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人類を進化させた「物語」、組織を進化させる「物語」

人類を進化させた「物語」、組織を進化させる「物語」
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3年間にわたり全社をあげて組織開発に取り組んできたお客様が、これからの10年を示す長期ビジョンを発表されました。

過去の延長線ではない挑戦的で新しい未来を自らの力で創造し歩んでいくことを宣言する、私にはとても革新的で意欲的なビジョンです。

つい最近、その長期ビジョン作成の中心的役割を担った経営幹部にお会いしてお話を伺う機会がありました。私がその長期ビジョンを聞いてワクワクしたと率直に伝えると、その経営幹部は腕組みをして私にこう言います。

「共有すべきことが、十分に共有できていない」

そして、社員もパートナーもそのビジョンにむけてまだ動き出せていない、と言うのです。

私は思わず、何がまだ十分に共有されていないのかをお聞きしました。

するとその方は何十年もの歴史を遡り、創業者が何を目指してこの会社を設立したのか、何を喜びとして成長し続けてきたのか、会社のDNAが何なのか、そしてそれらが長期ビジョンにどう繋がっているのか、その「物語」を熱く私に語り始めました。

人類を進化させた能力

会社や組織が未来に向かって成長し続けるためには、大勢の人が協力しあうことが必要となります。

時には、大勢の人たちが進むべき方向、取るべき行動を変えなければならないこともあります。

実はこれを可能にする能力、それが人類を生態系の頂点に押し上げ、圧倒的なスピードで変化し続けることを可能とした能力です。

その能力とは、「物語」を語り、共有し、さらにそれを変化させる能力です。

自然界に生息するチンパンジーの群れは、多くて20~50頭だと言います。

これはボス猿が、直接のコンタクトで自分の力を見せつけ、信頼関係を築くことが出来る物理的なサイズの限界なのだそうです。

一方、私たち人類は、およそ7万年前に言語を扱う能力を手に入れました。

言語は膨大な量の情報を扱うことを可能にします。

それは、互いの噂話をするために発展してきたと言います。つまり、誰がどんな人で、誰が信頼でき、誰がずるいのか、誰と組めるのか。複雑でより緻密な情報を操りながら、より大きな集団が形成できるようになりました。

更に、言語はまったく存在しないもの、つまり「架空の事物」について語り伝達することをも可能にしました。

それが伝説や神話であり、宗教、国家、法人です。

言語は、物理的には存在しない概念や、物語を創造し、伝達することを可能にしたのです。

そしてこの「共通の神話」が、無数の見知らぬ人同士が力を合わせ、共通の目的に向けて精を出すことを可能にしました。

変化させることが出来る物語

「物語」には、もう一つのことを可能にする力があります。

『ホモサピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリはこう言います。(※1)

「言葉を使って想像上の現実を生み出す能力のおかげで、大勢の見知らぬ人どうしが効果的に協力できるようになった。だが、その恩恵はそれにとどまらなかった。人間どうしの大規模な協力は神話に基づいているので、人々の協力の仕方は、その神話を変えること、つまり別の物語を語ることによって、変更可能なのだ」

人類は7万年前まで、とてもゆっくりとしたペースで変化してきました。それはDNA自体の変化や、環境変化によって引き起こされました。

しかしひとたび「物語を扱う能力」を手に入れると、その物語を変化させることによって、集団や組織として目指すべき方向や、そのために取るべき行動を柔軟に、そして圧倒的なスピードで変化させることが出来るようになったのです。

目まぐるしく変化する環境の中で、企業が変化し、進化し続けられるのは、「共有する物語」を変化させることが出来るからなのです。

21世紀型組織の物語

言語を手に入れてから7万年、21世紀の経営者たちはどんな物語を語っているのでしょうか。

『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』の著者 佐宗邦威氏によると、20世紀型の組織は、一言で言うと「囲い込み」を価値創造の拠り所にし、21世紀型の組織は「呼び込み」を価値創造の拠り所にしています。(※2)

20世紀型は、自社内で知的財産や技術を独占し、内側にいる従業員を会社色に染めることに重きが置かれてきました。ここでは、自社がどこでどのように戦うか、WhatやHowが語られてきました。

これに対して、21世紀型の組織はネットワーク化された環境下で成り立ち、社員たちは組織に全てをささげるという価値観で仕事をしているわけではありません。

そのため、価値観が一致する多種多様な人材を採用しながら外部のパートナーや顧客を巻き込む必要があります。そして、組織外への求心力を効かせ、一人ひとりの行動を促進するために、自らの存在意義や使命、強い目的意識など"Why"がまず語られるようになってきています。

世界的大企業のLEGOグループは、"Inspire and develop the builders of tomorrow"(ひらめきを与え、未来のビルダーを育もう)というミッションを掲げ、自らの物語を語ります。

同社にとって、「グローバル展開」の動機はレゴを知らない何百万人の子供たちにブロック遊びを体験してもらうことを意味します。

「投資やイノベーション」の動機は新製品の開発ではなく、遊びを通して学ぶ楽しさをより多くの子供たちに体感してもらうこと。

存在意義のWhyを中心に置くことで、彼らの物語は社員のやる気を高め、多くの関係者を巻き込む力を発揮しているのです。

新しい物語を共有する

冒頭に登場した経営幹部の方は、新しい未来に向かって進むためには、自らが物語を磨き、それを共有し続けることが必要だと言います。

そして社員一人ひとり、パートナーや顧客も「共通の物語」を信じ、共鳴し、新しい行動に移れるようになるには、それぞれが自分の物語として語れるようになるまで、共に語り続ける必要があるのだと言われていました。

今、私たちは歴史の転換点に立たされています。

目指すべき未来も、組織の在り方も、働き方も、手を組むべき相手も、力の合わせ方も大きく変化しようとしています。そして変化できた者だけが、この転換点を乗り越え、さらなる成長を手にすることが出来るのだと思います。

これを可能とするためにも、新しい「物語の創造」が必要になってきています。

新たな目標を定め、その道のりを示す戦略を語り、行き先を指さして進め、という「物語」ではありません。

関係者一人ひとりのエネルギーが沸き上がるような、自らが考えることで新しい行動が起き、多種多様な人たちの新しい力の合わせ方が可能となるような「物語」です。

そのため、新しい「物語」は、自らの存在意義や使命を語ることが求められています。

ありきたりな言葉の並べたてではなく、関係者一人ひとりのハートに突き刺さるような物語を創造し、語り、そしてそれぞれの物語として共有する必要があるのです。

あなたは、誰にどんな物語を語りますか?

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【参考資料】
※1 コヴァル・ノア・ハラリ著、『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』、河出書房新社、2016年
※2 佐宗邦威、「組織の『存在意義』をデザインする」、ハーバード・ビジネス・レビュー、2019年3月号
※ "5 ways to lead in an era of constant change"
JIM Hemerling,TED

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