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あなたは自分に失敗を許しているか?
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新しいことに挑戦しないのは、もはや企業にとって停滞どころか衰退を意味する、そんなことをお客様先でよく耳にします。
また、社員がこれまでにない行動や挑戦を起こさない、と頭を抱える経営者の方も少なくありません。
頭では分かっている「挑戦」。
思い描いたように生まれない「行動」。
これを解くカギはどんなところにあるのでしょうか。
「挑戦」とは何者なのか?
今、お客様と一緒に「挑戦」をテーマにしたプロジェクトに取り組んでいます。
現場の社員一人ひとりから沢山の新しい挑戦が生まれる組織にするため、各組織のトップ自らが部下たちとコーチングを活用して対話するプロジェクトです。
「挑戦」というテーマへの理解をより深めようと、私はこのプロジェクトを担当するコーチたちと、自分たちにとっての「挑戦」について話してみました。
すると、「挑戦」という言葉の定義や、クライアントにとっての挑戦に関する話は沢山出てくるのですが、「自分にとっての挑戦」になると、あまり意見が出てこないことに気づきました。
私自身も、自らの挑戦について考えると、若干思考停止が起きる感覚です。
「挑戦」を辞書で引くと、
- 戦いや試合を挑むこと
- 困難な物事や新しいことに立ち向かうこと
と出てきます。
改めて考えると、何かしら特別な覚悟をもってのぞまなければならない、そんな印象のする言葉です。
「挑戦」という言葉を前にすると、私たちの頭の中では何が起きるのでしょうか?
思考が生み出す自己規制ブレーキ
「Eyes wide open」の著者、Isaac Lidsky氏はTEDの講演で、人は自分の知らない未知なることに対して、次の様な思い込みをする傾向があると言っています。
- 先入観を持ち込む
- 憶測して、理論を飛躍させる
- 達成できない完璧を求める
- 自分が正しく、相手が間違っていると考える
- 最悪を恐れる
- 出来ることと、出来ないことを自分で決めてしまう
経験したことのないことについて思考する時、私たちは起こり得ないフィクションを頭の中で作り出し、無意識に不安や恐れを抱くのだそうです。
そして、その不安を回避しようと「自分ができるのはここまで」と勝手に限界を作り出し、確実に対応できる方を選択してしまいます。
つまり、私たちは知らず知らずのうちに「自己規制」というブレーキを踏んでいるのです。
「挑戦者」の視点とは?
では「挑戦する人」は、どんな意識を持っているのでしょうか。
学生時代アメリカに住んでいた私は、挑戦者というと、反射的に野茂英雄選手やイチロー選手を思い浮かべます。
「挑戦者」としてメジャーリーグにやってきた二人の活躍する姿に、いつも励まされるような思いがありました。
イチロー選手は、84分に及ぶ引退会見で、「成功したことは?」と聞かれ、「成功したかどうかはよくわからない」と答えたうえで、メジャーへの挑戦についてイチロー選手ならではの視点で語りました。
「メジャーリーグに挑戦するということは大変な勇気だと思うんですけど、あえて成功と表現しますけど、成功すると思うからやってみたい、それができないと思うから行かないという判断基準では後悔を生む。やってみたいなら挑戦すればいい。その時にどんな結果が出ようとも後悔はない。基本的にはやりたいと思ったことに向かっていった方がいいですよね」
「やってみたいから挑戦した」、つまり「やって成功するのか?」といった思考で自己規制のブレーキを踏むことはなかったようです。
「野球がうまくなりたい」と言って海を渡った大谷翔平選手にも同じものを感じます。
自己規制を回避する方法
「やってみたいから挑戦する」
これは挑戦への一番の近道と言えそうですが、特別なアスリートでない私たちが自己規制のブレーキを踏まないためには、どんなことが出来るでしょうか。
例えば、会議で、上司や他の参加者と明らかに異なる意見を持っていたとします。それを発言することも、普段やっていないことなのだとしたら、ちょっとした挑戦です。
「これを言ったらどうなるだろう?」
そんな思考が頭の中で始まると、大抵は「言ったらこんな風に思われる」「こんな反発がある」「いま言わなくても別の適切な場があるに違いない」「そもそも言わない方がいい」等々、自己規制のブレーキが踏まれ、気づけば発言の機会を失っているなんてことはないでしょうか。
未知なることへの不安が始まると、実は、多くの挑戦が始まる前に終わってしまいます。
私は「未知なることへの思考」が始まると、「戦いを挑む時だ」と思うようにしています。
その相手は、自分自身。
そして、戦いの挑み方は、「自分に失敗する許可を与える」というアプローチです。
「勝つ」とか「誰かの期待に応える」といったことを意識すると、「負け」や「期待に応えられない」ことを失敗と捉え、恐れてしまいがちです。
前職時代、ある上司に「君は成功だけではなく、挫折もするべきだ」と言われたことがありました。その上司が率いる組織は、前例のないことをいくつも実施し、経営の立て直しに貢献していました。
この上司の一言は、私が自分に「失敗する許可」を与える後押しをしてくれました。
失敗から学べることがある、失敗の積み重ねの上にある成功もある、そんな視点を開き、自分のブレーキを解く助けをしてくれました。
「挑戦」を掲げるプロジェクトでは、「失敗の数」をプロジェクトの成功指標に加えたいという提案がありました。
成功にだけ目を向けるのではなく、その裏で積み重ねられる失敗にも目を向けるべきだというのです。
この視点も、組織メンバーが自分自身にかけているブレーキを緩める助けとなると考えます。
あなたは、ご自分、そしてチームメンバーのブレーキをどれだけ緩めることが出来ていますか?
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【参考資料】
・ アイザック・リッズキー
「あなたはどんな現実を生み出しているのか?」
・ティナ・シーリグ(著)、Tina Seelig(原著)、高遠 裕子(翻訳)、『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』、CCCメディアハウス、2010年
・シーラ・エルワージー(著)、伊藤守(監修, 翻訳)、城下真知子(翻訳)、『内なる平和が世界を変える』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、
2016年
・W.T.ガルウェイ(著)、後藤新弥(翻訳)、『新インナーゲーム』 、日刊スポーツ出版社、2000年
・ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー(著)、池村千秋(翻訳) 、『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』、英治出版、2013年
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