Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


1on1面談を成功させる「進捗のループ」とは?

1on1面談を成功させる「進捗のループ」とは?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

社員のエンゲージメントは業績に影響する

みなさんの企業では、エンゲージメントサーベイは実施されていますか?

エンゲージメントとは、所属する組織に対する愛着や、仕事に対する意欲のことを言います。社員のエンゲージメントの状態を、主にアンケート形式で測定する調査がエンゲージメントサーベイと呼ばれるものです。

エンゲージメントサーベイの結果を会社全体で目指す目標の1つとして取り入れる企業を多く見かけるようになりました。

エンゲージメントサーベイを経営者が重視するようになったのには、エンゲージメントが高い社員は、仕事に対する意欲が高いだけでなく、創造性や生産性も高く、そのことが組織の売上や利益を高めているということが科学的に証明されつつあるという背景があります。(※1)

一方、大手調査会社ギャラップ社の世界調査(※2)では、「自分の仕事に対するエンゲージメントが高い人」の割合は、世界平均で13%程度、東アジアでは6%程度でした。世界中の多くの企業で「社員のエンゲージメントが低い」のが現状なのです。 

「他社のエンゲージメントが低い今こそチャンスだ」と考えることもできるでしょう。

競合に先んじて自社の社員のエンゲージメントを高めることに成功すれば、人材獲得面でも有利になるからです。実際、急拡大を狙う革新的な企業のほうがエンゲージメントを重視する傾向にあると感じます。

「1on1面談」はエンゲージメントサーベイのスコアを上げる

ところで、最近「1on1面談」を導入する企業が増えてきました。

「1on1面談」とは、「1on1」や「1on1ミーティング」などとも呼ばれる、上司と部下が1対1で話す仕組みです。

導入目的や方法は企業によって様々ですが、導入している企業では、部下ひとりにつき1回あたり15分~30分の面談が1か月に1~2回の頻度で実施されているようです。

ひと昔前なら、「部下と1対1で話すのは、年に1回の評価面談の時だけ」と聞いても驚きはしませんでした。その頃と比較すると、最近はかなり多くの時間を部下との面談に使うようになってきたと言えます。

このように、「1on1面談」を導入する企業が増えてきたことと、経営者がエンゲージメントサーベイを重視するようになってきたことの間には、密接な関係がある、と私は考えています。

なぜなら、「1on1面談」にはエンゲージメントサーベイの結果を全体的に引き上げる効果があると考えられるからです。

もう5年以上前のことになりますが、私たちの調査では、上司が部下との1対1のコミュニケーション「量」を増やせば、組織が活性化する傾向があることが分かりました。(※3)

その後、クライアント企業の組織開発をテーマとしたプロジェクトにおいて、上司が部下との定期的な1対1のコミュニケーションを増やした組織でエンゲージメントサーベイの結果が上昇する傾向があることを何度も目にしてきました。

しかし、1on1面談については、「仕組みは導入したのに、継続して行われない」という話もよく聞きます。

1on1面談が継続して行われなくなる原因は何でしょうか。

なぜ「1on1面談」は続かないのか?

ある事例をご紹介します。

A社は1on1面談を早くから導入している企業の1つです。
エンゲージメントサーベイの結果を経営における重要な指標にされています。
A社では、1on1面談が行われなくなった組織がいくつも出始めたことをきっかけに、アンケートを取ったり、人事の方々が職場を回って一人ひとりにインタビューをしたり、と原因分析のための調査を開始されました。

しばらくして、こんなことが分かりました。

1on1面談が続かない最も多くの理由は、「忙しいから」でも「上司と部下の関係が悪いから」でもなく、「1on1面談に価値を感じないから」でした。

特に、上司よりも部下に「価値を感じない」と答える人が多くいました。導入当初の数か月間は1on1面談を実施したものの、その価値を感じられずにしだいにやらなくなっていったのです。

部下が価値を感じる1on1面談とはどのようなものなのでしょうか。

この問いに対する答えのヒントは、1on1面談を1年以上継続して実施している組織の中にありました。これらの組織では「1on1面談をすると仕事が前に進む」と感じている人が多いことが明らかになったのです。

「進捗のループ」とは?

