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リーダーが知るべき、2つの共感力

リーダーが知るべき、2つの共感力
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脳科学者の中野信子氏が『共感力』に寄せた序文「なぜ共感力が必要とされるのか」は、こんな書き出しで始まります。

「知能よりも共感力が重要である、と考えている人は、おそらく、その逆だと考えている人よりずっと多いだろうと思います」(※1)

共感する力は、コミュニケーションを通して周囲と関係性を築く上で、誰もが必要とする能力でしょう。

さらに「リーダー」となると、その共感力は、社員のエンゲージメントや良いチームワークに直結し、最終的には業績にも影響を与えます。

ですから、コーチングでは、会社のビジョンにどのように共感してもらえるか、部下との共感を生み出すには何をすれば良いのかなど、「共感」がテーマになることが少なくありません。

二種類の共感

「共感」という言葉は多義的で、専門家によってその分類の仕方は意見が分かれるようですが、認知神経科学を専門とする金井良太氏は、著書『脳に刻まれたモラルの起源』で、共感には「感情的側面」と「認知的側面」がある、としています。(※2)

「感情的側面」とは、他者の感じていることを自分の感覚として感じること。例えば、事故の映像を見て、自分の痛みとして感じたり、幸せそうな家族の写真をみて微笑ましい気持ちになったりする状態です。

一方、「認知的側面」とは、相手の立場から見える状況を推測して分析すること。相手の視点や立場を理解することで、その人に「感情移入」するわけではありません。

こうした共感力の2つの側面を測るテストとして、対人性反応性指標(interpersonal reactivity index,IRI)というものが広く用いられているそうです。質問項目からは、それぞれの特徴をさらに知ることができます。

まず、「感情的共感」に分類される質問には、

「自分より不幸な境遇にいる人を見ると、心配で優しくしてあげたい気持ちになる」
「自分が目撃した出来事に感動することがよくある」

など「他者の感情をくみとる力」を評価する質問が組まれています。

一方「認知的共感」には、「他者の視点を理解する力」を評価する質問が組まれています。

「誰かに対して怒っているときは、その人の視点で考えてみたらどう思うかを、いつも考えるようにしている」
「どのような問題にも2つの側面があると思うから、その両面ともに目を向けようと努力している」

といった項目になります。

では、リーダーに必要な「共感力」とはいったいどのようなものなのでしょうか?

優れたリーダーの「共感力」の使い方

キプロス ニコシア大学の准教授Theano V. Kalavanaは、優れたリーダーは、感情の共感と認知の共感の2つの違いを理解し、それぞれが持つ威力をいかに利用するかを心得ている、といいます。そして、優秀なリーダーほど「感情」の共感よりも、「認知」の共感により重きを置くというのです。(※3)

リーダーシップにおける「共感」の重要性は、研究でも示されています。しかし、「問題解決をする、決断を下す」といった場面でリーダーシップの発揮能力を失わせる「共感」のあり方は、むしろ危険だということです。

なぜなら、リーダーは、あるときは「客観性」が求められ、あるときは、あえて皆から不評な行動を起こすことも求められるからです。

例えば、毎日顔を合わせる人たちの問題にも、ある程度「感情の距離」を置くことができないと、自ら心身疲労を受けるといった副作用をもたらすこともあります。

また、仕事に行き詰まっている部下の中には「大変なんだ、苦しいんだ」と、自分の感情に共感してほしいと思う人はもちろんいるでしょう。

一方で、少しでも前に進みたいと、同情よりも「なぜ困っているのか。何が起きているのか」と状態や状況を聞いてもらいたい部下も多いのではないでしょうか。

そのような部下には、「どうなるのが理想なのか? 〇〇さん自身はどうしたいのか?」など、感情に距離を置いて会話を続けることで、本質的な解決策や本人の成長テーマがより早く明確になる可能性も出てきます。

ダニエル・ゴールマンは、『EQリーダーシップ』の中でこのように記述しています。

「共感は『ぼくもOK、きみもOK』などという甘ったるい関係を意味するものではない。集団の感情に追従したり全員に気に入られようとするのがリーダーの役割ではない。それでは悪夢だ。身動きひとつできなくなってしまう。そうではなくて、共感とは従業員の気持ちを良く考慮したうえで聡明な決断を下すことなのだ」(※4)

リーダーの共感力は、周囲の人々のパフォーマンスに影響を及ぼします。

リーダーとして部下の苦しみや喜び、そうした感情に共感することは、必須だと思います。

しかし、ときには感情よりも認知の共感に目を向けることで、部下は気になっていることに気づいてもらえた、認められたと感じ安心感を得て、次の一歩に踏み出せるのではないでしょうか。

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【参考文献】
※1 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(著)、『共感力』、ダイヤモンド社、2018年
※2 金井良太(著)、『脳に刻まれたモラルの起源』、岩波書店、2013年
※3 Finding the Right Level of Empathy March 15, 2018
Theano V. Kalavana and Philios Andreou
Chief Learning Officer
© 2018 Chief Learning Officer – CLO Media.
https://www.clomedia.com/2018/03/15/finding-right-level-empathy/

※4 ダニエル・ゴールドマン他(著)、土屋京子 (翻訳)、『EQリーダーシップ』、日本経済新聞出版社、2002年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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