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「不確実性に耐える力」=「ネガティブ・ケイパビリティ」のススメ

「不確実性に耐える力」=「ネガティブ・ケイパビリティ」のススメ
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「VUCA」という言葉があるように、世界はますます「変動的(Volatile)」で、「不確実(Uncertain)」で、「複雑(Complex)」で、「曖昧(Ambiguous)」になってきています。

リーダーがこれまでの経験から培ってきた既存の「知識」や「経験」だけでは、課題を解決できない「未知」の世界に突入しています。リーダーにとっては、暗闇の中を手探りで歩いているような感覚かもしれません。

そもそも人間は、予測のつかないものや不可思議なものを避け、確実なものを求める傾向があります。確信が揺るがされると、神経学的には、身体的攻撃を受けたのと同様の苦痛を感じるといいます。

ですから、私たちは、脳を心地よい状態に保つために、可能な限り不確実性を排除し、何かしらの確実性=答えを常に探し求めています。時に、拙速に判断するあまり、結果として、誤った答えさえも作り出してしまうことがあります。多くのM&Aや投資案件の不成功の背景には、そんな理由があるのかもしれません。

詩人キーツが唱えた「よくわからないことの中にただすくっと立つ能力」

「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉があります。

「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、イギリスを代表する詩人ジョン・キーツが唱えた概念です。

キーツは「事実があるはず、理屈があるはずと追及するのではなく、不確かなこと、不可解なこと、よくわからないことの中に、ただすくっと立っている力」として「ネガティブ・ケイパビリティ」を定義しています。

また、ビジネスにおける「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を主張する学者、ロバート・フレンチとピーター・シンプソンは、「無知の空間を無理やり知識で埋めたい誘惑に抵抗できるのなら、新しいアイデア、考え気づきを生み出せる」と主張しています。

「不確実性」による影響が高まる今日、「拙速な理解や解決をするのではなく、謎を謎として興味をいだいたまま、宙ぶらりんのどうしようもない状態を耐え抜く力。その先に発展的な深い理解が待ち受けていると考える力」=「ネガティブ・ケイパビリティ」という能力こそ、リーダーに問われているのかもしれません。

「ネガティブ・ケイパビリティ」が試される対話とは

私たちコーチは、時に、クライアントと「対話」を通して向かい合います。

「対話」は、既存の発想や考え方をいったん「保留」にします。その関わり方そのものが、意図的に「ネガティブ・ケイパビリティ」を試している状態ともいえます。

すでに、十分理解、認識していると思っている会社や部下についても、少し立ち止まって、

「会社の何が見えていて、何が実は見えていないのか?」
「パートナーである役員Aさんについて何を知っていて、何を知らないのか?」
「そもそも、戦略とはどんなものだと定義しているのか?」

などとクライアントに問いかけます。

それは、「既知」と「未知」の境界をふたりでいったり、きたりするような感覚です。

時に、わからないこと、説明のつかないことに出会い、その宙ぶらりんな不確実性の感覚にしり込みをしたり、すでにある答えや解決策にすがりつこうとしたりすることがあります。

しかし、そんな時にも、既存の考えや判断を脇において、ふたりでその場にとどまり、よく聞きながら、問いかけ、そのテーマをふたりで観察することを繰り返していきます。すると、「分かっている」と思っていた部下や組織のことを、実はほとんど知らない自分に不思議と気がついたりすることがあります。

そして、分かっていないことを知ることで、はじめて、どうやったら部下のことをもっと理解することができるのか? 部下の何を知ることが大切なのか? という新しい発想や、それにもとづく行動が生まれていきます。

コーチングを受けたあるエグゼクティブは「よくわからない場面になると、大慌てし、その隙間を埋めようと焦っていた気がします。そんな時こそ、対話することで、少しスローダウンして、答えが自然に出てくるのを待っている気持ちです」とおっしゃっていました。

発達学者のジェーン・ロビィンジャーは、「人間の意識の発達とは、曖昧さに対する耐久性の増加である」と説きます。

私たちの意識が成熟してくると、他者のみならず、おかれた環境なども含めて「取り巻く曖昧なもの」をより受容できるようになるといいます。

「VUCA」の時代、リーダーは、時には拙速に答えを求めることをせず、あえてその「不確実性」を前に、ただ佇み、その本質が現れるのを待つ能力=「ネガティブ・ケイパビリティ」という能力の存在を知っておくのも大切なことのように思えます。

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【参考資料】
・スティーブン・デスーザ、ダイアナ・レナ―(著)、上原裕美子(訳)、『「無知」の技法』、日本実業出版社、2015年
・帚木蓬生、『ネガティブ・ケイパビリティ ~答えの出ない事態に耐える力』、朝日新聞出版、2017年
・加藤洋平、『なぜ部下とうまくいかないのか』、日本能率協会マネジメントセンター、2016年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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