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あなたの組織に最適なネットワークはなにか?

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あなたが、もっとも多くの時間を共に過ごしている5名は誰でしょう?

家族、同僚、友人...。

どんな人たちの顔が浮かびましたか?

「人は、周囲の人たちから多大な影響を受けている」

アメリカの起業家ジム・ローンは、このことを「あなたは、あなたがもっとも多くの時間を共有している5人の平均である(You're The Average Of The Five People You Spend The Most Time With.)」という言葉で表現しました。

言葉の解釈には幅があるかと思いますが、私は「人は、周囲5人の人たちの特徴をいくらか兼ね備えるようになるものだ」という意味でとらえています。

実際、「上司に毎回質問されるうちに、自然と自分で考えるようになった」といった話を聞くと、ジム・ローンの言葉を思い出します。

私たちは、周囲の人からどんな影響を受けているのか?

「周囲の人から多大な影響を受ける」ことについては、研究もおこなわれています。

社会的なネットワークを研究しているハーバード大学のニコラス・クリスタキス教授の調査結果には次のようなものがあります。

「直接つながっている人(たとえば、友人)が幸福だと、あなたも約15%幸福になる」

同教授は、「年収が100万円増加した場合の幸福度の上昇は2%」というデータも示していますので、15%という数字が、いかに大きいかが分かります。

さらに、調査には続きがあります。

「直接つながっている人の次の人(友人の友人)が幸福だと、あなたは約10%幸福になる。

また、さらにその先の人(友人の友人の友人)が幸福だと、約6%の効果がある」

つまり、あなたは「直接には知らない誰か」の影響をも受けているということです。

人が集まれば、そこにはつながりのネットワークができます。企業は、多数の人が集まる巨大なネットワークであり、人はその中で互いに強く影響し合っています。

では、個人間のネットワークは組織のパフォーマンスに、具体的にどんなインパクトをもたらしているのでしょうか。

ネットワークを左右する、二つの変数とは?

カルフォルニア大学のポール・レオナルディ教授らは、人と人の相互作用に焦点をおいて組織活動を分析するリレーショナル・アナリティクスと呼ぶ研究を行っています。

たとえば、「効率的」に業務を遂行できるチームは、どんなネットワークなのでしょうか。研究によって、2つの変数が突き止められました。

1つ目は、内部密度(internal density)。これはメンバー間の相互作用と連携の量を表します。

2つ目は、外部範囲(external range)。これは、メンバーが外部に持つ人脈の大きさを意味します。

「効率的なチーム」は「内部密度が高く、外部範囲が広い」というネットワークの特徴を持っていました。

つまり、チームメンバーは信頼し合いコミュニケーションが多く、各メンバーがそれぞれ独自の人脈で外部にアプローチし、必要なリソースを確保できるということです。このようなチームは一般的に優れたチームと考えられます。

一方、「イノベーションを起こすチーム」の成功条件は違うものだったそうです。

まず、「外部範囲」は広い方がイノベーションにつながります。イノベーションには多様なアイデアが必要で、支援や支持を受けとるために外部のネットワークが有効だからです。

一方、「内部密度」は低い方が良いのだそうです。なぜなら、イノベーションを起こすには、意見の相違や議論といった創造的摩擦が必要であり、相互作用が多いと考えが似通ってイノベーションに必要な対立が少なくなってしまうからです。

こうしてみてくると、「組織活動に理想的なネットワーク」というのがある訳ではなく、効率性やイノベーションなど、目的によって求められるネットワーク像は変わるということがいえるのです。

「イノベーションを起こすチーム」について、レオナルディ教授は米国拠点の大手自動車会社の製品開発センターでも調査を行っています。

この会社では、イノベーションを起こすために、メンバーのバックグラウンドが多様になるよう、慎重に人選してチームを作っていました。しかし、インドに新設されたセンターは、同じ年代でバックグラウンドの似通ったマネジャーを集めることしかできませんでした。

ところが、このインドチームはメンバーが遠慮なく議論を戦わせるなど、「内部密度が低く、外部範囲が広い」ネットワークをつくっていったのです。そして3年間、他のどのセンターよりも多くのイノベーションを生み出したそうです。

組織開発に「ネットワーク」の視点を入れる

企業内のネットワークは、組織の成果に大きく関係しています。

ところが、現在の日本の会社では、個人に目を向ける機会が多いのではないかと感じます。

年度末には個人の成果を評価し、個人の強みやキャリアについて面談や1on1で話される機会が多くあります。多くのリーダーは、プロ野球選手名鑑のようにメンバーの個人特性を把握しているのではないでしょうか。

では、「メンバー間のネットワーク」に目を向けるとどんな状態になっているでしょうか?

連携の良さ、建設的な対立、外部との接触頻度...。

そこには、選手名鑑には書かれないチームワークや師弟関係があるはずです。

もちろん、そのネットワークにはあなたも含まれています。あなたも、身近な人から多くの影響を受けているでしょう。

あらためて考えると、あなたが会社で最も長く一緒に時間をすごす5人は誰なのでしょうか。さらに、「その先」の5人は誰でしょう?

頭に浮かんだ顔で描いたネットワークはどんな特徴を持っているでしょうか。

描かれたネットワークからは、これまでに見えなかった視点が立ち上がってくるかもしれません。さらに、ネットワークの一員であるあなたがアクションを起こせば、その影響は全体に波及し、組織の開発につながっていくのではないかと思います。

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【参考資料】
・ニコラス・A・クリスタキス(著)、 ジェイムズ・H・ファウラー(著)、 鬼澤 忍(翻訳)、『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』、講談社、2010年
・ポール・レオナルディ、ノシャー・コントラクター、「社員の関係性を可視化するーピープルアナリティクスで人事が変わる」、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、2019年 6 月号

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