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新任リーダーが向き合う、2つのトランジション

新任リーダーが向き合う、2つのトランジション
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ここ最近、新たなポジションに就かれたリーダーへのコーチングを担当させていただく機会が続きました。

昇進や部門間の異動・海外赴任などで未経験の新たなポジションに就くといった大きな環境の変化を迎えるタイミング「トランジション」は、コーチングが多く活用されるタイミングです。

人生におけるあらゆる「トランジション」に関する研究者であるウィリアム・ブリッジズは、「トランジション」を、外的な環境や出来事の変化だけではなく、その人の内面が変化すること、その人自身の内側にある「ものの見方」全体を再定義すること、としています。

人は、これまでにない経験をするとき、望む、望まないかに関わらず、何らかの「ものの見方」の変化を体験します。それは、自らが持っている前提を見直すことであり、優先順位を変えることであり、これまでのやり方を手放すことでもあります。

新しい環境でいち早くパフォーマンスを発揮するリーダーたちは、自ら積極的に、新しい職場や役割の中で、新しい「ものの見方」を選択していると言えます。

そのようなリーダーとご一緒しているうちに、リーダーにとって向き合うべき「トランジション」は、どうやら「もうひとつ」存在することが見えてきました。

もうひとつの「トランジション」の正体とは?

APAC全体の事業を束ねる責任者としてシンガポールに赴任したあるリーダーがいます。

本社社長から言い渡された最も重要なミッションは、「次の5年間で、既存のビジネスは縮小・効率化し、新たな柱となる事業を創り出すこと」。コーチングがスタートしたのは、赴任後半年が過ぎた頃でした。

彼が表現する組織の状態は、

「やるべきことは組織員に共有されている。しかし、現地スタッフの主体性や挑戦する意欲が足りていないのではないか」

というものでした。

彼自身は、日本でのマネジメント方法が通用しないことをいち早く理解し、組織が目指すビジョンを明確に打ち出していました。そして新しいビジョンに向けた重要顧客との信頼関係も築き始めているようでした。

しかし、肝心の組織員たちが、今まで通りの働き方を続け、新しい分野へのチャレンジに取り組めていない、というのです。

思うように進まない現状に、「新事業の推進には、今のスタッフでは能力不足なのではないか?」という考えが、頭によぎり始めていたようでした。

では、一方の現地スタッフは、この現状をどう捉えていたのでしょうか。

見えてきた「もうひとつ」のトランジション

コーチングで行ったアンケートやインタビューで見えてきたのは、彼らにとって、新リーダーがもたらそうとしている変化は、「自分の立場への危機を意味している」ということでした。

「このリーダーは自分たちを追いやろうとしているのではないか?」

そのような恐れが現地スタッフに行き渡り、新しい行動をとることを拒んでいたのでした。

新リーダーが着任するとき、組織に所属するスタッフたちも同時に環境の変化の中に置かれ、それぞれの「ものの見方」を変化させることを迫られます。

ここに、リーダーにとっての「もうひとつのトランジション」が存在しているのです。

つまり、リーダー自身の「トランジション」が成功しても、周囲のスタッフの「トランジション」が手つかずのままだと、組織全体の「トランジション」は完了しないということです。

スタッフの「トランジション」を成功させる。

これが、私たちのコーチングのゴールになりました。

現地スタッフが、新しい「ものの見方」を獲得するには、何が必要か?

私たちは繰り返し話し合いました。

彼が出した答えのひとつは、今あるものを「手放す」先に、何が「手に入る」のかを、彼らと一緒に見出す、ということでした。彼は根気強く、会社の目標について、現地スタッフと一緒に話し合いました。

「あなたが、仕事を通じて手に入れたいことはどんなことか?」
「今のやり方を続けることで、手に入ることは何だろうか?」
「3年後にどういう働き方をしていたいか?」

「10年後にも成長し続ける会社になるためには、今何を取り組むべきだろうか?」

そして、いち早くやり方を変え、新しい仕事の仕方をスタートしたスタッフには、新しいポジションや機会を与えることにしました。

「手に入れること」のイメージが共有されるにつれ、彼ら自身が「このままのやり方では、間に合わない。もっと自分の周りのスタッフたちを主体的に動かしていく必要がある」と話すようになっていきました。今の仕事のやり方を「手放す」ことは、それぞれが新しく何かを「手に入れる」ことだ、と考えるようになったのです。

6ヶ月後のインタビューで、ある現地スタッフはこのように話しました。

「自分はこれまでは、ずっと『今ある仕事を(自分が)どうやってやろうか』と考えていたと思う。今は、『誰に任せようか』『どのようにやってもらおうか』と考えるようになった。仕事の進め方の前提が変わった」

一方、リーダー自身は、コーチングのプロセスで手に入れた成果をこう表現しました。

「一番の成果は、現地スタッフの有能さに気づいたことです。

自分には『彼らにはこの仕事は難しいだろう』という思い込みがあったのだと思う。

今では、一人ひとりに、こんな能力があったのか、と驚かされる日々です」

リーダーのパフォーマンスは、組織員がパフォーマンスを発揮できているかどうか、にかかっています。

つまり、リーダーの「トランジション」の成功とは、リーダーの周囲にいる人たちの「トランジション」の成功を、同時に意味していると言えます。

新たなポジションに就くリーダーには、組織内のより多くのスタッフの「トランジション」を、いち早く成功させる技術が求められているのです。

これは「トランジション」時期のリーダーにとって、大事な役割のひとつと言えるでしょう。

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【参考資料】
ウィリアム・ブリッジズ(著)、倉光修、小林 哲郎(翻訳)、『トランジション ――人生の転機を活かすために』、パンローリング、2014年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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