Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「ありがとう」で新年を
2018年12月19日
街は華やかなイルミネーションでクリスマス一色ですが、お仕事の調子はいかがでしょうか?
年間目標が達成できるかどうかのヒヤヒヤ、大先輩が職場を去る寂しさ、新たな役割への期待と不安...さまざまな気持ちが交錯する時期なのではないでしょうか。
年の瀬だからこそ、リーダーとしてメンバーに伝えられることは何でしょうか?
若かりし頃、この時期に上司から言われたあの一言、あの場面、ご記憶にないでしょうか?
- チーム目標を達成した歓喜の中、自分が頑張ったことを見ていて、そっと伝えてくれた上司
- 他のメンバーの活躍ぶりは笑顔で話していたけど、自分には「まぁ、お前も頑張ったな」と、冷めた雰囲気だった上司
- いつも険しい顔なのに、歓送会で去り行くメンバーへ寂しさを滲ませ、思い出を語った上司
- 業績推移や施策を誇らしげに話すものの、メンバーへのメッセージが一切ない上司
- 毎年同じセリフで労い、納会を締める上司
この時期に何を伝えるかで、上司やリーダーの真価が問われると言っても過言ではないのかもしれません。
では、その違いは何なのか?
それは、「リーダーからの感謝」にあるのではないでしょうか。
人を幸せにする4つの因子とは
先日、今年一年にわたって組織改革に全力を注がれた社長さんとのコーチングがありました。一年を締め、来年にむけて従業員のモチベーションを繋ぐために、メンバーの幸福感を刺激したい、というお話になりました。
幸福学研究の第一人者、慶応義塾大学教授 前野隆司氏によれば、人の幸福は4つの因子で決まるそうです。(※1)
1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
自分のやりたいことをとことんやれているか、自分の成長が実感できているか
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
社会や周囲の人へ貢献ができているか、周囲に感謝を伝えられる相手がいるか
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
前向きな物事の捉え方ができるか、失敗や不安から短期に立ち直れるか
4.「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
勝ち負け最優先でなく、ありのままの自分でいるか
個人でこれらの因子を意識して行動するだけでなく、組織としても、これらを反映した制度や仕組みを入れると、社員全体の幸福感が高まるそうです。
また、「ハーバード・ビジネス・レビュー」にも、幸福感とパフォーマンスには深い関係があり、幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍、生産性が1.3倍高くなる、という記事がありました。(※2)
幸福感があると心の病になりにくく、欠勤率や離職率が低くなり、働き方改革にも通じるところがあるように思います。
「リーダーの感謝」は、この4つの因子の2番目、「ありがとう」因子に相当します。
感謝のレパートリー
経営者のリーダーシップに関するアンケートやインタビューでは、
- リーダーは仕事を任せてはくれるが、自分の仕事ぶりがリーダーの期待に応えられているかどうかはわからない
- 仕事ができるリーダーだが、感謝されることがない
- 業績は上がっているが、自分は使われているだけだ
といった声が部下から寄せられることが多くあります。
業績やプロジェクト、タスクといった「モノコト」を大事にしてきたリーダーほど、ご自身がどう思い、感じているかなどの「感情」を話さない。そして、「モノコト」を評価する表現が多くなる。そんな傾向を感じます。
あなたは日ごろ、リーダーとして
- メンバーのどんな成長に嬉しさを感じますか?
- 業績を上げるために、メンバーのどんな行動や姿勢を評価、承認していますか?
- メンバーにどんな場面で感謝を伝えていますか?
- メンバーにどんな言葉で労っていますか?
- 幸福の4要素の中では、どの要素にもっとも働きかけていると言えますか?
これらの質問への答えは、きっとあなたの大事な表現のレパートリーなのだと思います。
今は年末、クリスマス。
メンバーに、いつもとは内容、手段、伝え方を変えて、感謝を伝えてみるのはいかがでしょうか?
- 先の質問への答えにどこか変化をつけるとしたら何ができますか?
- あなたは使っていないが、他のリーダーたちが使っている感謝の言葉は?
- いつもと違うタイミングで感謝を伝えるとしたら、いつがベストでしょうか?
- あなたが見つけきれていないメンバーの貢献を、どうやって見つけますか?
いつもと変えて感謝する、その新たなレパートリーの発掘に悩んだら、周囲のメンバーを巻き込んでみてください。
職場やプロジェクトのメンバーみんなで、一人ひとりのメンバーについて、感謝、期待、貢献の想いを馳せる。すると、メンバーの沢山の活躍ぶりが見えてきます。
「お客様の問い合わせに、こんな気配りをしている」
「リーダーが帰った後に、こんな努力をしている」
メンバー同士が見ていることに新たな発見があったり、リーダーである自分にしか見えていなかったことを伝えることで、メンバーが嬉しく思うこともあると思います。
メンバーが「リーダーの感謝」を聞いて自身の成長を感じ、これからの期待や成果をイメージすることができるなら、2019年、きっとパフォーマンスとして跳ね返ってくるのではないでしょうか?
最後に、もう一つ、感謝のレパートリーをお伝えします。
Love Actually ...
というクリスマス映画があります。クリスマス5カ月前から9組のカップルの行く末を追ったラブコメディーで、エピローグはクリスマスの1カ月後に迎えます。
映画に出てくる夫婦やカップルはみな個性的です。それぞれがそれぞれの葛藤を経ながら、紙芝居でそれぞれの方法で想いを伝えていきます。
家族や友人たちと映画をみれば、想いを伝えるレパートリーを増やすことができるでしょう。
ちなみにLove Actually...の意味は、冒頭シーンのメッセージに答えがあります。
Love Actually is all around
見渡すせば、愛はどこにでもある、といったところでしょうか。
感謝を伝えるメッセージの題材も、どこにでもある。
あなたはこの節目を迎えるこの時期に、誰に何を伝えますか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考文献】
・前野隆司、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』 、講談社現代新書、2013年
・「個人、組織、社会に広がる幸福経営学」
EIシリーズ創刊記念イベント「働く私たちの幸福学」講演録[後編]
(ハーバード・ビジネス・レビュー)
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。