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終焉の問い

終焉の問い
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人生の転機を乗り越えられなかった人には、何が欠けていたのか。

米国の臨床心理学者ウィリアム・ブリッジズ氏は、膨大なインタビューに基づき、それは、「終わらせることができなかったということに尽きる」と結論づけています。

そして、転機を乗り切るステップについて

「終焉」 今まで続いていた何かが終わる時期
「中立圏」 混乱・苦悩・呆然自失が起こる時期
「開始」 何かが始まる次期

というプロセスで説明しています。

このコンセプトを、転機にある組織に当てはめて考えるとどうなるでしょうか?

なぜ、人は「終わらせる」ことができないのか?

ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』の著者で組織開発のコンサルタント山口周氏は、『武器になる哲学』の中で、組織変革が失敗する理由について前述のブリッジズの言葉で説明しています。

「一体何が終わったのか、何を終わらせるのかという『終焉の問い』にしっかりと向き合わないのです。ここに多くの組織変革が中途半端に挫折してしまう理由があると、私は考えています」

山口氏は「時代」にも言及し、平成を「昭和を終わらせられなかった時代」と考察しています。

組織は人の集合体であり、個々の意識の集積がその方向性を決めていきます。組織が新しい扉を開くことができないのは、一人ひとりが「これまで」を終わらせることができていない、ということなのでしょう。

ではなぜ、人はそう簡単に「終わらせる」ことができないのでしょう?

先日、マネックス証券チーフストラテジストの広木隆氏を会社にお呼びし、投資における人間心理について講演していただきました。その中に、この問いに対するヒントを見つけることができました。

広木氏は、行動経済学の考えを基に、利益と損失に対する人間の心理的捉え方が「非対称」であることを紹介くださいました。

利益の100万円と損失の100万円では、経済価値は同じであっても、精神に与える重みが異なるらしいのです。100万儲けて「嬉しい!」と思う気持ちを100とすれば、100万損して「悲しい!」と思う気持ちは、マイナス200にも300にもなる。だから、投資家は簡単に「損切り」することができない。そして、少しの利益を確保しようとし、結果としてリターンを増やすことができない、と。

聞きながら、組織の中でこれまでやってきたことを「終焉させる」ことは、損を確定させるのと同じように、予想以上の心理負担を引き起こすのかもしれない、と感じました。

つまり、積み上げてきたものをゼロにするのは、自分が費やした時間や労力の意味を無にするような感覚を覚え、たとえ未来に向けて意味あるものだとしても、かなりの心理的負担を伴う、ということです。

もちろん、どんな組織にも、終焉させることが得意な人がいます。

「終焉させる」ための一歩とは?

社会学者のエベレット・M・ロジャーズ氏が提唱する「イノベーター理論」は、組織開発にも当てはめて使うことができます。

「イノベーター理論」によれば、新商品や新サービスは、まずイノベーター(革新者、全体の2.5%)が使い、続いてアーリーアダプター(初期採用者、13.5%)に広まっていきます。この後、34%を占めるアーリーマジョリティ(前期追随者)に浸透するかどうかがその商品、サービスの成否を決めます。

これと同じことが組織開発についても言えます。

どんな組織にも、イノベーターやアーリーアダプターはいて、「古いことは早く終わらせて次に向かって行こう」という人が、16%ぐらいはいるわけです。一方、どんなにスマホが普及しても、頑としてガラケーを使い続ける人がいるように、組織の中にも「何が何でも変わらない」と決めている「ラガード(遅滞者、15%)」がいます。

そこで、偏差の中央に位置するアーリーマジョリティーリティー層にいかに「終焉」を説くことができるかが、「組織の新たな扉」を開くときの要諦なのだと思います。

20年にわたって組織開発に従事してきた経験から、この層に終焉を説くには、「儀式」を執り行うことが、必要だと考えています。

カナダのある大手企業は、新しい事業領域に踏み出す際に、これまでの商品を製造していた古い工場にダイナマイトを仕掛け爆破しました。社員は一人ひとりが全員、「これを機会に何を終わらせるのか」をカードに書き、「棺桶」に入れ、爆破前の工場にセットしておきました。

終焉の儀式は牧師を呼んで執り行われました。そして、映像はライブで全ての支社に配信されたのです。

私のクライアントである金融会社のトップは、定例ミーティングを全て止めました。

彼の時間の60%を占めていた定例ミーティングでした。しかし、その時間は報告の場に過ぎず、何も新しいことを生んでいないと気づき、彼はある日、全ての部門長に「告知」しました。

定例ミーティングを全て止め、代わりに各部門長と1オン1をスタートさせる、と。未来の企業価値向上に向けての対話をそこで行う、と。

トップのディシジョンは、驚きを持って社員に迎えられ、60%を0%にするというドラスティックな変更は、「儀式的なマーク」となりました。

また、年間売り上げ1兆円を誇る小売業のトップは、社員を前に突然宣言しました。

「うちの会社は、今日を限りに小売業というアイデンティティを捨て、IT企業になる」

IT部門はまだ5人にも満たないのに、いきなり宣言した。「これまで」の終焉を宣言したのです。もちろん、社員はひっくり返るほど驚きました。しかし、その明快なトップ宣言の前に、少なくともこれまで通りではいられないということを、多くの社員が認識しました。

トップの宣言は、まさに一つの儀式としての役割を果たしました。

終焉させる。
そのために、何らかの儀式を行う。

そして、できればその後に、山口氏が言う「何が終わったのか、何を終わらせるのかという『終焉の問い』」に、上司と部下、あるいは同僚同士で向かい合い、対話する。

  • 我々は何を終わらせるのか?
  • いつまでに終わらせるのか?
  • どのように終わらせるのか?
  • なぜそれを終わらせなければならないのか?
  • それによって何を失い、何を手にするのか?

正解を出す必要などありません。

ただ、問いを2人の間に置き、たくさん話してみる。
それは、終焉に向けた「心の構え」をつくることに必ずつながりますから。

もし多くの組織で「終焉の対話」が実践されれば、きっと「平成の次は、大きく新しい扉が開いた時代だった」と、後世の人に言われるでしょう。

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