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右脳に住む、もう一人の自分

右脳に住む、もう一人の自分
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「あなたは、なぜ、コーチになったのか?」

つい最近、そう問われることがありました。

正直、即答できてもいいような問いです。なにせ16年間も勤めていた会社を辞めて、全く経験のないコーチになることを選んだのです。

自分には明確な理由があり、それをはっきりと言葉にできると思いました。

ところが、答えようとすると明確な言葉が出てきません。

それでも考え続けると、自分の口から「それらしい物語」が語られ始めました。さらに話せば話すほど、きっとそうだったに違いないと、妙に自分が自分の話に納得し始める始末です。

でも、本当にそうだったのだろうか?

そう自分に問い直してみると、なんとなく確信の持てない自分がいました。

なぜ、自分の答えに確信をもてないのか?

皆さんにもそういう経験はないでしょうか。

「なぜあなたはそうしたのか?」

人に問われると、自分では当然と思っていたようなことについて、なぜか腹の底から納得いく言葉が出てこないようなことです。

果たして私たちは、自分のことをどこまで知っているのでしょうか。

* * *

神経解剖学者のジル・ボルト・テイラー博士は、脳卒中で左脳の機能を大きく損傷し、8年ものリハビリ期間を経て回復させた経験があります。

著書『奇跡の脳』では、その体験と専門である脳科学の研究から左脳と右脳の違いについて説明しており、私なりにまとめると次のようになります。

左脳は、

  • "過去"と"未来"がすべて
  • 過去に学んだことに基づき判断を下す
  • 「正しい、間違い」、「良い、悪い」で判断する
  • 理性的に考え、細部にこだわり、言葉を利用する

右脳は、

  • "現在"がすべて
  • 映像で考え、自分の体の動きから運動感覚で学ぶ
  • 物事のありのままを受け取り、「正しい、間違い」「良い、悪い」で判断しない
  • イメージを思い描いて、全体像を認知する

このように、私たちの左右の脳にはそれぞれユニークな特徴があります。

それぞれが異なる方法で世界を認識し、異なる方法で情報を処理します。そのため、それぞれに違う世界観や価値観を持っていることになります。

つまり、私たちの頭蓋骨の中には、「ふたりの異なる人格」が住んでいるようなものなのです。

支配する左脳、創造的な右脳

私たちが普段、特に仕事をしている時には、どちらの脳が優位になっているでしょうか。

理性的に考え、過去に学んだことから「正しい、間違い」を判断していることが多いのではないでしょうか。

つまり主導権は左脳が握っているのです。

作家ウイリアム・コリンズは『右脳の冒険』で、この状況を以下の様な言葉で表現しています。

私たちは左脳の中に生きている。
窒息しそうな牢獄の中。
世界は左脳が把握するより本当は豊かで意味深い。

ビジネスの世界では最近、「直観力を鍛えよ」とか「美意識を鍛えよ」など、右脳の機能にまつわる話をよく耳にするようになってきました。

左脳の支配下にある右脳は、実際にはどの様な可能性を秘めているのでしょうか。

テイラー博士は、左脳機能が停止した時に、右脳に以下のような性質を発見したと言います。

  • 人に共感したり、他人の身になって考えてみたり、感情移入することができる
  • 新しい可能性を受け入れ、枠にとらわれず自由に考え、創造的である
  • 自分と他者の境界を認知せず、あらゆることが相対的なつながりの中にあることを理解している
  • 感謝の気持ちで溢れており、満ち足りていて、慈しみ深い上、いつまでも楽天的

私たちの頭の中には、一つのことに対して全く異なるとらえ方をして、異なる選択肢を提示できる能力が備わっているのです。

右脳にアクセスする方法

では、どうやって私達は左脳の支配を超えて、右脳の主張にアクセスできるのでしょうか?

以前私は、自分の部下の育成をテーマにコーチをつけていました。コーチから、「あなたはなぜ、部下を育成したいの?」そう聞かれました。

私の口から出てきた答えは「ありきたりなもの」で、とうていそれが理由で自分が動かされているとは思えない内容でした。私が腑に落ちていないことを感じ取り、コーチは次にこう聞きました。

「あなたは今、あなたの体の中で何を感じているの?」

答えようとしましたが正直自分が何を感じているのか、わかりませんでした。間を置き、次にコーチはこう言いました。

「今から1分間時間を取るから、目を閉じてあなたの体が今何を感じているか教えてください」

目を閉じて30秒くらいすると、ベルトのあたりがきついと感じていることが分かり始めました。そしてもうしばらくすると、足の裏の感覚を感じるようになりました。胸のあたりがざわついていることも感じるようになりました。

そのことを伝えると、

「あなたが今育成したいと思う部下のことを思い浮かべてください、あなたは何を感じますか?」

言われるがままその部下の顔を思い浮かべ、何を感じるのか、しばらく黙って待っていました。

「力になりたい」
「活き活きした姿を見ていたい」
「つながりを感じて仕事をしていたい」
「感謝している」

その部下に対する想いがはっきりと湧いてきました。自分でも驚きました。自分がその部下に対してそんな風に思っていたのかという発見でもありました。

そして、改めてなぜ育成をしたいのかを問われた時、私は最初に答えた論理的な回答とは全く違った、その部下への想い、自分が心動かされる気持ちなどが言語化されました。

自分でも腑に落ちる、感情が乗った、とても力の湧いてくる理由でもありました。

今思えば、それは私の右脳にアクセスし、それを左脳で言語化した瞬間だったのです。

一旦立ち止まり、考えるのではなく何を感じているかに集中する。
そして、感じていることを言語化する。
そして再度、「なぜ?」を考える。

そういうプロセスを経た経験でした。

あなたはなぜ、それをするのか?

皆さんの答えは、右脳の主張にアクセスできていますか?

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【参考資料】
・ジル・ボルト テイラー(著)、竹内 薫(翻訳)、『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』、新潮社、2012年
・コリン・ウィルソン(著)、中村 保男(翻訳)、『右脳の冒険―内宇宙への道』、平河出版社、1984年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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