Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
組織のパフォーマンスを上げる「顔つき」をしていますか?
コピーしました コピーに失敗しました「組織のパフォーマンスを高めるために重要な『変数』は何ですか?」
エグゼクティブ・コーチングのクライアントにする質問です。
外部環境や企業風土、社員の能力、リーダーである自分自身の考え方や価値観、スキルなど、人によって様々な答えが返ってきます。
この質問への答えとして、クライアントからは滅多に返ってこないけれど、私がとても重要だと思う「変数」があります。
それは、「顔つき」です。
多くの人を動かすリーダーが「顔つき」に注意を向けることは、決して無駄な事ではないはずです。
もって生まれた「顔」は変えられませんが、「顔つき」はコントロールできます。
「顔つき」はなぜ大事なのか?
「顔つき」が相手や周囲に与える影響については、心理学者アルバート・メラビアンの「メラビアンの法則」をはじめ、今も様々な研究が進んでいます。
プリンストン大学の心理学者アレクサンダー・トドロフ博士によると、人は0.03~0.04秒という極めて短い時間の間に、相手の顔に「第一印象」を抱くそうです。
それは、11か月の赤ちゃんでも同様の傾向があり、「信用できない顔」よりも「信用できる顔」の方へと這っていく傾向があることが分かりました。(※1)
トドロフ博士はこんな実験もしています。
2000年、2002年、2004年に行われた、米上下両院の選挙候補者2人の写真を被験者に見せ、顔写真のみで「どちらが有能な政治家か」を判断させました。所属政党や政策、人となりなどの情報は一切提供せずに行いました。
その後、被験者が「有能」と判断した結果と、実際の選挙の投票結果を比較したところ、2000年は73.3%、2002年は72.7%、2004年は68.8%の結果が一致していたそうです。(※2)
「人は、外見から即座に印象をもち、その印象を受け入れ、それに基づいて行動する」という真理があるということです。
数か月前には、馬が人の表情と声を関連付けて感情を読み取れることが解明されたというニュースが話題になりました。動物ですら人の顔つきから多くを読み取るわけですから、人はなおさら、無意識にも人の顔つきや表情に影響されていると言えます。
リーダーの「顔つき」が周囲に与える影響とは?
企業組織の中でも、リーダーの顔つきは、部下や周囲の行動に少なからず影響を与えます。
ところが、初めから自分の「顔つき」について、「いついつまでに、こういう『顔つき』になろう!」と目標設定するエグゼクティブは、そう多くはありません。
自分の「顔つき」が業績に影響を与えているとは、よもや思っていないでしょうから。
また、顔つきについてフィードバックをするのは、心理的な抵抗が大きいものです。社長や役員はもちろん、身近な上司や先輩にさえも、よほどの勇気がなければフィードバックできるものではありません。
その結果、リーダーたちは自分の顔つきに対して無頓着になりやすい。
そんな中、私のクライアントのAさんは、自分の顔つきを変えることを目標の一つに設定しました。
数千人を率いる社長となって数年が経つAさんは、より高い業績、より一体感のある会社づくりを目指して前進しています。しかし、経営会議や社員とのコミュニケーションで、建設的な議論や活き活きとした対話ができていないという感覚を持っていました。
そこで、Aさんのコミュニケーションから受ける影響について日常的に関わっている部下たちにアンケートを取りました。
すると、想定以上に「顔つき」に関するフィードバックが多く出てきました。
- 話している間に目が合わないので、少し不安になる
- 会議中は資料を見て難しい顔をしているので、意見を出しづらい
ところが、こうした回答に対してAさんは、
「確かに、私は表情豊かではないかもしれないけど、話しづらいと言われるほどではないと思うんですがね」
と、結果を素直に受け止めることができませんでした。
部下と話している時や経営会議でのAさんの顔つきは、コーチの私にはわかりません。コーチングセッションの時と経営会議の時の顔とは違うでしょう。
コーチとしてクライアントさんの経営会議をオブザーブすることはありますが、"コーチがいる"経営会議の時と"コーチがいない"経営会議の時では、見られているという意識が多少なりとも働きますから、違っていて当然です。
そこで、会議中の表情や態度を撮影し、客観的に振り返る調査ツール 「プレゼンスアウエアネス」(※3)で、経営会議中や、部下と話している時のリアルな様子を写真に収めることにしました。
自分の顔つきを写真で見たAさんは、アンケート結果の時とは打って変わって、
「これはひどい!! 驚きました。この顔つきでは、話しかけたいと思わないですね」
「30年間この顔と打ち合わせをしてくれた先輩後輩に謝りたい(笑)」
と、ショックを受けつつも、自分の顔つきを変えよう、と覚悟が決まったのでした。
顔つきをコントロールする方法とは?
Aさんはまず、意識すればすぐにできそうな「相手の方を向く」「相手の目を見る」「口角を上げる」ことから取り組みました。
顔つきは、他者からフィードバックを受けない限り、確認することができません。部下たちから言ってくるのが難しいとすれば、こちらから積極的に聞いてみるしかありません。
そこでAさんは、「今日の顔つきや話し方はどうだったか?」と、秘書や部下に頻繁に尋ねることにしました。確認して、ギャップを修正して、また試して、フィードバックを受ける。
普段仕事でしているように、顔つきに対してもPDCAを回しました。
最近のAさんは、私から見ても笑顔が多く、そのせいか声も明るく感じられます。
また、役員の方にインタビューすると、1年前と比べて経営会議の雰囲気が明らかに変わり、発言数が増え、建設的な議論が交わされるようになったということでした。
先日のセッションでAさんは、
「これまで30年挨拶をされたことがない近所のご婦人から、初めて"おはようございます"と声をかけられたんです。いやー嬉しかった。私も変われたんだ、と実感しました」
と、とても嬉しそうに教えてくださいました。
顔つきは、組織のリーダーにとってあなどれない責任の一つです。それは変えようとすれば変えられます。
あなたの、その顔つきは、組織のパフォーマンスを高めていますか?
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参考資料
※1 Theodore Kinni,2017, Why First Impressions Are Often Wrong ,September 2017,strategy+business
Copyright 2015 PwC
※2 川園 樹、『未来を変える「外見戦略」』 、KADOKAWA、2018年
※3 Presence Awareness
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