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