Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
組織づくりは「チームスポーツ」なのか?
コピーしました コピーに失敗しました「組織」については、様々な経営学者や社会学者がそれぞれに定義を与えています。
古典的理論で著名な米経営学者チェスター・A・バーナードが説明した組織成立の3つの条件は、下記です。
- 共通の目的があること
- 協働意思があること
- 意思疎通(コミュニケーション)があること
企業のCEOをコーチしている際に、理想の組織像をお聞きすると、
「ラグビーチームのように一人ひとりが自分の役割を果たして...」
「サッカーチームのように密にコミュニケーションして...」
など、チームスポーツで例える方も少なくありません。
確かに、ラグビーやサッカーなどのチームスポーツは先ほどの3つの条件が、勝利に向けた重要な要素となっているでしょう。
しかし、現実をみると、「共通の目的に向かって」「協働意思を持ち」「コミュニケーションをもっととってほしい」というCEOの願いとは裏腹に、高いレベルでそれらが適った組織に出会う機会は、そう多くはありません。
企業組織は、何に例えられるのか?
最近、水泳や体操、卓球など個人競技のトップアスリートたちの「団体戦で勝ちたい」「オールジャパンでメダルを取りたい」という発言を多く耳にします。
私は、こうした発言を耳にするうちに、企業組織を「団体競技」として捉えるのではなく、「個人競技の団体戦」と捉えてみることに、組織開発を前進させるヒントがあるのではないか? と考えるようになりました。
サッカーやラグビーのような団体競技は、「チームで勝利すること」が、メンバー全員のゆるぎない目標です。
目標の達成のためには、連携や協力は必要不可欠でありそれに異論を唱える人はまずいないでしょう。
一方、個人競技は「自分が勝利すること」が一人ひとりの目標です。競技を始める前から「団体戦(チーム)での勝利」を目標とする人は、そう多くはないでしょう。
そうなると、初めから「連携する」「協力する」という必然性はありません。他人とつながらなくても、自分の手にしたいことはできるのですから。
個人競技のチームワーク
毎回オリンピックで金メダルが期待され、有望な選手が途切れなく出てくる日本競泳チームは、オリンピックに向けてのチームビルディングが有名です。
過去最高の11個のメダルを獲得した、ロンドン五輪・競泳日本代表全選手たちによる書籍『つながる心』(※)には、選手と選手、選手とコーチが、「つながっている」状況を意図的に作るための様々な取り組みが紹介されています。
初めて出場したアテネ五輪では「一人で戦い期待された成果を残せなかった」チームキャプテンの松田丈志さんは、ロンドン五輪にむけた合宿の特長を「コミュニケーションの濃さ」だったと振り返ります。
目標意識の共有とオリンピック体験の共有のための選手ミーテイングやSNSでのたわいのないコミュニケーションなどでチーム内のコミュニケーションが濃くなり、個性あふれる選手同士のつながりが作られていったそうです。ミーティングでは、
「何を目指しているのか?」
「どういう練習をしてきたのか?」
「何が課題と思っているのか?」
「チームジャパンとして、何ができるのか?」
など、質問形式でお互いに聞きたいことを聞きたい選手に話してもらい共有していったそうです。
質問された側にとっては、
「自分はどうしてこの競技を選んだのか?」
「自分は何を目指しているのか?」
という、自らの目標を再確認してモチベーションを高める機会となり、質問する側にとっては、能力向上のヒントが手に入るとともに「協力したい」「こういう存在になりたい」という気持ちが生まれる機会となっていたことが想像できます。
企業組織にどのように応用できるか?
社員が目指していることや、社員がこの会社にいる目的は、当然一人ひとり違います。
理念やミッションに共感して入社したとしても、企業として掲げる目標を、全員が初めから目指しているとは言えません。
新入社員に限らず、自分自身が成功することに精一杯な社員もいるでしょう。
「社員一人ひとり、それぞれに異なる目標や目的を持っている」
という前提に立ち、
「それでも企業組織という団体戦に臨んでいるのはなぜか?」
「団体戦で勝つことの意味は何なのか?」
という問いに、一人ひとりが考え、共有することが、本当の意味での「共通の目的」につながるのではないでしょうか。
そして、それこそが主体的な連携や協力を作り出すきっかけになるのではないでしょうか。
松田キャプテンがコミュニケーションに情熱を注いだように、個人戦で戦っている社員同士をつなげていくことこそ、組織開発の第一歩かもしれません。
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【参考文献】
※ 27人のトビウオジャパン(松田 丈志、寺川 綾、北島 康介 他)著、『つながる心 ~つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた~』、集英社、2013年
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