ハーバード・ビジネス・スクールのテレサ・M・アマビール教授らによるこんな研究結果があります。

アマビール教授らは、7つの会社に所属する合計238人に、毎日業務日誌を書いてもらいました。この人達が何によって意欲が上がったり下がったりするのかを調査するためです。日誌の数は合計1万2000近くになりました。(※4)

教授らが日誌を詳細に分析すると、このようなことが分かりました。

意欲が高まった日の76%には、何らかの「仕事の進捗」がありました。反対に、意欲が下がった日の67%には仕事の停止や後退がありました。

社員の意欲に最も大きな影響を与えているのは「仕事の進捗」だったのです。

さらに、「仕事の進捗」を感じる日が増えれば増えるほど、つまり「仕事の進捗」を感じる日の頻出頻度が高まれば高まるほど、その社員の創造性や生産性が高まっていく傾向があることも分かりました。

創造性や生産性が高まると、ますます仕事が進捗し、意欲が高まります。アマビール教授らはこの好循環を「進捗のループ」と呼びました。

先ほどご紹介したA社では、その後「1on1面談は、仕事が進んだと部下が感じる時間にしよう」と言われるようになりました。

実際に仕事が前に進むことと、仕事が進んでいると感じることは、少し違います。

「仕事が前に進んでいても、自分では進捗していると感じられない時がある。そんな時は、1on1面談で上司が"進んでいるね"と一言声をかけると、部下は仕事が進んでいると感じることができるのではないか」

「逆に、仕事が進んでいないのに、仕事が進んでいると感じてしまっている部下もいるだろう。そんな時は、こうしたほうがもっとうまく進むよ、とアイデアを出すのはどうか」

このような話し合いが、A社のあちこちで行われるようになりました。

先日、A社の社長がこんな話をされていました。

「進捗とは、目標に近づくということです。自分が目標達成に近づいていると感じるのは誰でも嬉しいものです。それに、実は上司だって、自分が部下の目標達成に貢献できていると感じられるのはとても嬉しいのです。1on1面談は、上司と部下の双方にとって嬉しい時間でないと続きません。上司のための時間でもない、部下のための時間でもない、ふたりにとって嬉しい時間にするということが、1on1面談を継続させるコツなのではないでしょうか。そう気づいてから、私も役員との1on1面談がちゃんと続くようになったのです」

1on1面談はエンゲージメントサーベイのスコアを上げるだけでなく、上司と部下が共に「進捗のループ」に入るための大切な入口になるのかも知れません。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※1
Business-unit-level relationship between employee satisfaction, employee engagement, and business outcomes: A meta-analysis.
By Harter, James K.,Schmidt, Frank L.,Hayes, Theodore L.
Journal of Applied Psychology, Vol 87(2), Apr 2002, 268-279
https://psycnet.apa.org/buy/2002-12397-006

THE JOB SATISFACTION-PRODUCTIVITY NEXUS:
A STUDY USING MATCHED SURVEY AND REGISTER DATA
PETRI BÖCKERMAN AND PEKKA ILMAKUNNAS
http://www.petribockerman.fi/bockerman&ilmakunnas_the_2012.pdf

※2
Worldwide, 13% of Employees Are Engaged at Work
Low workplace engagement offers opportunities to improve business outcomes
STEVE CRABTREE, OCTOBER 8, 2013
https://news.gallup.com/poll/165269/worldwide-employees-engaged-work.aspx

※3
「組織を活性化させる上司は、"部下のため"に時間をとる」
https://coach.co.jp/view/20130717.html

※4
「インナー・ワーク・ライフの分析が明かす 知識労働者のモチベーション心理学」
テレサ・M・アマビール  ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年3月号
「知識労働者の生産性を高める 進捗の法則」
テレサ M. アマビール ハーバード・ビジネス・レビュー 2012年2月号

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

目標設定/目標達成 育成/成長

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事