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沈黙の壁を破るためにできること

沈黙の壁を破るためにできること
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令和という新しい時代を迎えると共に、私は上海に駐在し7回目の春を迎えました。

平成という時代を振り返ると、平成元年には、世界時価総額ランキング上位50社のうち、日本企業は32社ありました。それが平成30年には1社となっています。

一方、中国企業は平成元年には0社だったのが、平成30年には7社が上位50社入りしています。(※1)

中国企業の成長と台頭が目覚ましい中、日系現地法人のリーダーにとって、中国市場で生き残る組織づくりは重要なテーマの一つになっているのではないでしょうか。

日系現地法人のリーダーからは、次のような声を多く聞きます。

  • 中国市場を知る中国人社員がより主体性を発揮する組織にしたい
  • 中国人社員が過去のやり方に縛られず、自ら創造性を発揮できる組織にしたい

中国市場での成長の鍵を握るのは中国人社員であり、彼ら自身に声を上げて欲しい、そして主体的に実行して欲しいと考えているのでしょう。

山で遭難するパーティーとしないパーティーの違い

先日、組織で「声を上げない」という状態に相通じる話を、山登りを趣味にしている友人から聞きました。

山登りシーズンになると遭難事故のニュースが増えますが、その原因で最も多いのは道迷いで、山岳遭難の約40%を占めるそうです。(※2)

友人の話はこんな話でした。

「どんなパーティーでも、大動物の踏み跡が作る獣道など、登山道ではないルートに入り込んでしまうことがある。

この時、パーティーの中に『この道はおかしいのではないか?』と感じるメンバーがひとりはいる。遭難しないパーティーでは、『おかしいのでは?』と思ったメンバーが声を上げ、リーダーに伝えている。

するとリーダーは立ち止まって地図を広げ、コンパスを手に今どこにいるのかを確認する。そして、ルートを修正して頂上を目指す。

一方、遭難するパーティーは、『おかしい』と思ったメンバーが声を上げず、そのまま進んでしまう」と。

せっかく「おかしい」と感じながらも、声を上げないのはなぜでしょうか? それは、無意識のうちに潜んでいる「あたり前」が影響しているのではないでしょうか。

  • このリーダーに従っていれば間違いない。
  • ルートの決定や判断はリーダーの役割である。
  • 他のメンバーの役割範囲には口を出すべきではない。
  • KYな発言はチームワークの乱れに繋がるからすべきでない。
  • 危険な時こそ、メンバーは従わなければならない。

こうした「不文律」は、組織のレベルでも、個人のレベルでも、大小さまざまに存在しています。

組織に潜む、個人の不文律

ハーバードビジネススクール教授のレスリー・パルローは次のように語っています。

「沈黙の壁を突破するために、所属する組織の不文律を破らなければならない場合がある。言わば、標準から逸脱した行為が必要とされるのである。(中略)実のところ逸脱は創造的な行為であり、新しいやり方を模索し、開発する手段でもある」(※3)

同じことが、個人レベルでも言えるのではないでしょうか。

私は昨年、中国人部下のひとりAさんに、採用リーダーをアサインしました。アサインするや、Aさんは採用条件や求める人材像一つひとつを私に確認してきました。

Aさんは、決まったルールや与えられた条件の中で候補者を探すことが自らのミッションだと考えていたようです。

しかし私は、中国で事業を拡大していく一員として、Aさん自身に採用戦略を考えて欲しいと願っていました。そこで、「Aさんなりの採用ビジョンを作成してほしい」と伝えました。

Aさんは、腑に落ちない表情をし、不安があるように私は感じました。

そこで、

「どんなオフィスにしていくか、どんな人たちと働きたいか、そもそも正解も不正解もないよ」と伝えた上で、質問しました。

「Aさんは3年後、5年後に、どんな会社にしたい?」

表情は変わらず、むしろ私に「どんな会社にしたいんですか?」とブーメランのように質問を返してきます。

そこで、まずは「私が描く会社の将来像」を話しました。

会社の規模、人数、働き方、オフィスの場所、どんなお客様とコーチングに取り組んでいるのか、組織のあり方はどのように変わっているのか...。

夢物語のようなことも話しました。そして、私の話したことにフィードバックをしてもらうことにしました。

Aさんが徐々に話し始めたため、私は黙って聞く側に回りました。

次に私は、Aさん自身が「Aさんの会社の将来像」を描くことを意識し、質問を続けました。

「Aさんは3年後、5年後に、どんな会社で働いていたい?」
「Aさんは、その会社でどんなメンバーと働きたい?」
「そのイメージと現状を比べると、何が足りないと思う?」

対話を続けるうちに、Aさんの表情が変わっていきました。そして、覚悟を決めたように「採用ビジョン、自分で作ってみます」と強く言ってくれたのです。

それ以降、Aさんからの質問は大きく変わっていきました。まず、自分の考えを話してから、私の意見を聞くようになったのです。

お互いの考えや意見が異なることもたくさんありましたが、「共に考える」ことを繰り返しました。また、Aさんが普段の仕事のシーンでも自分の思いや考えを周囲の人たちに話すことへの抵抗が薄くなっていくことが伝わってきました。

こうして、Aさんが主体的に考え、お互いに知恵を出し合いながら進める新しい採用活動が始まったのです。

後にAさんはこう言っていました。

「自分が会社の採用ビジョンを考えていいだなんて、思ってもいなかった。だけど、自分で考えることは、とても、面白い」

「自分はビジョンなど考えてはいけない」という不文律がAさんの中にあったのです。

文化的、社会的背景が異なり、また、ジョブホッピングが一般的な中国では、一人ひとりの社員が様々な不文律を持ち寄った組織になりやすいのではないでしょうか。

あなたの組織の中、社員の中には、どんな不文律が潜んでいるでしょうか?

そして、その不文律を破らせる環境をどうやって作りますか?

「見えない不文律」があることを認識し、破壊していくには一人ひとりとの対話が近道かもしれません。

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【参考資料】
※1 「昭和という『レガシー』を引 きずった平成30年間の経済停滞を振り返る
ダイヤモンドオンライン(2018.8.20)

※2 警察庁「平成30年夏期における山岳遭難の概況」

※3 "Is Silence Killing Your Company?"
Harverd Business Review, May 2003

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