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新しい環境で起こる「適応」のジレンマとは?

新しい環境で起こる「適応」のジレンマとは?
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海外に駐在するリーダーや外資系の日本法人トップのコーチングをしていると、「現地の異文化環境にいかに早く"適応"するか?」がひとつのコーチングテーマになります。

グローバル化が進むなか、変革の担い手として、影響力のあるリーダーたちが「異文化環境」に飛び込む機会が確実に増えています。

その中で、ある人はあっという間にチームの中心になり、一方で、ある人はなかなか本来の力が発揮されない、ということが起こります。

この違いは、なぜ生まれるのでしょうか。

複数存在する「適応」の意味

リーダーが異文化に「適応」することの目的は、当然ながら「新たな環境に慣れる」ということだけではありません。自分が「適応」した結果、組織により大きな成果を生み出すことにあります。

しかしどうやら、「適応する」という言葉への意味づけが、人それぞれ異なっているように思われます。

時に、このようなことが起こります。

リーダー本人は現地に「適応した」と認識しているが、実際には現地スタッフと「同化」してしまっている。

これは、自分がもともと持っていた本社の意図よりも、現地スタッフとの関係性を優先し続けた場合に起こるものです。

結果的に、現地スタッフとのちょっとした衝突をも避けるようになったり、彼らの言うとおりに物事を進めたりするようになることが起こります。

このような「適応」の延長では、リーダーが「本来目指すべき成果」にはたどり着けません。

そこで改めて、異文化に飛び込むビジネスリーダーに必要な「真の適応」とは何か、を考えてみたいと思います。

「適応」の4つのスタンス

『異文化コミュニケーション論』では、2つのシンプルな質問に答えることで、異文化環境における自分の適応状態を知ることができると紹介されています。(※1、※2)

みなさんも、ご自身を振り返りながら、次の2つの質問にYESかNOで答えてみてください。

Q1 あなたは今、自文化のアイデンティティや特徴を維持することを大切にしていますか?

Q2 あなたは今、赴任先社会の人々との関係性を維持することを大切にしていますか?

Q1、Q2いずれかを選ぶのではなく、それぞれの設問に「YES」か「NO」で答えることがポイントです。

いかがでしょうか。この2つの質問への回答は、自分自身の適応状態を理解するヒントになります。

*『異文化コミュニケーション論』p.222を参考に作成

① 周辺化(Marginalization)
Q1,Q2共に「No」という場合は、自国と赴任先国いずれの文化にも一体感をもてない状態にある、所属している実感を得られない、孤立した状態かもしれません。

② 分離(Separation)
Q1が「Yes」、Q2が「No」と答えた場合、自国文化のアイデンティティのみを維持することにこだわっている状態です。「日本のほうが優れている」といった発言が見られたり、現地スタッフに自分のやり方を強要したり、ということにつながります。

③ 同化(Assimilation)
Q1は「No」、Q2は「Yes」の場合、赴任国の文化を優先し、日本人らしさやもともと持っていた自分らしさを否定しようとする姿勢です。日本人の特徴や日本本社のやり方を批判したりすることで、周囲とのバランスを取ろうとする傾向が見られます。

④ 統合(Integration)
Q1,Q2共に「Yes」と答えられた場合は「統合」の姿勢であると言えます。

これは、両国の文化の良さを活かしていこう、現地でも自国のアイデンティティを保つバランスを見つけていこう、とするスタンスです。

4つのどのスタンスを選んでいるかは、リーダーとしてのパフォーマンスに大きく影響していると言えそうです。

では、リーダーにとって「真の適応」とはいずれのカテゴリーにあたるでしょうか。

リーダーにとって、真の意味での「適応」とは?

異文化環境に身を置いたリーダーが目指すものは様々ですが、一つだけ共通のものがあります。

それは、異なる文化を持つ人たちが共に働くことで、「今までになかった新しさが生み出されること」を目指している、ということです。

駐在員リーダーと現地スタッフが、互いの色を出し混ざり合うことで、片方の色だけでは実現できなかった「今までにない新しい色」を生み出す。

相互が関わり合い、互いの「違い」をすり合わせる過程で、働き方、製品サービス、工程、問題解決方法などのあらゆる分野に「新しさ」が見いだされることを目指しているのではないでしょうか。

つまり、リーダーが目指す「真の適応」とは、「統合する(Integration)」ということなのでしょう。

「どちらか一方が、どちらか一方のやり方に合わせて、変わらなければならない」のではありません。「互いに刺激を与え、共に新たなカルチャーを築く」というスタンスです。

ところが、異文化環境に飛び込んだリーダー、とくに「変革」の旗を手渡されたリーダーの多くは、「適応」に向かうプロセスでジレンマを抱えることになります。

それは、「新しい環境に自分が変化をもたらしたい」という思いと、「自分が新しい環境を受け入れなければならない」という思いの間での揺らぎです。そして、「②分離」と「③同化」のどちらかで揺れ動き、悩む人が多いようです。

この周辺に居続ける間は、 「彼らが変わるべきだ」と「私が変わるべきだ」 のどちらかの問いがぐるぐると回り続けます。

「彼らが変わるべきだ」という問い 「私が変わるべきだ」 という問い
  • なぜこの職場は、こんなにも非効率なのだろうか?
  • なぜ彼らはお互いに本音を言い合わないのだろうか?
  • なぜ、彼らは結果へこだわりがこんなにも弱いのだろうか?
  • 自分のやり方が通用しないのはなぜだろうか?
  • 何度言ってもこちらの真意が伝わらないのはなぜだろう?
  • どうしたら彼らに受け入れられるだろう?

しかし、これらの問いの中に留まっていては、「統合」にむけた適応状態に向かうことは難しいでしょう。

では、「あなたが変わる」「私が変わる」のどちらでもない第三の選択肢とは、どのようなものなのでしょうか?

「統合」にむけた共通の問いとは?

それは、お互いの文化を「統合」したその先にある未知の可能性に、共に目を向けるということです。

そのためにリーダーは、「何を変えるのか?」と同時に、お互いの文化の何を活かすのか、つまりは「何を変えないのか?」をも問いかける必要があります。

「何を変えないのか?」という問い

  • この職場の強みの源泉は何か?
  • 自分自身がこの職場から学ぶことは何か?
  • この職場で最も大事にされて、成果に活かされてきた価値観は何か?
  • 自分自身が譲れないことは何か?
  • 自分がこの職場にもっとも持ち込みたいものは何か?

この先には、「どのような新たな文化を築くのか?」という共通の問いが、生まれてくることになります。

相互に、異文化を「統合していく」スタンスを選ぶことができたとき、ダイバーシティ組織としての本当の強みが発揮されるのではないでしょうか。

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参考文献
※1『The Psychology of Culture Shock』Ward, Bochner, & Furnham, 2001, p.102
※2『異文化コミュニケーション論 グローバル・マインドとローカル・アフェクト』(松柏社)
八島智子、久保田真弓

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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