Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「1on1」の組織浸透に大事な、たった1つのこと
コピーしました コピーに失敗しましたここ数年、「1on1ミーティング」を積極的に活用する企業が増えています。
取り組み成果を実感しているという声もある一方で、なかなか効果が実感できない、組織浸透しない、という声もよく耳にします。
コーチ・エィは、経営幹部への「1on1」のエグゼクティブ・コーチングを起点に、組織全体の変化を創り出すコーチングの専門集団です。私自身も、サービスを提供する中で、コーチングを通じて組織内のコミュニケーションの量や質が変わり、コーチングそのものが組織に徐々に浸透していく様子を度々目にしてきました。
「1on1」の組織浸透に必要なものはなにか?
5,000人を超える組織に「1on1ミーティング」の浸透を推進しているA氏がいます。
この組織では、2年前に経営チーム主導の施策として「1on1ミーティング」を開始しました。
1on1ミーティング導入のきっかけは、トップであるA氏が自らエグゼクティブコーチをつけたことです。
コーチングの最中、やおら、A氏の顔色が晴れた瞬間が訪れました。
「ああ、何か分かったぞ。
こうやって話すことで頭が整理され、
本当に大事なことに自分で気づくのかもしれない。
上層部から一方的に伝えられただけじゃ、社員に"本当"には伝わらないんでしょうね...
自分で考えて、気づかないと、自分のものにならない。
こういう時間が、部下たちにも必要なんだろうなあ...」
A氏は、自分の想いが現場になかなか浸透せず、小さな事故が減少していかないことに長らく悩んでいました。
コンサルティング等、数々の施策を大規模に導入したものの、何をしてもリーダーたち自身の意識は変わっていかなかったのです。
どんなに伝えても伝わらない。
そんな葛藤の中、A氏はコーチとの対話によって「理解が深まり、ものの感じ方や見方が変わっていくプロセス」を体感したようでした。
自分がコーチングで体験した一連のプロセスを部下にも提供したい、そう考えたA氏は、コーチの対話を真似しながら、経営チームのメンバー6人それぞれと、定期的に「1on1ミーティング」を始めたのです。
社長が経営陣と「1on1」を実施した、その効果とは?
まずA氏は、文字通り「コーチのやり方」を真似て1on1をスタートしました。
経営メンバーである6人の部下が自分で考え、話をしながら気づいていくように、とにかく、真剣に話を聞き続けました。
2週間に1度、一人あたり30分の「1on1ミーティング」を通じて、次第にA氏と6人それぞれとの間に、経営に関する理解、共感が醸成し始めました。
そして、徐々に経営の課題を「共に解決できる」チームに生まれ変わっていったのです。
2か月が経過する頃、面白い現象が起こりました。6人が、自ら部下たちに「1on1ミーティング」をしはじめたのです。
そして、本格的に「コーチングスキルを身につけたい」と要望し、プロのコーチをつけることになりました。
その後、翌年の経営計画では、彼らが自主的に実践した「1on1ミーティング」を、組織全体の施策として全社展開することが総意で決まりました。
社員一人ひとりが、自らの役割認識を深め、成長の視点を得る機会として、組織に正式に採用されました。
開始から2年経ち、Aさんと経営陣の間の「1on1ミーティング」は今なお継続されており、現場での実施率も9割を超えているそうです。
「1on1ミーティング」の組織浸透に大事な、たった1つのこと
「1on1ミーティング」を組織浸透させる上で、本当に大事なたった1つのことを挙げるとすれば、何なのでしょうか?
それは、組織のリーダーたちが、自ら熱意をもって、目に見える形で実践し、信じてやり続ける、そしてその姿を具体的に見せること。
それが、最も嘘偽りなく、組織の向かう方向を示し、現場での実践を促進する方法なのではないでしょうか。
「1on1ミーティング」と、エンゲージメントとの関連性が、議論されることが多くあります。それについては、ギャラップ社の調査が興味深い研究結果を示しています。(※)
- 「エグゼクティブ・チーム」が、高いレベルで「エンゲージ」しているとき、その会社の「マネジャーたち」の「エンゲージメント」が高い可能性が39%上がる
- そして、「マネジャーたち」が、高いレベルで「エンゲージ」しているとき、「社員たち」の「エンゲージメント」が高い可能性は59%上がる
- 日々の「エンゲージメント」を促す行為は、上司あるいは、チームメンバーのパフォーマンスと開発に対して、「コーチングをする責任を持っている人」を通して浸透していく
「1on1ミーティング」の実施とその価値の浸透も、エンゲージメントの浸透と同様、組織リーダーたち自身の実践と継続を通じて浸透していくのではないでしょうか。
さて、「1on1ミーティング」が制度として導入されているにも関わらず、実施率が低かったり、実際の活用がされていなかったりするケースも多いと思います。
これまでの考察を踏まえると、もっとも検証する価値があるのは、経営幹部層での「1on1ミーティング」の実践ではないでしょうか?
A氏に限らず、エグゼクティブ・コーチングをしていると、多くの経営幹部の方が、「自分がコーチングを受けて、はじめて対話することのイメージが持てた」と話されます。
まずは、経営幹部自身、場合によっては社長自身に、良質な「1on1ミーティング」を体験する時間が必要なのかもしれません。
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参考資料
※Jim Harter, Who Drives Employee Engagement -Manager or CEO?
November 4, 2015
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