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なぜ終わり際に「本当に話すべきはこのことだった」が起きるのか?

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「話し合わないといけなかったのは、むしろ、このことだったのかも...」

面談や会議の終わりになって、そう気づいたことはないでしょうか。

商品価格が問題だと思って話を進めていたが、会議も後半になって真の問題は顧客との関係であることに気づいてしまう、というようなケースです。

コーチングでのテーマ選びでも、同じようなことが起こるときがあります。

話すべきは、本当にそのことだったのか?

私がコーチを始めてすぐの頃、ベテランの先輩から言われ、はっきり覚えていることがあります。それは、先輩の前で同僚にコーチングをした後の一言でした。

「君は、セッションの最初に『この時間で何を話したいですか?』って質問したよね。クライアントの答えを聞いた後、そのまま、そのテーマで話を進めていたね」

たしかに、クライアントである同僚は、「部署の営業数字達成のために、若手の部下をどう育成するかについて話したい」と言い、私は部下育成をテーマにコーチングを進めていました。

コーチングでは、クライアントが一番関心を持っているテーマを話すことが、相手の役に立つと思っていたからです。

相手が注目しているテーマを最初に聞いて深堀りをし、行動につなげていく。そうした心がけで、私はコーチングに臨んでいました。

「でもね、今、クライアントが話すべきテーマは、本当にそのことだったのかな?」

先輩コーチの問いかけに、私はしばらく考えこみました。

あなたの意思は、座る場所に影響される

このことを紐解くには、人間が「何を重要視してしまうのか」を知ることが手がかりになります。UCLAの社会心理学者シェリー・テイラー博士の実験をご紹介しましょう。

同博士は、複数の実験参加者に、AさんとBさんの2人が議論する場面を観察し、「議論の主導権を握っていたのはどちらだったのか」を判断してもらいました。

AさんとBさんは向かい合って座り、どちらか一方だけが主導権を握ることのないようにした脚本に沿って議論します。

観察する参加者は2つのグループに分けられ、一方のグループはAさんの顔がよく見えるようにBさんの後ろに座りました。もう一方のグループは、Bさんの顔がよく見えるよう、Aさんの後ろに座ります。

実験の結果、2つのグループは、どちらが議論の主導権を握っていたのか、異なる判断をしました。それぞれ、顔が見えていた人物の方が、議論の主導権を握っていた、と判断したのです。

この実験では、参加者の性別や議論内容に関係なく、同じ結果が出ました。

こうした数々の心理実験の結果を通して、心理学教授のロバート・チャルディーニは、「私たちは、注目した要素の重要性を高く見積もります。また、そうした要素に原因を割り当てもします」と述べています。

つまり、人は、「注目したもの」「接する情報が多いもの」を自動的に重要視してしまい、問題を起こしている原因はそこにあると考えてしまうということのようです。

たとえば、顧客と頻繁に会う人は、問題の原因としてまず「顧客」に関連したことを考えます。「顧客のニーズが変化しているから」「顧客との信頼関係が薄れてきているから」といった具合です。

冒頭の私のコーチングの場合、たしかに同僚は若手部下を気にかけていました。そのため、彼らが活躍すれば営業目標は達成できるはずで、今順調でないのは、彼らに原因があるのではないかという考えがあったのだと思います。

チャルディーニは、CEOという存在が企業の業績に並外れて大きな責任があると考えられるのも、CEOが視覚的にも心理的にも目立つためだと述べています。

人が持つこの特性の問題は、目標達成の本質に影響するかどうかに関わらず、「注目したもの」をまず重視して、そこに原因があると考えてしまうということです。

自分が、日常的にどんな情報に多く触れているのかを、明確に自覚している人も少ないでしょうし、この影響から逃れるのは難しいように思います。

とすると、はじめに考えついたテーマに飛びついて話を始める前に、一旦立ち止まり、他の可能性にも注意を向けることには価値があるといえそうです。

先輩コーチから教えてもらったこと

では、コーチングや面談、会議の場で「本来話すべきテーマ」を決める有効な手だてはあるのでしょうか。

先輩コーチからの教えを紹介します。

考えこむ私を見ていた先輩は、「私の場合は」と前置きして、次のようなことを言いました。

「はじめに、相手から3つ以上のテーマを出してもらって、選択してもらうようにしています。

大きな目標と照らし合わせると、今、何を話す必要があるのか?
あなたの上司だったら、今、何を考えるのか?
考えたくないけれど、本当は話した方がいいことは何なのか?

いろいろな角度で話すべきテーマを挙げて、どのテーマにするのかを選んでもらう。そして、なぜそのテーマを選ぶのか、そのテーマは対話の時間を投資する価値があるのかについても話してもらいます」

私はそれ以降、クライアントがはじめに持ち出したテーマにすぐ飛びつくことをやめました。そして、いくつかの選択肢をあげて選んでもらうことを意識するようになりました。

もちろん、はじめに挙げたテーマが選択されることもありますが、異なるテーマが選ばれることも多くあります。

そうした経験を重ねるうちに気づいたことは、「何に注意を向けているのか?」というテーマ選びそのものに、大きな価値があるということです。

自分が普段、何に注意を向け、何を見ているか。

それを人に話すことは、自己認識を深めることにつながっていると感じます。

誰かと話す時、まず「何について話すのか」から話してみてはいかがでしょう。そして、3つ以上選択肢を出し、選ぶ。

その対話の過程が、新しい可能性を開くのではないでしょうか。

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参考書籍
ロバート・チャルディーニ (著)、安藤清志、曽根寛樹(翻訳)、『PRE-SUASION :影響力と説得のための革命的瞬間』、誠信書房、2017年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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